第365話 漆黒の魔剣士誕生!

 トグルに会いに行く為、ルーカス達とは別れる。

 このまま帰るかと思ったが、マリー達に用事があるらしいので、暫く居ると言う。

 ……無茶な要求等しないでくれる事を願いしかない。


 リベラにトグル達の居る場所を聞くと、横にいたマリーが「ここは大丈夫だから、タクトを案内してあげて」とリベラに案内を頼んでいた。

 病み上がりの俺に対する気遣いか?

 マリーに礼を言って、リベラの案内でトグル達の居る場所まで移動する。

 当然、ユキノも一緒だ。


「よっ!」


 トグル達を発見したので、遠くから声を掛けると、俺の所まで走って来た。


「兄ちゃん、ありがとう!」


 タイラーが、真っ先に礼を言う。

 ザックは言葉が見つからないのか、俺を見たままだ。


「ザック、身体は大丈夫か?」

「うん、兄ちゃん俺……」

「気にするな、タイラーを助ける為に頑張ったんだろう。両親の仇は、師匠のトグルがとってくれたし、良かったな」

「うん」

「但し、これからは無茶な戦いは絶対にするな。お前が死ねば、周りの者が悲しむ。分かるよな」

「……うん」

「それが分れば、お前は必ず強くなる。タイラーもな」

「うん」


 俺は、ふたりの頭を撫でてトグルの方を見る。


「あれから、身体に変化は無いか?」

「あぁ、数日は疲れが取れなかったがな」

「そうか」


 俺は、ムラマサを出して地面に突き刺す。


「この魔剣、お前が使ってくれ」


 いきなりの事で、トグルは言葉を失っている。


「俺よりも、剣士であるお前に使って欲しいと、コイツが言っているんでな」


 名を『ムラマサ』という事。

 少しづつだが、ムラマサの精神攻撃に耐えれば、いずれムラマサと会話が出来る事等の取り扱いについて話す。


「本当に貰ってもいいのか?」

「あぁ、頼むから貰ってくれ」


 トグルはムラマサを握り、地面からムラマサを抜く。


「確かに、力が吸われる感じはあるが……タクト、大事に使わせてもらう」


 そのままだと不便だと思い、近くの樹から太めの枝を手刀で切る。

 一応、管理者不在の森とはいえ念の為、謝ってから切った。

 タイラーから剣を借りて、その枝でムラマサの鞘を作る。

 俺が鞘を作っている間も、トグルはムラマサを握ったままだ。

 何回か確認しながら作るが、思っていたよりも難しい。

 片側が完成したところで【複製】を使いふたつにして合体させる。

 今のムラマサは左右対称なので、この方法で作る事が出来たが、正式に依頼するとなると職人が毎回、死にそうな思いで作らなければならない。

 鞘にムラマサを入れる。


「とりあえず、暫くはこれで我慢してくれ。もっと良い物が欲しければ、マリーに言えば良い職人を紹介してくれる筈だ」

「……分かった」


 既にトグルは、疲労困憊だった。

 ザックとタイラーにも、トグル以外が触ると一瞬で死にそうになるから、絶対に触るなと注意をしておく。


「稽古の途中悪かったな。俺達は戻るから、稽古続けてくれ」

「ちょっと、待て!」


 俺が帰ろうとすると、トグルが引き止める。


「どうした?」

「いや、お前に正式に礼を言っていない……ありがとうな」

「わざわざ、どうした!トグルらしくないな」

「お前のしてくれた事が、どれだけ凄い事かも分かっている。そして、どんな代償を払っているのか俺達には分からないが、お前が無理をしてくれた事だけは分かっているつもりだ」

「俺が、勝手にした事だから気にするな」

「しかしだな!」

「これ以上、話しても同じだし何も変わらないぞ」

「それは、そうだが……」

「これから、強くなって弱い者を助けてくれればいい。それが俺への恩返しだと思ってくれ」

「……相変わらずだな」


 やっと、トグルに笑顔が戻った。

 以前にムラサキが、鬼人族の闇落ちを懸念していたが今のトグルなら、大丈夫だろう。

 そのうち、冒険者ランクも上がり、ふたつ名で呼ばれる日が来るのも近いと思う。

 ……ふたつ名?


「トグル、俺に悪いと思っているなら、簡単な頼み聞いてくれるか?」

「別にいいが、俺に出来るの事か?」

「勿論だ! トグルにしか出来ない事だ」

「一体、何をさせる気だ?」

「トグル! 今日から君のふたつ名は『漆黒の魔剣士』だ」

「……はぁ?」

「師匠、カッコいいぞ!」

「おぉ、漆黒の魔剣士。師匠にぴったりだ!」


 驚いているトグルとは対照的に、ザックとタイラーがはしゃいでいる。


「頑張ってくれよ、漆黒の魔剣士さん」


 揶揄うが、トグルは向かって来ない。

 もしかして、漆黒の魔剣士が気に入ったのか?


「……有難く受け取っておく」


 本当に、気に入っていたようだ。

 ふざけていた分、罪悪感が大きい。

 別れの挨拶をして、帰ろうとすると再度、呼び止められる。


「まだ何かあるのか?」

「あぁ、実はリベラと付き合う事にした」


 恥ずかしそうに報告をするトグル。

 俺は、リベラの方を向くと恥ずかしそうにして、俺に御辞宜をした。

 トグルは、ザックが死んだ事で大事な人を無くす悲しみを知り、ジークに戻ってリベラに告白したそうだ。

 当然、リベラも断ることなく、無事交際する事になったそうだ。

 ……俺が意識無くしている間に何をしているんだ、このふたりは!


「あぁ、そうか。おめでとう」

「お前のおかげだ」


 何故、俺のおかげなんだ?

 言葉の意味が分からないが、横に居るユキノが俺を見る目が輝いている事だけは確かだった。

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