第382話 恩人と感謝!

「初めまして、私は四葉商会の副代表マリーと申します」


 ラウムに挨拶をするが、ラウムは緊張しているのか上手く話せないでいる。

 それに気が付いたマリーは、緊張を解す様に仕事の内容や、従業員の話等をする。

 ラウムの緊張も解れてきたようで時折、笑顔を見せるようになる。


「とても重要な事ですが、ラウムさんは魔族に嫌悪感はありますよね」


 夫を殺されているので、魔族には恨みもあるだろう。

 四葉商会では魔族との交流もあるので、はっきりさせておきたいとマリーは判断したのが分かった。

 本来であれば、俺の仕事だった。


「確かに魔族が好きか嫌いかといえば、嫌いです。しかし、私の村でも魔族が全て悪いという認識ではありませんでしたので、お答えするのは難しいです」

「いえ、ありがとうございます。商売をする上で魔族絡みの案件はありますので、確認させて頂いた次第です」


 マリーの態度は素晴らしいと思った。

 本当に代表を譲っても良いと思うし、マリーであれば他の商人とも十分に張り合えるだけの器量も持ち合わせている。

 マリーにだけは、ユキノとの事を話しておいても良いと感じた。


「それでは、明日の昼に店まで来て下さいね」

「はい、宜しく御願致します」

「タクトからも、何か言う事ある?」

「そうだな、頑張れよ!」

「ありがとうございます」


 ラウムは深々と頭を下げた。

 赤ん坊の事もあるので、サーシャに案内して貰い早めに休んで貰う事にした。

 俺達もサジ達に別れの挨拶をして、『四葉孤児院』を出る。


「ところでタクト。店移転の件はどうするつもりなの?」


 『ブライダル・リーフ』をこの横に建てる話を以前からしていたが、俺が忙しすぎて一向に進展が無い。


「悪いな。何も決めていないが、何か案があるのか?」

「そうね。やっぱり住居も含めた建物が希望ね」

「まぁ、そうだろうな。フラン達と話をして、案だけでも纏めておいてくれ」

「分かったわ。それよりもイリアさんが、この間あった時にお世話になりますって言っていたけど何の事?」

「あぁ、それな。イリアはマリーが誘ったから、冒険者ギルドを辞めて四葉商会に来る事になった」

「えっ!」

「人手不足って誘っただろう」

「確かに誘ったけど、社交辞令というか冗談というか……」

「安心しろ。イリアも色々と考えたうえで、四葉商会に来ると言ってくれたんだから。それに婚約者のエイジンも、グランド通信社を辞めて四葉商会に来るからな」

「えっ! どういう事なの?」


 俺はマリーに、エイジンとイリアの事を話す。

 まだ、本決まりで無い事が多い為、話さずにいた事を詫びる。


「……相変わらずね。まぁ、事情は分かったからエイジンさん達と今度、話をしてみるわ。もう隠し事は無いわよね?」

「あるぞ!」

「えっ!」

「国王も知らない秘密事項だ」

「何よ! 聞くと殺されるような話なら、聞かないわよ」

「大丈夫だ、死ぬような事は無い! ユキノ、耳元で小さな声で話して、マリーに教えてやってくれ」

「はい」


 ユキノはマリーの耳元で囁く。

 聞き終えると、ユキノと俺の顔を交互に何度も見た。


「はぁ! それ、本当なの」


 真剣な顔で俺を見ながら、確認の質問をする。


「本当だ」

「……聞くんじゃなかったわ」

「ショックだったのか?」

「まぁね。あっ、タクトの結婚じゃなくてよ。それで、四葉商会の代表はどうするのよ。もしかして、退くって事なの?」


 流石はマリーだ。勘が鋭い。


「そうだな。マリーに譲るのが良いと思うが、どう思う?」

「個人的には嫌だわ。とてもタクトの代わりは出来ないし、しようとも思わないわ。私の我儘が通るなら、今のままでお願いしたいと思っているわね」

「そうか……少し、考えてみる」


 本当であれば、マリーに代表を譲るつもりだったが、マリーにその気が無いのであれば負担を背負わせてしまうのは申し訳ないと思う。

 ついこの間、副代表になったばかりだし、重圧も俺が思っている以上なのだろう。

 マリーは、他の者に聞かれてはいけないと小声で話す。


「それで、結婚式はどうするのよ。四葉商会の代表が結婚式をしないなんて事ないわよね?」

「あぁ、城の大広間でやるつもりだ。マリー達四葉商会の従業員は全員参加だからな」

「えっ! それって、国の式典じゃないの?」

「あぁ、厳密に言えば違うな。但し、結婚式は四葉商会が仕切るから、安心しろ!」

「安心しろって言われても、安心なんか出来るわけないでしょう!」

「因みに、誰にも喋るなよ。さっきも言ったがまだ、極秘事項だからな」

「……本当に聞かなければ良かったわ」


 マリーは、物凄く後悔していた。


「それよりも、結婚したらジークには戻って来ないの?」

「ん~、それも今調整中だな」


 何も決定していないので、こう答えるしか出来なかった。


「詳しい事は、決まり次第連絡するから」

「……出来るだけ早く教えてよ」


 マリーは眉間にしわを寄せて、俺を睨んでいた。


「……もしかして、マリー様もタクト様に恋心があったのですか?」


 ユキノが話の脈絡も無視して、マリーに質問をする。


「えっ! いえ、愛だの恋だのという感情で、タクトに接した事はありません」


 いきなり意表をついた質問をされて、マリーは焦っていた。


「そうですね、タクトは恩人と言うのが、私の中で正しい表現になります。タクトに救って貰っていなければ、今の生活はおろか生きてさえいなかったかもしれませんから、とても感謝しています」

「そう思うなら、もう少し労わって欲しいぞ!」

「……タクトが無茶な事や、問題事ばかり持ち込むからでしょうが!」

「そうかもな……迷惑かけてすまないな」


 マリーの本心からの言葉だということは分かった上で、俺は揶揄うように話した。

 なによりも【呪詛】が解除しても、今迄通りに接する事が出来たのが一番嬉しかった。

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