第399話 聖女の力!

 霧も晴れて、湖も正常な状態に戻る。

 改めてみると綺麗な湖だ。

 この付近で、魔獣化した動物達の討伐が残っている。

 それにユキノの力で、エドゥアルドの村人達の身体から魔素を除去する事もある。


「おい、タクト」


 トグルが、小さな声で俺に話し掛けて来た。


「どうした?」

「さっきの精霊との話だが、お前とユキノ様は結婚したのか?」


 ……そういえば、トグルは知らなかったな。完全に忘れていた。

 国王であるルーカスに伝える前に、どんどんと知っている者が増えて行っている気がする。


「あぁ、まだ内緒だがな」


 トグルは絶句していた。


「お前は、貴族になるのか?」

「いや、まだ分からん。何も決まっていない。俺の我儘が通るのであれば、今迄通りの生活が良いと思っている」

「……お前の我儘が、通るのか?」

「だから、分からん」


 次第に声が大きくなっていた俺とトグルのやり取りに、気が付いたアスランとユキノが近寄ってきた。

 

「出来る限り、私もタクトの希望に沿うようにしたいと思っております」

「私は、タクト様に着いて行くだけですわ」

「いえ、しかし……その、なんて言いますか」


 トグルは上手く話せないでいた。

 突然の事で、考えが纏まっていないのだろう。


「まぁ、今考えても仕方ないからな」

「相変わらずだな」

「変わるつもりは無いからな」

「確かに、その方がお前らしいな」

「トグルとリベラよりも、先になってしまって悪いな」

「んぁ……」


 トグルが顔を赤らめながら、小さな叫び声のようなものをあげた。


「そんなに恥ずかしがる事でもないだろう」

「……お前に言われるとな」

「いずれは、ランクAになってギルマスになってくれよ」

「いや、シキブさんとムラサキさんがいる限り、ジークは安泰だ」


 ……どうやら、まだシキブが引退する事は知らないようだ。


「そうだな。でも、いつまでも居ると思っているなよ」

「俺はまず、ランクAになる為に必死だから、その先は考えていない」

「そうだな。後輩達も沢山居るんだから、きちんとお手本にならないとな」

「お前のように、生意気な後輩はもう居ないと思うがな」

「そうか? まだ、分からないぞ」


 トグルとの会話を終える。


「ユキノ、ちょっといいか?」

「はい」

「トグル、今から話す事は絶対に喋るなよ」


 少し真剣な口調で話したのに気が付いたのか、トグルは「分かった」とだけ言う。

 ユキノに『聖女』と言う称号持ちになった事を伝える。

 原因は、俺との婚姻関係だが、聖女の力を使えばより多くの人々が助けられると説明をする。

 ユキノは戸惑うかと思っていたが、より多くの人々を救えるという喜びの方が勝っている様子だった。

 俺はエリーヌが、聖女三点セットと呼んでいた【神の加護】【神の癒し】【神の導き】の説明をする。

 ユキノは真剣に俺の説明を聞いていたが、どこまで理解出来ているのか不思議だった。

 アスランは、自分の事のように真剣に聞いていた。

 トグルに至っては、重要な事なので聞くんじゃなかったという感じだった。

 何となく、トグルには申し訳無いと思う。


「実演したいが、俺では無理だから……トグル、悪いが怪我して貰っていいか?」

「はぁ?」


 俺が怪我を出来れば良いのだが、【自動再生】で怪我がすぐに治ってしまう。

 アスランが王子だからという訳では無いが、体の丈夫さでいえば必然的にトグルになる。


「少し腕に切り傷を付けるだけだ。すぐにユキノが治してくれるから頼む」

「……お前には借りがあるからな。仕方が無い」

「そうか、本当に助かる。ユキノ、準備しろよ」

「はい!」


 俺はトグル腕に五センチ程の切り傷を付ける。

 ユキノはその場所に手を当てると、無詠唱で治療魔法を掛ける事が出来た。


「……本当に思っただけで、魔法が掛けれました」

「それが、ユキノの力だ」


 ユキノは嬉しそうだ。

 自分なりに自信が付いたのだろう。


「トグル様、御怪我までして頂き有難う御座いました」


 怪我をしてくれたトグルに礼を述べた。

 王女であるユキノに、礼を言われたトグルは慌てていた。


「私もタクト様のように、皆を救いたいと思います」

「俺も手伝うから、ふたりで頑張ろうな」

「はい!」


 人助けをしたいというのは、ユキノの本心なのだろう。

 出来る限り手助けをしたいと思った。


 俺は再度、ユキノの称号『聖女』を【隠蔽】で隠す。

 ユキノには、聖女である事は口外しない事。

 そして出来るだけ、人前では無詠唱はしないようにと注意をしておく。

 理由を聞かれるが、聖女だと知って寄って来る者達が、必ずしも良い者達とは限らない事や、周りの者を巻き込む可能性がある事を伝える。

 アスランからも、俺の言葉に補足するかのように、政治的に利用される可能性があること等も伝えた。


「まぁ、聖女だろうとなかろうと、することは同じだからな」

「そうですね。気をつけるようにします」


 俺の意味を、理解してくれた様子だ。


「このまま、奥の魔獣化した動物を討伐するが良いか?」


 皆、賛成してくれたので【魔力探知地図】で魔獣化した動物達を探してみる事にした。

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