第361話 死の世界!

 一瞬で目の前が、真っ暗になる。

 何処を見ても暗い。暗黒の世界とは、こういう事なのだろう。

 ザックの事を思い浮かべると、光の道が現れた。

 その道に沿って歩いて行くと、小さな光の玉に繋がっていた。

 これがザックの魂なのか?


「……ザックか?」


 俺がザックの名を呼ぶと、小さな光の玉は、ザックの姿に変わる。


「兄ちゃん! ここは何処だ? 俺は、死んだのか?」

「あぁ、そうだ。だが安心しろ、俺が生き返らしてあげるから」

「本当か?」

「任せておけ」


 そうは言ったものの、ここからどうしていいのか分からない。

 出口を思い浮かべると、先程と同じように光の道が現れた。


「この光の道に沿って歩いて行くからな」

「光の道?」


 どうやら、ザックには光の道が見えないでいるようだ。


「まぁ、俺の言う通りに歩いて行けば問題無い。くれぐれも俺から離れるなよ」


 ザックと手を繋ぎながら、光の道を歩いて行く。

 不安にならないように、色々な話をする。

 トグルとの稽古や、優しい姉リベラの事。そして双子の弟タイラーの事。

 本当に楽しそうに話す。

 静寂な空間なので、余計と会話が耳に入ってくる。


「兄ちゃん、話し方変だな?」

「そんなこと無いだろう? いつも通りだぞ」

「ううん、優しい話し方だし、いつもよりカッコ良く見える」

「ザックの思い過ごしだろう」


 そう言いながらも、指摘されたので幾つかの言葉を喋ってみる。

 丁寧語や、敬語が使える。

 この空間では、【呪詛】は無効のようだ!

 一瞬、喜ぶが根本的な問題は解決されていない事に気付く。


 暫く歩くと光の道が途切れて、薄らと穴が開いている事が分かる。

 そこから、ザックを呼ぶトグル達の声が聞こえる。


「トグル達の声が聞こえるか?」

「うん、小さいけど聞こえる」


 此処が出口で、抜ければザックは生き返れる。そう思った瞬間に、後ろから殺気を感じる。


「ザック、あと数歩歩けば出口がある。ここからは、ひとりで歩いてくれ。それと、今から何があっても絶対に振り返っては駄目だぞ!」

「兄ちゃんは、どうするの」

「あとで行くから、心配しなくても大丈夫だから、早く行け。皆が、お前を待っている!」

「……うん、分かった。兄ちゃん、約束だから必ず後から来てくれよ」

「大丈夫だから、早く行け」


 俺はザックの背中を押して、この場に留まりザックが消えるのを確認する。

 ザックが消えるのと同時に、光の道も消えた。

 カルアに、こちら側の住人と話をしては駄目だと忠告を受けていたが、その前に俺が動けば間違いなく俺とザックを襲っていただろうという殺気が背後から感じる。


「お前、エルフじゃないな」


 話をしてはいけないし、動く事も出来ない。

 魔法を使おうかと思っていたが、どうやらスキルの類はこの場所では使えないみたいだ。

 今の俺は、普通の弱い人間という事になる。

 仕方ないので足を前に出して歩こうとすると、出した筈の右足が無くなり激痛が走る。

 暫く痛みとは縁のない生活をしていたから、久しぶりの痛みに悶絶する。


「お前は何者だ」


 とても耐えられないような激痛だったが、数秒後に右足も戻り痛みも無くなった。

 ……幻覚か? しかし、あの痛みは本物だった筈だ。


「お前は何者だ」


 同じ質問をしてくる。

 進む事も許されないなら、この声に答えるしかない。


「人間族のタクトと言います」


 俺が答えると、目の前に真っ黒なフードを被った者が姿を現す。


「人間族は、ここへの出入りが出来ない。嘘をつくな」

「本当です。調べて貰っても結構です」


 俺は両手を広げて、嘘や戦う意思が無い事を表す。

 黒フードは持っていた杖を、俺の額に押しつけた。


「……嘘では無いようだな」


 俺の疑いは晴れたようだ。


「しかし、お前をこのまま元に戻す事は出来ない」

「えっ! ちょっと待って下さい。俺は生き返らないといけないんです」

「理由は知らないが、死を受け入れろ」

「俺は、神から頼まれてこの世界に来たので御願いします」

「神だと! ガルプの使者か」

「いえ、違います。ガルプは前の神で、今の神はエリーヌと言います。俺はその使者です」

「少し、待て!」


 黒フードは、何処かと連絡を取っているようだ。

 暫く待たされた後に、更に大きな黒フードが現れた。


「お前が、神の使者か!」

「はい」

「今回は特例で戻してやるが、次回はそれ相応の対価を貰う」

「対価とは?」

「お前と死者の大事な何かだ」

「……分かりました。ところで貴方達は誰なんですか?」

「我らは、死の管理者であるオーカス様の部下だ」


 ……死の管理者オーカス? 神では無いのか?


「ありがとうございます。オーカス様にも宜しくお伝え下さい」


 丁寧な言葉が喋れる有難さを噛み締める。

 出口を思い浮かべると、先程とは別の光の道が現れたので、その道に沿って歩いて出口を目指す。

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