第397話 水の精霊!

 辺り一面が濃霧の為、はぐれないように固まって行動するように告げる。

 シロに風属性魔法で、霧を吹き飛ばせないか提案するが、魔力のこもった霧なので、すぐに元に戻るらしい。

 俺とシロであれば、離れていてもある程度、お互いに居る場所の把握は出来る。


「ちょっと、ひとりで湖の中を見てくるわ」

「おい、大丈夫なのか?」

「なんだ、心配してくれるのか?」

「お前は、この状況でも冗談を言えるんだな」


 トグルも気が付いているのか、先程から誰かに見られている気配がする。

 ただし、霧が邪魔をしているのか分からないが、場所の特定が出来ない。


「シロを残しておくから、俺が迷子になる事は無い。大丈夫だと思うが、アスランとユキノを警護してやってくれ」

「あぁ、お前に言われなくても、王子と王女を守るのは当然の事だから、安心しろ」

「頼んだぞ。シロも何かあれば、すぐに知らせてくれよ」

「はい、御主人様」


 俺は、ひとりで湖の方に歩く。

 数メートル歩いて振り返ると、濃霧でアスラン達の姿は見えなくなっていた。


「さて、どこから調べるか」


 このまま歩いて、湖の畔を調べるか、湖に潜って湖底を調べるかそれとも、【飛行】を使い湖面付近を飛んで調べるかで悩んでいた。

 悩んだ結果、まずは【飛行】で湖面を調べる事にした。


 湖面を数分飛んで、怪しい影や魔物等が居ないかを確認するが、特に何も無かった。

 仕方が無いので、湖に潜ろうと手を湖に入れる。

その瞬間、俺を中心に水柱が立つ。

 すぐに湖から手を離すと、水柱は無くなる。

 攻撃する意図は無いのか? それとも、様子を見ているのかは分からない。

 一旦、【飛行】で湖面から距離を取るが、濃霧で周りの状況がよく見えない。

 場所を移動すると、黒い影を発見する。

 俺は、その陰の所まで行く事にした。

 最初、大きいと感じていた影は、近づくと徐々に小さくなっていく。

 霧と光の屈折が原因なのかと、思いながら近付く。

 一定の距離まで来ると、影の正体が逃げているのか、距離が縮まらないでいた。

 仕方が無いので、声を出す。


「おい、お前がこの湖の魚を魔素で魔獣化している奴か」


 返答は期待せずに、聞きたい事だけを口にした。

 当然、返答は無いが、影は動かずにその場に留まっていた。

 暫く、沈黙の時間が続く。

 このまま、膠着状態が続きそうだったので、【神速】を使い影の正体近くまで一気に近寄る。

 向こうも不意を突かれたのか、移動動作が一瞬遅れる。

 移動方向に先回りをして、正体を確認する。


 ……人間か?

 影の正体は、人間族の女性の姿をしていた。


「お前、何者だ?」


 姿形に騙される可能性もあるので、高圧的に質問をする。

 悔しそうな表情を浮かべながらも、俺の隙を見て逃げようとしているのが分かった。


「逃げようとしても、無駄だぞ」


 逃げれないように、牽制する。


「さっきと同じ質問だ。お前が、この湖に魔素を流し込んでいる奴か?」


 俺を睨んでいる。

 仕方が無いので【神眼】でこの正体不明の女性を鑑定する。


「……水精霊ウンディーネのミズチ?」


 俺が女性の正体を口にすると、女性は驚いた表情をする。

 俺の記憶が確かなら、ウンディーネは、火精霊サラマンダー、地精霊ノーム、風精霊シルフと四大精霊と呼ばれていた。

 小学校時代に、カードゲーム好きの同級生が無関心な俺に、熱心に何度も説明していたので覚えていた。

 しかし、精霊とは……。


水精霊ウンディーネが何故、湖で魔獣化の実験のような事をしているんだ?」


 相変わらず、俺の隙を見て逃げようとしているのか、答える気が無いようだ。

 しかし、精霊であれば湖の水で、俺に攻撃を仕掛ける事も出来るはずだが、攻撃する気配はない。

 ただ、この場から逃げたいだけのようだ。


「お前には悪いが、魔素の原因は破壊させてもらうからな。因みに、お前はそこから動けないぞ」


 言い終わる前に【結界】でミズチを閉じ込める。

 ミズチは逃げようと動くが、その場から動けないでいた。


「駄目です。湖の水は危険です。触れてはいけません!」


 ミズチが、俺に対して警告をした。

 もしかして、ミズチは人族が湖の水に触れようとするのを、警告していたのか?

 その事をミズチに確認をする。


「そうです。魔族以外が触れれば、害のある水です。人間族の貴方も例外ではありません」


 ……完全に俺の勘違いのようだ。


「すまなかった。これで動ける筈だ。どうして、こんな事になっているのか教えてくれるか?」


 ミズチの結界を解き、経緯を教えてもらうよう頼む。


「その前に、貴方は何者ですか? 私を拘束出来るなんて……」

「あぁ、自己紹介がまだだったな。人間族のタクトだ」

「……人間族」


 ミズチは、自分の自由を奪える程の力を持つ者が、人間族という事に疑問を持っているようだった。

 それ以前に、俺に対してかなり警戒心を抱いているようだ。


「信用を得るには、どうしたらいい?」

「無いですね。妖精族や、精霊との証があれば別ですが、人間族の貴方には無理でしょう」

「これでも良いのか?」


 樹精霊ドライアド達から受け取った『大地の祝福』を見せる。


「えっ! そんな、これは……」

樹精霊ドライアド達から、受け取ったものだが、これでだけは信用されるのは難しいか?」

「……いえ、十分です。しかし、三つも精霊印を持っているなんて今迄、そのような者を見た事がありません」

「精霊印て、なんだ?」


 無知な俺が可哀想に思ったのか、ミズチが説明をしてくれる。

 『精霊印』とは、精霊が信用出来る相手に対して、信頼証明する印になる。

 上級精霊によっては、精霊印を受け取ると、その精霊と一緒に行動も出来るそうだ。

 因みに樹精霊ドライアドは、中級精霊なので、その土地からは離れられないそうだ。


「そうか、そんな意味もあったのか……」

「はい。劣等種族である人間族が、精霊印を持っている事は稀です」


 人間族って、劣等種族なのか? 確かに、力も魔力も多種族に比べれば、劣ってはいる。

 魔法に関しては、狐人族の次に得意な種族だが、寿命は他の人族と比べて短命だ。

 勝っているのは、種族の人数と、ずる賢さ位だろう。

 改めて考えてみると、秀でた能力が無いのがよく分かった。


「それよりも、この湖の現状を御話させて頂きます」

「そうだな、頼む」

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