第410話 満足する料理!

 晩餐会から戻って来たルーカスは、かなり上機嫌だった。

 トレディアが前日に、シャレーゼ国の料理人に向けた挨拶とは全く異なっていた事もそうだが、食事をしていた者達の『見て楽しみ、食べて驚く』といった状況に満足したそうだ。

 特に最後に出した綿菓子に関しては、シャレーゼ国の国王ウーンダイが「蜘蛛の糸をこの場に出すとは!

 」と怒っていたそうだが、ルーカスが「蜘蛛の糸では無い」という事を教える。

 美味しそうに食べるルーカス達を見て、恐る恐る他の者達も食べ始める。

 口に入れた瞬間に溶けて無くなる触感は、食した誰もが衝撃だったようで、綿菓子を次々と口に運んだ。

 文句を言っていたウーンダイだったが、一口食べてからは何も言わなかった。


「オーフェン帝国も、シャレーゼ国も我が国の力に驚いておるわ」


 飛行艇で技術力、晩餐会で豊かな食事を出す事でエルドラード王国の力を、他国に示す事が出来た事を言っているのだろう。

 最後まで手を抜かずに、料理と真摯に向かい合ったビアーノ達料理人は流石だと思った。

 明日の最終日に、オーフェン帝国がどのような料理を出してくるかが楽しみだ。

 今頃、今夜の料理に対抗するべく慌てて、対策を練っているだろう。

 それはそれで、より美味しい料理を食べれるルーカス達が羨ましかった。


 今夜、料理を出したことでビアーノ達は、エルドラード王国に戻る事になる。

 【転移】で王都に戻す事も考えたが、飛行艇でゆっくりと帰るのも良いかと思い、ルーカスに提案する。

 警護も問題無い為、俺の提案を受け入れて貰えた。


 ビアーノとカルアを引き連れて、飛行艇まで行く。

 明日の朝でも良いかと思ったが、警護の関係上で今夜、出発する事になる。

 ビアーノ達も空から景色が眺めると言うので、喜んでいた。

 料理人は十人だが、十分に乗れる大きさなので問題無い。

 ユキノも行くと言っていたが、居なくなると大騒ぎする可能性もあるので、オーフェン帝国に残る。


 飛行艇の【結界】をカルアに解除して貰って、飛行艇に乗り込む。


「じゃあ、行って来る」


 カルアに挨拶をして、出発をする。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 夜に空からみる地上は、昼と違い物凄く綺麗だった。

 ビアーノ達も感動している。

 小さな灯りが集まり、そこが街だと認識出来る。

 見たことのない者からすれば、幻想的な風景に見えるだろう。

 今度、四葉商会の従業員や四葉孤児院の子供達にも見せたいと思う。

 飛行艇を作る所から始めないといけないが……。


「本当に綺麗ですね」


 俺が一人で操縦しているのを気に掛けて、ビアーノが声を掛けてくれる。


「そうだな。夜の空から地上を見下ろしたのは、ビアーノ達が一番最初だな」

「国王様達もまだなのですか?」

「あぁ、飛行するのは昼間だけだったからな」


 ルーカス達が帰国する際は、夜にしようと思う。

 地上を見ていたら、ビアーノに聞きたかった事を思い出す。


「ビアーノは、米という食材を知っているか?」

「はい。オーフェン帝国の主食ですよね」

「ビアーノ達は、あまり使わない食材なのか?」


 ビアーノは、流通が限られている為、高いという事や、米を美味しいと思う調理方法が知られていない。

 庶民の食べ物では無く、かといって貴族も好んで食べる物でも無いと教えてくれた。


「タクト様は、米料理が好きなのですか?」

「そうだな。米料理は好きだぞ」

「タクト様であれば、私達の知らない米料理を食べさせて頂けそうですね」

「いやいや、それはビアーノ達料理人の仕事だろう」

「確かにそうですね。今度、米料理を作った際は試食して欲しいですね」


 今のビアーノとの会話で、面白い事を思い付いた。


「仕事に影響が無い程度で良いので、料理人達が自分で考えた米料理を、俺に食べさせてくれないか?」

「どういう事ですか?」


 俺はビアーノに、王国専属料理人達が各々考えた料理を、食べさせて欲しい。

 すぐという訳では無い。

 例えば、一か月でどこまで美味しい米料理が作れるという事だ。


「成程、それは面白いですね。料理人の発想力と腕が試されるわけですね」

「そうだな。ただし、通常の仕事に影響が無い前提だからな」


 ビアーノは俺の提案に乗り気だった。

 そもそも、総料理長のビアーノは定期的に、城での調理経験年数に応じて、料理人に課題料理の与えた試験を行っている。

 試験に受かれば、受け持てる調理場が増えるという事になる。

 ただし、それだと経験が浅い料理人は、なかなか試験を受けられないでいる。


「俺のはビアーノの試験とは関係ないからな。高級食材を使ったからと言って、旨くなるとは限らないしな」

「そうですね。私も食べる側で、楽しませて貰っても宜しいですか?」

「あぁ、別に構わないぞ」


 ビアーノも審査する側で、料理人達の成長を楽しむらしい。


「優勝者には、俺から報酬も出すぞ」

「えっ! そんな良いんですか?」

「俺からの提案だからな。もう一度言うが、仕事の支障にならないのが条件だからな」

「分かりました。米はこちらでも購入出来ますので、問題ありません」

「練習に使う米も、一定量なら俺が持つ。だから、請求は俺に回してくれ」

「はぁ……しかし、王都で購入している物ですので、請求を分ける事が出来るかは、申し訳ありませんが私では分かりかねますね」


 確かにそうだな。あとで、大臣に聞いて担当が異なるのであれば、頼んでみるとする。

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