第362話 現世への帰還と、その後!

 右腹の辺りに重みを感じる。

 目を覚ますと、見覚えのない天井が見える。

 ……此処は、何処だ?

 首を傾けると、俺の横でユキノがベッドを枕にして寝ていた。


「おはようございます。御主人様」


 シロが俺に話し掛けてくる。


「主、御無事で何よりです」


 クロも安心した様子で俺の寝ている横まで来る。


「とりあえず、状況を教えてもらってもいいか?」


 シロとクロはお互い顔を見合わせると、クロが「承知致しました」と言って説明を始める。


 ザックを生き返らせた俺は、そのまま意識が戻らず倒れたままだった。

 クロが俺を運ぶと言って、ルンデンブルクの宿に戻る。

 俺が倒れたという情報は、マリー達からミラへと伝わり、すぐにダウザーにも伝わった。

 状況を確認する為に、ダウザー達は宿に集まりトグルから、クニックスを討伐した報告を受ける。

 俺の事に関しては、「凄い事をしてくれたが、自分の口からは話せない」と倒れた原因等は話さないでいた。

 クニックス討伐は重要事項の為、早急にルーカスへ報告する。

 当然、俺が倒れての意識が戻らない状態の事も報告するが、それを聞いたユキノは、すぐに俺の元に駆けつけて、常に寄り添ってくれていたそうだ。


「シロとクロにも、色々と心配かけたな」

「いえ、戻って来ると信じてました」

「はい、主があれ位で死ぬとは微塵も思っておりません」

「ありがとうな。それで俺は、どれ位寝ていた?」

「はい、十二日です」


 ……十二日もか!


「ザックの様子はどうだ?」

「はい、以前と変わらぬ様子ですよ」


 シロは、ザックに異変が無いか俺が寝ている間、監視をしてくれていた。


「マリー達は、仕事に戻ったのか」

「はい。私に主が目を覚ましたら、すぐに知らせてくれと言われてます」

「そうか、折角の旅行だったのに、皆にも悪いことしたな」


 ……そういえば、トグルに貸したムラマサはどうなっている?

 トグルは無事なのか?


(何を焦っている。お前との約束通り、死なない程度しておいたぞ)


 ベッドの横に立てかけてあったムラマサに気が付く。


(トグルに使われてみて、どうだった?)

(悪くないな。お前には悪いが、あいつと戦っていた方が気持ちがいい)

(そりゃそうだろう。トグルは剣士だからな)

(もう少し『HP』や『MP』が吸う事が出来れば、言う事無いんだがな)

(斬り付ける相手から吸っても不足なのか?)

(若干だがな。我慢すれば、問題無いとも言える)

(我慢しても毎回使ってくれるトグルを選ぶか、我慢しなくても使って貰えない俺を選ぶかはムラマサ次第だ)

(それであれば、お前でなくあの剣士を選ぶ!)


 ……即答か!


(分かった。今度、会った時に正式にトグルに譲るが、トグルが死ぬ程『HP』や『MP』を吸ったり、意識を飛ばしたりしたら、俺がムラマサを折るから忘れるなよ)

(分かった。我も使い手を失いたくないからな。しかし、こんな風に会話が出来なくなるのは寂しいな)

(俺がトグルに話をして、少しずつ精神攻撃に耐えれるようにすれば、会話も可能かも知れないぞ!)

(本当か!)

(トグルの頑張り次第だけどな)


 ムラマサをトグルに譲る事にする。寂しいがムラマサの気持ちを考えれば、トグルに使って貰った方が良い。

 ムラマサを使いこなせるかは、トグル次第だが……。


 クロには、マリー達に知らせてくれるように頼む。

 俺は右手で、寝ているユキノの頭を撫でる。


「本当に御心配されてましたよ。私が御主人様に近づく事も出来ない位、常に傍にいらしゃいました」

「そうか、ユキノにも悪い事をしたな」

「俺は見た感じ、変化は無いか?」

「はい、変わりませんよ」


 ステータスを開いて、能力値やスキルを確認する。

 異常らしいところは見当たらないが、久しぶりに自分のステータスを確認するが、恐ろしい程レベルが上がっていた。

 まぁ、ここ最近は特に色々とあったから、その影響だろう。

 スキル値が随分と減っているので、スキル値集めをしないと突然死する恐れがある。

 ……あれ? 【呪詛:服装感性の負評価】が無くなっている。

 何故だ? 理由が思い当たらない。


 いつからだ? 死後の世界に行った事が、関係しているのか?

 考え込んでいると、ユキノが目を覚ました。


「おはよう」


 寝ぼけ眼のユキノに挨拶をする。


「……タクト様!」


 喜びの余り、俺に覆いかぶさる。


「心配かけたみたいだな」

「……いいえ」


 ユキノは泣いているのか、涙声だ。

 シロは気を利かしたのか、居なくなっていた。

 暫くはユキノが離れなかったので、そのままの体勢でいた。

 ユキノは我に返ると、恥ずかしかったのか「申し訳御座いません」と言って、静かに俺から離れた。


 俺はベッドから起き上がり、体を軽く動かして違和感が無いかを確認する。

 特に変な感じはしないので、大丈夫だろう。

 シロとクロをもう一度呼び、ムラマサをいつも通り仕舞う。

 上半身裸になり、変な痣等が無いかを確認して貰う。

 俺がいきなり服を脱いだのに驚いたユキノは、見ないようにしているのか下を向いたままだった。


 俺が目を覚ました事を、ユキノはルーカスとダウザーにも報告したみたいで、ダウザーが凄い勢いでノックもせずに入って来た。


「タクト! 大丈夫なのか」

「心配かけたようだな。この通り、元気だ」

「おぉ、そうか。本当に心配したんだぞ!」

「悪かったな」

「どうして、倒れたんだ? トグルはタクトが倒れた原因を話そうとしないし……」


 シロとクロが、ザックを生き返らせた事は他言無用と、トグルとリベラ、タイラーに忠告していた。

 生き返ったザックも同様に忠告をしたそうだ。

 四人共、絶対に言わないと約束をしてくれた。

 俺が何も言わなくても、俺の考えを理解してくれるシロとクロには、本当に感謝をしている。


「まぁ、色々だ」

「色々ってお前……」

「それより、クニックスを討伐した事は聞いているよな?」

「勿論だ! トグルが倒したと聞いている。連絡を受けて、現場に駆け付けた騎士達が、六本腕だった魔物の死体を確認している。鑑定の結果、六本腕の魔物がクニックスだった事も確認済だ」

「今回の手柄はトグルだが、居場所を発見したのは弟子のザックとタイラーだから、褒めてやってくれ」

「勿論だ! 兄上から直々に礼を述べられるだろう」

「そうか、それなら安心だ」


 宿の追加代金の事等を話すが、ダウザーはそんな事は問題無いと言い、頑として話し合いに応じようとしない。


「分かった。ダウザーに借りを作ったと思っておく」

「そう言ってくれると、俺も助かる」


 ダウザーとの間で貸し借り等存在しないのは、お互い分かっていた。

 こうでも言わないと話が終わらない。


「ところで、服変えたか?」

「いや、いつも通りだ。【呪詛:服装感性の負評価】が何故か無くなった」

「そうか、いつものタクトだが、タクトっぽく無いんだよな」

「変じゃないと素直に言えばいいだろう」

「確かにな、変じゃないタクトはタクトっぽくないからな」


 冗談を言い合い笑う。

 しかし何故、【呪詛:服装感性の負評価】が解除されたのか不思議だ。

 後でエリーヌに連絡をして確認する事にする。

 何かの間違いで、一時だけ解除されている可能性もあるからだ。


「従業員達も心配していると思うから、ジークに戻る。世話になったな」

「そうだな、早く元気になった姿を見せてやれ」

「又、来るがきちんと仕事はしろよ」

「……分かっている」


 ダウザーに別れの挨拶をして、ユキノにも世話になった挨拶をしようとするが、ジークに着いて行く気のようだ。


「その服は目立ちすぎるから駄目だぞ」

「大丈夫です。この袋に着替えが入ってます」


 巾着袋から、着替えの服を取り出して問題ない事をアピールする。


「分かった。着いて来ていいぞ」

「ありがとうございます」


 ユキノが着替えるので、シロを残して俺達は部屋を出る。

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