第383話 港町!

 青い空に白い雲、どこまでも続く海。

 エクシズに来て、始めてみる海に少し感動している。

 シロと共にオーフェン帝国の港町に来ている。

 クロも誘ったが調査を優先させたいと言うので、了解した。


「シロは来た事あるのか?」

「はい、何度かありますが、堂々と訪れたのは今回が初めてです」

「魔獣の写真で、此処まで来ていないのか?」

「はい。御主人様からのリストでは、エルドラード王国のみ生息する魔獣ばかりでした」

「えっ、そうなのか?」


 もしかしたら、【全知全能】に質問した時に、『エクシズ』と言わず『エルドラード王国』と言ったかも知れない。

 そうであれば、シロに申し訳ないな……。

 エルドラード王国の冒険者ギルド限定であれば事足りるが、再考する必要がある。


「それに、この国には私の苦手な者も居ますので……」

「珍しいな、シロに苦手な者が居るとは!」

「はい、色々とありまして……それよりも、ユキノ様は御一緒で無くて、宜しかったのですか?」

「そうだな、今回は視察だからな。自由に動けた方が都合がよい」

「そうなんですね」


 ユキノの事まで心配してくれるなんて、シロは本当に出来た子だ!

 勿論、クロも素晴らしい。


「ところで、私はユキノ様の事を奥様と呼べば宜しいですか?」

「そうだな、ユキノと相談して好きな呼び方で良いと思うから、相談してくれ」

「はい、分かりました」


 シロと港町を歩いて回るが、思っていたよりも活気が無い。

 鮮魚店らしき店にも、魚の数が少ない。

 不思議に思い鮮魚店の店主に聞いてみる。


「お客さん、旅の方でしょう。この『ピスカ』も少し前までは賑わっていたんですが最近、沖の方に『クラーケン』が出現して、その付近まで船が出せないんです」


 この港町は『ピスカ』という町のようだ。

 確かに、海には海の魔獣が存在するだろう。

 クラーケンといえば、船を沈没させたりする大型のイカかタコだった気がするが……。


「対策は無いのか?」

「一応、帝都に報告はしているようなのですが、生憎と海の魔獣は討伐が難しいので、討伐までに時間が掛かるんですよね」


 帝都というのは、エルドラード王国でいう王都と同じく国の主要都市のことだろう。

 海の魔獣退治が難しいのは、なんとなく分かる気がする。

 移動手段が船しかない為、大型の魔獣であれば簡単に沈没させる事は可能だろう。

 話を聞いて、もうひとつ疑問を感じた。

 海の魔獣もこのまま恐怖の対象になれば、ロードが魔王になる事も考えられる。


「今迄もクラーケンは出現した事はあるんだろう?」

「そうですが、今回のクラーケンは今迄よりも、かなり大型らしいですよ」


 嫌な予感しかしない。

 しかし、俺はエルドラード王国でしか冒険者ギルドの登録はしていない。

 オーフェン帝国の事は、帝国内で対処するべき事だ。

 俺が介入して外交問題にでもなると、それはそれで面倒だ。


「近々、三国会談が帝都で開催されるので、各港には護衛の依頼がある筈なんだが、今回は何も依頼が無いのも不思議なんだよな」


 ルーカスは飛行艇なので、海を渡る必要がない。

 しかし、空を移動するとは伝えていない筈だ。

 それに、シャレーゼ国はどうするつもりなのだ? 陸路で移動出来る距離にあるのだろうか?

 俺は、鮮魚店の店主に礼を言いながら、魚を三尾購入する。


「御客さん、これエルドラード王国の金貨だよね。悪いがオーフェン帝国の金貨で無いと買い物は出来ないよ」

「えっ、そうなのか!」

「この町には商人も多いので、両替所があるから、そこの両替所で両替すれば問題ないよ」

「そうか、助かった。すぐに両替してくるから魚は他の客に売らないでくれよ」

「大丈夫だって!」


 店主は笑う。

 俺は何故か両替所まで走る。

 両替所に着くと、数人の列が出来ていたので最後尾に並ぶ。


「兄ちゃん達もエルドラード王国からか?」

「そうだ。あんた達もか?」


 冒険者らしき虎人族の男が話し掛けて来た。


「あぁ、俺達もエルドラード王国からだ」


 冒険者の男達は、オーフェン帝国での討伐の方が危険が少ないと思い、活動の場を移そうとしていると教えてくれた。


「エルドラード王国は、そんなに危険だったか?」

「まぁ、そうだな。俺達よりも若くて強い奴が、次々と現れてくるから大変だ!」

「世代交代というやつか?」

「まぁ、そんな所だ。こっちの国で、のんびりと暮らせればと思ってな。兄ちゃん達は観光か?」

「そんな所だな」

「おい、あんた! ランクSSSのタクトさんじゃないのか?」


 仲間の狼人族の男が俺に気が付いたようで、話に入ってきた。


「そうだが、良く知っているな」

「当たり前だ! あんたは良くも悪くも有名人だからな」

「ん? どういう事だ」

「あんたの評価が分かれていて、本当に強いと思っている奴と、実は弱くて不正をしてランクSSSになっていると思っている奴が居るんだ」

「そうなのか? それは知らなかったな」


 まぁ、いきなり現れた新参者の評価は大体こんなものだとは思っていたが、まさか異国の地で自分の評価を聞く事になるとは思わなかった。


「俺達は、あんたの実力は本物だと思っているぞ」


 虎人族の男は『ルーミー』と名乗り、狼人族の男は『クローレ』と言った。


「もうひとり、仲間が居るんだが……あっ、あいつだ!」


 場所が分かるようにルーミーが大きく手を振る。


「悪い悪い、腹の調子が悪くてよ。 って、あんたタクトさんだろう!」

「よく知っているな」

「当たり前だ! 俺はあんたのファンだからな!」


 遅れてきた下痢気味の男は、猿人族の『テリオス』と名乗り、俺に握手を求めてきた。

 きちんと手洗っているよな……。


「まさか、ここで憧れの人物と会う事になるとは、人生ってのは分からないものだな」

「猿人族って、俺は初めて会ったぞ」

「そうですか? まぁ、俺達は数が少ないから、他の種族みたいに頻繁に居るわけではないですからね」

「絶滅しそうなのか?」

「概ね外れでは無いですね。徐々に人口が減っていっているので、後何年かすれば種族がなくなる可能性もありますね」


 俺も良く知らなかったが、他種族同士だと子供が出来ないらしく、子孫を残すのであれば、どうしても同じ種族同士になるそうだ。

 だからという訳ではないが、異種族同士の結婚はあまり歓迎されないらしい。


「タクトさん、此処で会えたのも何かの縁と言う事で、俺達と仲間フレンド登録しませんか?」

「あぁ、別にいいぞ。ルーミーやクオーレも問題ないのか?」

「俺達こそ、ランクSSSの冒険者と仲間フレンド登録出来るなんて夢のようだ」

「……普通はしないのか?」

「えぇ、俺達のようなランクBの冒険者は、ランクS以上の冒険者からすれば格下の存在ですからね」


 この時点で、ルーミー達が冒険者ランクBだと知った。


「可笑しな話だな。ランクなんて目安だから、別に関係ないのにな?」

「そんな事言うのは、タクトさんくらいですよ。他のランクSの冒険者なんて、俺達を完全無視ですよ」

「そうなのか、自分達だってランクBの時があったのに酷いな」

「本当ですよ、こんなに気さくに話せるのは多分、タクトさんくらいですよ」

「ギルマスだったら、それなりに話せるんじゃないのか?」

「……それは、ギルマスによりますよ」


 楽しそうに話をしていたルーミーの話し方が急に変わる。


「何かあったのか?」


 話そうとしないルーミーに代わり、テリオスが話を始める。


「俺達は、『タルイ』という街を主に活動していたんですが、数年前に新しく就任したギルマスはランク差別が酷くて、受付けもギルマスの言いなりなので、ランクC以下はゴミ同然の扱いでした。初心者の冒険者もサポートも無く、すぐに死ぬような状況だったので、俺達は新天地としてオーフェン帝国まで来たんです」

「タルイから、オーフェン帝国でなくエルドラード王国内で、変えれば良いんじゃないのか?」

「それがギルマスが脅迫じみた事を言うんです。実際、変わろうとしたものは暴行されたり、罠に嵌められて無理矢理借金をさせられたりと……だから皆、恐れて他の領地へ行こうとしないんです」

「その話、本当か?」

「嘘を言っても仕方ないでしょう」

「それは酷い話だな。俺から、グラマスのジラールに話をしておく」


 懸念していたギルマスの暴走があった事に憤りを感じた。


「この国では、俺も只の旅行者だし時間があれば、この後一緒に飯でも食うか?」


 俺の言葉にルーミー達は「勿論!」と言ってくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る