第398話 湖の浄化!

 数か月前に、湖を魔法士風の人間族の男性が訪れる。

 周りに人影が無い事を確認すると、湖に何かを放り投げた。

 暫くすると、湖の様子が一変する。


「さて、私を楽しませてくれよ」


 魔法士風の人間族の男性は、そう言い残して、その場を立ち去って行った。

 湖には濃い霧が発生して、魚や湖に生息していた生物が次々と、死んでいく。

 この湖に居た、名も無い下級精霊は、その様子を見ていた。

 魔素の影響だと分かったが、自分では何も出来ない為、上級精霊であるミズチに湖の異変を知らせる。

 連絡を受けたミズチは、湖に到着するとすぐに異変に気が付く。

 丁度、湖の魚を取っていた村人を発見し、湖の魚は危険だと判断して、漁の妨害をする。

 湖の底にある黒い玉が原因だと分かったが、ミズチ達精霊では触れることさえ出来ないでいた。

 その後も、漁に来る者達を妨害していて、被害が拡大しないようにしていた。

 この霧にも多少の魔素が含まれているの、人払いをする為に波を起こしたりもしていた。


「この辺りの動物達を守る事が、出来ませんでしたが……」

「それは、野犬の事か?」

「はい、そうです。この奥には猪や、鳥等も同様に魔獣化してます」

「……村を襲うのも時間の問題って事か?」

「はい。それ以前に、魔獣化したもの同士で争う事もあります」

「この湖の水を飲んでいるのも影響しているのだろう?」

「はい。水分を取れるのは、この湖だけですから」


 確かに、ミズチの言うとおりだ。

 この付近に生息する動物達には、この湖は貴重な水飲み場なのだろう。


「それで、俺が魔素の原因を取り除く事には、問題無いんだな」

「はい。是非とも御願い致したいのですが、可能なのですか?」

「いや、分からん」

「えっ!」

「やってみないと分からんと言う事だ。とりあえず、湖の底に潜る」

「……申し訳御座いませんが、貴方が魔人化しても、私としては責任取れません」

「あぁ、自己責任なのは分かっている」


 しかし、樹精霊ドライアドは草木に触れるだけで、情報が読み取っていたが、水精霊ウンディーネは水に触れた俺の情報を読み取っていないようだ。


「とりあえず、潜ってみる」


 俺は【魔力探知地図】を使って『黒い玉』と言われている物の場所を、特定出来るかを確認してみる。

 魔力を探知出来たみたいで、場所の特定は出来た。

 その場所まで移動して、一気に潜る。

 身体能力が高いのか、苦しくもならずに底まで着く。

 一目で『黒い玉』だと分かる物体を発見する。

 俺は、それを手で掴み【アイテムボックス】に仕舞う。

 仕舞う際に、湖の水も入ったのか気にはなったが、とりあえず【転移】で湖面に出る。


「魔素の原因の黒い玉は、撤去したぞ」


 湖面で待っていたミズチに告げる。


「えっ! そんな、潜って数分ですよね」

「あぁ、そうだ」


 濃かった霧が徐々に薄くなっていく。


「次は、湖の水を元に戻す」

「……そんな事も出来るのですか?」

「あぁ、任せておけ」


 湖の水に触れ【浄化】を使い、湖の水を綺麗にした。


「後は、この湖にいる魔素で変化した魚等を討伐すれば、終わりか?」

「は、はい」


 【魔力探知地図】で、該当の生物を探し出しては、討伐を繰り返した。

 最後の一匹を討伐し終える。


「これで終わりだな」


 ミズチは水面に触れて、俺の言葉に間違いないかを確認する。


「……こんな短時間で」


 ミズチが驚いていると、小さな光がミズチの周りを回っていた。


「……その光も、魔素の影響か何かか?」

「いいえ、この光は湖の異常を知らせてくれた精霊です」


 どうやら、形を定める事が出来ない程の精霊なのだろう。

 しかし、この黒い玉を湖に放り投げた者は、ガルプツーもしくは、その仲間なのは間違いないだろう。


「あっちで、俺の仲間が居るから戻るけど、ミズチはどうする?」


 精霊であれば、人目に付くのを嫌がるかも知れないと思い、気を使ってみる。


「そうですね。貴方が仲間というのであれば、その方々達にも御礼を言わないといけませんね」


 思っていたより、律儀な性格のようだ。

 ミズチを連れて、アスラン達の所に戻る。


「タクト、色々と聞きたい事があるが、まずその隣の女性は誰だ」


 ミズチを見て戸惑うアスラン達を横目に、まずトグルが話し始めた。


水精霊ウンディーネのミズチだ」

「初めまして。今回は、湖を救って頂いてありがとうございます」


 礼を述べると頭を下げた。

 俺は、湖の経緯や、現在の状況を説明する。


「……俺達は何もしていないだろう」


 トグルが不満を口にする。


「あれ、もしかしてエターナルキャットですか?」


 シロに気が付いたのか声を掛ける。


「お久しぶりです。ミズチ様」


 シロはミズチに挨拶をする。

 どうやら、シロとミズチは顔見知りのようだ。


「何故、聖獣である貴女が此処に居るのですか?」

「今、私はシロと言う名を頂き、隣に居られるタクト様に御仕えしております」

「貴女に名を与えたですって!」


 ミズチは信じられない顔で俺を見る。


「はい。それとパーガトリークロウの方にも、私同様に名を付けて頂いております」

「パーガトリークロウにも名を与える……」

「何か問題でもあるのか?」


 驚くミズチに話し掛ける。


「タクトと言いましたかね。貴方がそのような凄い人族だったとは……」


 なにやら考え込んでいる。


「まぁ、私の伴侶になる資格は十分にあるようですね。貴方の妻になってあげますわ」


 ……何を突然、言い始めたんだ?


「断る!」

「えっ!」


 断られると思っていなかったのか、予想外の答えにミズチは戸惑っていた。


「上級精霊である私と、婚姻関係を結べるのですよ」

「そんな事は関係ない。俺の妻は、そこにいるユキノひとりだけだ!」


 俺はそう言って、ユキノを見る。

 ユキノは少し恥ずかしそうにしていた。


「そんな、私が振られるなんて……」


 ミズチは、かなり落ち込んでいた。


「ミズチ様、御主人様はユキノ様一筋ですので、諦めて頂いた方が賢明です」

「……」


 ミズチは反論出来ない程、ショックが大きいみたいだ。

 上級精霊とは言え、打たれ弱いのだろうか?


「ミズチ様、タクト様の素晴らしさに惹かれるのは、良く分かりますわ」


 ユキノが落ち込んでいるミズチに話し掛ける。


「私も、タクト様のような素晴らしい方を、独り占めするのは申し訳ないと感じていました」


 ……ユキノは、何を言っているんだ?


「ミズチ様さえよければ、婚姻関係を結んでも私は構いませんわ」

「ユキノと言いましたか、貴女はとんだ御人好しですね」


 なにやら、女二人で話が進んでいる。


「おい、ちょっと待て」


 これ以上、間違った方向に進む気がしたので、一旦話を止める。


「ユキノ、俺はお前意外に妻を持つつもりは無い。だから今後、そのような事を口にしないでくれ」

「……はい」

「ミズチも悪いが、そう言った事だから諦めてくれ」


 俺に叱られたユキノは、申し訳なさそうにしている。

 ミズチも、仕方ないと感じたようだ。


「ユキノ。私に気を使ってくれて嬉しかったわ。こんな気持ちになったのは何時以来かしらね」


 俺の知らない間に、女の友情でも芽生えたのか?

 ミズチはユキノの所に行き、左手を握る。

 ユキノの左手が光り、紋章のような物が浮き上がる。

 紋章は違うが、俺の『大地の祝福』と同じような物みたいだ。


「タクト、貴方にも授けるわ」


 ミズチは俺の左手にも、同じ紋章が浮かぶように施してくれた。

 この紋章は『水精霊の証』と言い、何時でも水の上級精霊であるミズチを呼ぶ事が出来る。


「助けが必要な時に、ミズチを呼べば力を貸してくれると言う事で良いのか?」

「えぇ、この世界では貴方達二人だけにしか授けていないから、何時でも呼んでくれて構わないわよ」

「そうか、有難く受取っておく」

「私を振った男性と、私と共に惚れた男性に尽くそうと考える女性なんて面白い夫婦だわ」


 ミズチは笑いながら話す。


「ミズチ様、有難う御座います」


 ユキノもミズチに礼を言う。


「私を呼ぶときはミズチで良いわ。その代わり私も貴女の事をユキノと呼ばせてもらうわね」

「はい、分かりました。今後とも宜しくお願いしますね」

「こちらこそ」


 とりあえず、一件落着したみたいだ。


「それじゃあ、私は戻るから又ね」


 そう言うと、ミズチは湖に沈むように消えていった。

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