第355話 即興料理!

 さて、困った。何を作るかだ。

 とりあえず、食材を見てみるが、料理人達の期待が大きい分、期待外れの料理を作るわけにはいかない。

 まず、馴染みのある食材を手に取るが、イメージが沸いてこない。

 白い粉があるが、小麦粉か?


「この粉は何だ?」

「パンを作るときに使う小麦粉です」

「そこにおいてあるパンも使っていいのか?」

「はい、失敗作ですが宜しいですか?」

「あぁ、構わない」


 シロに手伝って貰い、パンを魔法で一旦凍らせて、下ろし金のようなもので削る。

 次に廃棄寸前のくず肉をミンチにする。

 根菜である玉葱もあるので、みじん切りにして炒める。

 ミンチと玉葱、卵を入れて塩を振る。

 牛乳が無いので、山羊乳を入れて掻き雑ぜる。

 一口サイズにして空気を抜いて焼く。

 そう、ハンバーグだ。


 そして、一口サイズにしたものに小麦粉、卵にパン粉の順番でつけて油で揚げる。

 メンチカツの完成だ。


 添え物として、胡瓜を縦に半分で切り、包丁が下まで切れないように胡瓜の上下に細い棒をおいて、一定間隔で切る。

 切り口を外にすれば、丸くなるので、大きさの違うものを作り上に乗せる。

 

 ハンバーグに、メンチカツ共にソースは無いので、このまま食してもらうことにする。


「ソース無しで一度味わってみてくれ」


 料理人達が一斉に、皿へ突進してきた。

 一応、美味しいと高評価なので安心した。

 

「タクトさん」


 ビアーノが両方食べ終わったのか、早々と俺に感想を言いに来た。

 まず、廃棄するはずの肉を細かくして使う事に感動したらしい。

 この世界で肉と言えば、ブロック肉が当たり前の中で、捨てる所を使うのは素晴らしいと褒めてくれた。

 ハンバーグの中にある甘みを聞かれたので「玉葱」だと答える。

 焦がさない程度にしんなりと茶色くなるまで炒めると、甘くなる事を教える。

 ハンバーグは焼く前に形を整える際に両手で空気を飛ばすのが重要だと、手の動作を交えて説明をした。


 最後に、カツについてだ。

 パンは凍らせなくても削れば問題ない事と、削る大きさによって食感も変わる事を伝える。

 今回はメンチカツだったが、ブロック肉でも薄くすれば火は通るので、肉に塩と胡椒を振ってから揚げてみると旨いと教える。

 この世界には、まだカツのような調理法が無かったようだ。


 気が付くと、ビアーノに話をしている後ろで、料理人達はメモを取っていた。


「タクトさんの料理には驚かされますね」

「ソースは、ビアーノ達に任せるから、合うものを作ってくれ」

「それは、責任重大ですね」


 しかし、この世界ではウスターソースや醤油等が無いのが不便だ。

 この世界の食事が味気ないのは、調理方法もそうだが調味料やソースが少ないからかも知れない。


「しかし、本当に勿体無いですね」

「なにがだ?」

「タクトさんの料理です。料理人でも無いのに、ここまで見せ付けられると料理人としては自信を無くしますよ」

「この国の最高料理人であるビアーノが、そんな事を言っていては駄目だろう」

「そうですが、タクトさんやガイルに会ってから、色々と考えさせられる事が多いですからね」

「何も考えずに生きている奴なんて、俺くらいだぞ!」


 ビアーノの顔に笑顔が戻る。


「あの胡瓜は何故、丸くしたのですか?」

「あぁ、料理は見ても楽しむものだと教わったから、飾り切りと言って細工をしてみたりする」

「そうなのですね。私達の細工とは次元が違いすぎたので、衝撃でした」

「簡単な奴をもうひとつ教えようか?」

「是非とも!」


 俺は、再度胡瓜で『くらかけ切り』を披露する。

 料理人達から歓声が上がる。

 俺は料理人達に向かい、他の食材でも使えるから、色々な食材で試して欲しいと伝える。


 早速、試してみたいのか何人かの料理人が包丁を手にした素振りで、食材を切る動作をしていた。

 こういう事の積み重ねが大事なんだと、改めて感じさせられる。


 しかし、前世で飲食店のバイトの同期が教えてくれた飾り切りが、こんなにも好評なのは嬉しかった。

 いずれは料理の道に進みたいと言って、金目的の俺とは違い純粋に料理と向き合っていた。

 好きな事を仕事に出来るのは、ほんの一握りの者だけだ。

 残りの者は、好きでも無く嫌いでもない仕事を生活の為に、毎日こなしているのだと思う。

 そう考えると、今の俺は好き勝手なので恵まれているのだろうと、改めて感じさせられる。

 四葉商会の従業員達にも、やりたい事を出来る限り後押ししてあげたい。

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