第364話 接吻の意味!
「お待たせしました」
着替えが終わったユキノが出てきた。
クロは、以前より行っていた調査に戻ると言うので頼むことにした。
シロも同様に、魔物の撮影に行くと言って、あっという間に居なくなった。
シロもクロも、俺とユキノに気を使っているのか?
今度、ふたりに確認するとしよう。
「それじゃあ、行くか?」
「はい!」
ユキノに声を掛けて、ジークの俺の部屋に【転移】する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
部屋に着くと懐かしい感じがする。
まだ仕事をしている時間帯なので、二階のリビングに向かう。
扉を開けると、ルーカスとイース、アスランとヤヨイの王族が飲み物を飲んで、我が家のようにくつろいでいた。
当然、護衛三人衆も居る。
「……何しているんだ?」
「何って、お主が目を覚ましたと言うから、ここに戻ってくると思い、急いで駆け付けたのだ」
「それは、わざわざすまなかったな」
「しかし、お主が倒れるとは何をしたのだ?」
「まぁ、色々だ」
「色々か、何か事情があるようなので深くは聞かないが……」
「王族が、そんな簡単に城から抜け出していいのか?」
「問題ない。これも全てお主に転移扉のおかげだ」
急に騒がしくなった事に気が付いたのか、凄い勢いで階段を上がってくる音が聞こえる。
扉を開くと、息を切らした従業員達が現れる。
「心配かけたな!」
いつも通りに声を掛ける。
マリーが俺の目の前まで来ると、いきなり俺の顔に平手打ちする。
殴られた俺は当然、驚くがそれ以上に、その場に居た皆が驚く。
「タクト! 貴方は、四葉商会の代表なのよ。私達もある程度の事は覚悟はしているけど、御願いだから無茶だけはしないと約束して!」
マリーは涙を溜めた目で、俺を直視する。
俺が居なくなって、これからの事を考えて不安になっていたのだろう。
それと、四葉商会の副代表としての責務を果たしたのだと感じた。
好き勝手やっていた俺を叱る嫌な役を押しつけてしまい、マリーに対して申し訳ないと思う。
「すまなかったな。今度からは、気を付ける」
約束する事は出来ないので、こう答える事しか俺には出来なかった。
事情を知っているリベラは辛そうだった。
「……卑怯ね」
「悪いな、出来ない約束はしない主義だからな」
「タクトらしいわね」
マリーは笑うと、目に溜まっていた涙が頬を伝った。
「駆け付けてくれたのは、嬉しいが仕事は大丈夫なのか?」
「今から戻るわ。タクトに、どうしても一言言いたかっただけだから」
「そうか、色々と迷惑掛けるな」
「本当よ!」
マリーは涙を拭い、振り返って仕事に戻って行った。
フランやユイは、気を使ってくれていたが「大丈夫だ」と安心させてから、仕事に戻らせた。
「タクトさん、すいません」
「気にしなくていいぞ、俺が勝手にした事だ。それよりもザックとタイラーは元気なのか?」
「はい、お陰様でいつも通りです」
「そうか、それなら安心だな」
「タクトさんのおかげです」
リベラが、自分達のせいで俺が倒れた事を気にしているのは分かっているので、出来るだけ責任を背負わないようにしたい。
「トグル達にも、後で挨拶に行くから伝えておいてくれるか?」
「はい、伝えておきます」
リベラも返事をして、仕事に戻って行った。
従業員も戻って行ったので、ルーカスと話をする。
「トグル達を労ってやってくれよ」
「分かっておる。それなりの事を考えておるから、安心してくれ」
「頼んだぞ」
「それよりもだ!」
ルーカス達は俺が意識を失っている間に、ビアーノが出したカツに感動していたらしい。
ビアーノが、俺から教えて貰ったと報告をする。
翌日には、ハンバーグを出すとルーカスが旨すぎると又、ビアーノを呼び出したそうだ。
「お主の料理の知識で、今迄食べた事の無い物を食べさせてくれ!」
「……俺は、料理人じゃないぞ」
「分かっておる。こちらにも色々と事情があるのだ」
今度開催される三国会談は、オーフェンで開催されるが三日行われる料理は、一日毎に各々の国が担当する事になっているので、食材も含めて国の力を見せつける場でもあるらしい。
「……俺は行かないからな」
「それは置いといてだ、お主の料理をビアーノ達に教えて欲しいのだ」
「いえ、タクト殿は会議に参加頂きます」
今迄、黙って飲み物を飲んでいたいたイースが突然、口を開いた。
「……どうしてだ?」
「どうしてもです」
イースは、明確な回答をせずに、はぐらかした。
「実はだな……」
ルーカスが、申し訳なさそうに説明を始める。
今回の会議をする際に、オーフェンから使者が手紙を持ってきた。
内容は、先程の『晩餐会の料理』と、ユキノについてだった。
オーフェンの王子である『スタリオン』は以前から、ユキノを妻にと言って来ていたがルーカスが何かと理由をつけて断っていたらしい。
しかし、痺れを切らしたオーフェンの皇帝『トレディア』が直接話をしたい為、三国会談の後に話し合いの場を設けたそうだ。
「俺が行ってどうにかなるのか?」
「お主だから、何とかなるのだ」
「はぁ?」
オーフェンは正確には『オーフェン帝国』と言い、国王で無く『皇帝』が国のトップに立ち、完全実力主義の国なので、たとえ王子だろうが実力が無ければ国を継げない。
但し、皇族は普通の者よりも強い家系らしい。
「国王が呼ばれたからって、簡単に国を空けても良いのか?」
「数年に一度だがな。特に今回は断れぬ事情だから仕方あるまい」
そんなものなのか?
「スタリオンは、強いのか?」
「噂では、オーフェンでは最強と言われているそうだ。しかも、国民からの信頼も高い」
「完璧じゃないか?」
「あぁ、しかし女癖が悪いとの評判もあって、そのような男に可愛い娘を嫁がせる事は出来ん!」
確かに親からしたら、そんな男の所に嫁がせたく無い気持ちは分かる。
「強さが全ての国だから、強い者の我儘もある程度まかり通るから、余計に質が悪い」
「それと、俺が行く理由と何の関係があるんだ?」
「……お主は馬鹿か? 向こうが強さで来るなら、こちらも強い者を用意するのが筋だろう」
「それなら、ロキやカルアそれに、三獣士が居るだろう。何故、いち冒険者の俺なんだ?」
「それはだな……」
急にルーカスが、口籠る。
「タクト殿、この国で一番強いのはタクト殿なのですから、仕方ないでしょう」
ターセルが困っているルーカスを助けるように話した。
「そうだ。最強には、最強で対抗するべきだろう!」
「……まぁ、そういう理由なら仕方ないと諦めるが、スタリオンと戦う事は無いんだろう?」
ルーカスは、何も言わない。
戦うって事なのか? まぁ、強さで全てを決める国なら、有り得る事だが……。
「確認するが、断りに行くんだよな?」
「その通りだ」
「断るだけなら、戦う必要無いだろう? オーフェンの国の決まりに合わせる必要も無いだろう」
「……それは、そうなのだが」
どうも、歯切れが悪い。
「国王、もう隠しても仕方ありません」
イースが何かを諦めたように、ルーカスに言葉を掛ける。
「タクト殿、申し訳御座いません」
イースは俺に謝ると、事の経緯を話してくれた。
前回、ユキノの事を正式に断った際に、「エルドラード王国最強の男に惚れているから、諦めてくれ」と伝えたらしい。
最強という言葉に過剰反応したのか、オーフェン帝国側からスタリオンとの勝負を持ちかけられ、スタリオンが負ければユキノの事はきっぱりと諦めると言われ、ルーカスがその誘いに応じたそうだ。
ルーカスを見ると、目線を逸らしている。
「……分かった。それならそうと、最初から言ってくれれば協力したぞ」
「本当か!」
ルーカスが立ち上がる。
「まぁ、ユキノには借りがあるしな」
ユキノのおかげで【呪詛:服装感性の負評価】が解除されたので、それ相応の事はしないといけない。
「……借りですか?」
ユキノは、何の事か分からないでいる。
ルーカス達に向かって、言語の確認をする。
「接吻て分かるか?」
「突然、何を言うのだ? 勿論、分かるぞ」
「それなら、キスも分かるか?」
「何を同じ事を二回も聞くのだ?」
やはり、俺が同じ内容の言葉を口にすれば【言語解読】のユニークスキルで変換してくれているようだ。
「王族のキスは、何を意味する?」
王女であるユキノが俺にキスをしたという事は、なにかしらの意味がある筈だ。
庶民と違う意味を持つのであれば、俺自身もユキノの覚悟に答える必要はあると思っている。
それにキスの件は、ユキノしか知らない事だと思うので黙っていても良かったが、俺自身そのような事は卑怯だと思うし、何よりユキノに対して申し訳ない。
隣にいるユキノは、俺の言っている意味を理解したのか、顔を赤らめた。
「王族の場合は、一生連添う事を意味する。例え、相手が死んだとしても決して他の者とは連添う事は無い。国民と殆ど同じだと思うぞ」
「……そうか」
分かってはいたが、改めて聞くと申し訳無い気持ちになる。
「何かあったのか?」
「いや、結婚式の参考に聞きたかっただけだ」
「成程な」
ルーカス達が何かを期待していたのが、手に取るように分かった。
いずれは、きちんと答えを出すべきなのだろうが、今の俺では簡単に答えは出せない。
「……悪いな」
小さく誰にも聞こえないような声で呟く。
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