第356話 真剣な話し合い!

 思っていた以上、厨房に長居してしまった。

 部屋に戻ると、ルーカスにアスランと護衛三人衆のターセルとカルアそれに、ダウザーしか居なかった。

 女性陣は皆、部屋に戻ったそうだが多分、別の部屋で女子会をしているだろうとの事だった。

 ユキノに女子会の方に行くかと聞くが、「タクト様と一緒で!」と即答される。


 ダウザーは、マリー達には「明日朝一で、大事な用事を頼んだ」と謝罪したそうだが、「どうせ、いつも居ませんから大丈夫です」とつれない言葉が返ってきたそうだ。

 一応、トグルにもロキからは伝えて貰ったそうだ。


「偶然か? それとも意図的に、このメンバーになったのか?」

「偶然に決まっておろう!」


 話しにくい議題に適したメンバーだったので、気になって聞いてみたが、やはり只の偶然だったようだ。


「まぁ、このメンバーになったのも何かの縁てことだな」

「そう言って貰えると助かる」


 ルーカスは此処最近の出来事を順を追って、国としてどう対応しているかを報告した。


 まず、コボルトの奴隷場だが、駆けつけた時は衰弱している者や、怪我をしている者も居た。

 それよりも、人族というだけでかなり警戒をされていて、襲い掛かって来る者も居たそうだ。

 今は、随分と大人しくなり、カルアの部下とも信頼関係が築けているそうだ。


「そうか、それなら俺が責任を持って、ゴンド村に移住させる」

「分かった。出来れば早々に頼みたい」

「明日の朝一で移住させる。ゴンド村には以前からコボルト移住の話はしているので、問題ない。ダウザーの用件はこの後になるがいいか?」

「それは構わん」

「ダウザーも何か依頼していたのか?」

「クニックスの件だ」


 クニックスと言う名を出すと、ルーカスは嫌悪感を露にする。

 当たり前だろう、実子であるアスランに対して、【呪詛】を掛けた張本人だ。


「今迄、発見されなかったクニックスらしき者が、最近ソルデ村付近に出没していると情報が入ったので、タクトに調査を依頼した」

「そういう事か、先にクニックスの件でも良いぞ」

「いや、クニックスの方は確実な情報じゃない。それよりもコボルト達を自由にしてやりたい」

「……分かった、タクトに任せる。カルア、部下に連絡をしておいてくれ」

「承知致しました」


 コボルト達の奴隷場の件は、これで話が終わった。

 続けて、奴隷制度の話をしようとするが、


「今、話さなくてもいい。問題があることは分かっている。結論は急がない」

「そうか、悪いな」


 ルーカスは申し訳なさそうに話す。


「隣国との問題は、どうなんだ?」


 俺から気になっていた事を聞いてみる。


「あぁ、それなんだが近々、代表者同士で話し合いが行われる。」


 オーフェンやシャレーゼと三国会談をすると、ルーカスは話した。

 議題は、各地の異常な現象等だが、それは建前だと言う。

 実際は各々の国の情勢等に探りを入れたりするそうだ。


「ゴンド村の件も、皆に知れ渡るのも時間の問題だ」


 確かに、いつまでも隠し通せる訳が無い。

 一応、魔族との境界に近い事と、『迷いの森』があるので、人が来る事は殆ど無い。

 少し前まで、帰って来れない場所だったからだ。


「そこは、国王と領主であるリロイの判断に任せるしかない」


 他力本願みたいだが、国に属している以上仕方が無い。

 当たり前だが、悪い方向にだけはしたくない。

 ゾリアス達には、もう一度訪れたくなるような村づくりを頼んでいるから、余程の事が無い限り大丈夫だろう。


 エルフの奴隷問題も、エルフ側からは何も連絡が無い為、国としても迂闊に動く事が出来ない状態らしいが、動き出すと厄介な問題なのは確からしい。

 人身売買については、下っ端は何人も捕らえてはいるが黒幕が分からないでいる。

 組織解明には、もう少し時間が掛かるそうだ。

 ……俺が【全知全能】に質問すれば、すぐに分かるかも知れないが、変な横槍を入れるのは止す事にする。

 その後も、夕食時に話に出た金貨の話をしてきたが、ここ最近は金が不足しているそうで、毎年問題視しているが良い案が無い為、ずるずると先延ばしになっているそうだ。

 銀貨や銅貨等も考えているが、上手く移行出来るかが不安のひとつらしい。


「そもそも、銀や銅は十分に足りているのか?」

「そこは問題ない。一番の問題は金貨が金貨の価値で無くなる事だ!」


 ルーカスが、何を言っているのか分からなかったが、よくよく話を聞くと、銀貨と銅貨を流通させると今迄持っていた金貨の価値が変わるという事を言いたかったらしい。


「新しいデザインの金貨を発行して、今ある金貨を回収して銀貨や銅貨に変えれば良いんじゃないのか?」

「それを誰がやるんだ?」

「商人ギルドで良いんじゃないのか? 例えば、今の金貨の枚数に応じて手数料を払えば、喜んでやるんじゃないか?」

「市場が混乱しないか?」

「最初だけだろう。前もって変更する時期を連絡して、今の金貨との価値を覚えさせておけば、問題ないだろう?」

「確かにそうだが、以前の会議でも国全体に伝わるかが問題になった」

「それは領主の仕事だろう。領主に言って領地の民に伝わっていないなら、領主失格だろう」

「……タクトの言いたい事は分かった。今度、議論の場で議題にあげておく」


 今迄の貨幣を変更してこなかった分、弱腰になっているのが分かる。

 しかし、金不足が深刻なら早く手を打たないと、手遅れになる可能性のほうが高い。

 こんな問題は独裁者なら、勝手に決めて後は「宜しく!」って感じだろうが、良くも悪くもルーカスは人の意見を良く聞く国王なので、強引な決断は出来ないのだろう。

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