第344話 危険な香!

 ランドレスの根城は、都市というよりも研究施設の周りに、街が出来ていた感じだったが、何年も瓦礫のまま放置されているようだ。

 何故、北の都市に居るという情報になっているか疑問だった。


「ここは、以前にネロ様が破壊された研究施設の跡地になります」

「……ネロが破壊した?」


 クロの説明だと三〇〇年程前に、吸血鬼の人体実験をしていた場所らしい。

 そういえば、ネロが人族との争いをした説明の際に、そのような事を言っていた。

 確かに、誰も寄ってこないし王国も復興する気が無いのか分らないが、三〇〇年間手つかずのまま放置されていた。

 ランドレスが根城にするには、丁度良い物件だったかも知れない。

 とりあえず、逃げ出せないように出入口が何ヶ所あるかを確認する。

 全部で四ヶ所だ。

 クロは潜入させるとして、俺とシロでは、四ヶ所を見張る事は出来ない。

 【分身】で残りの二ヶ所を見張らせる。

 施設より外に出てきた者は、全て捕らえて【結界】で閉じ込めておく。

 シロとクロには、全てを伝えなくても俺の意思を理解してくれているので、早速行動する。


 数時間、監視しているが施設より外出する者は居ない。

 夜になってから行動するという事なのだろうか?

 クロからは、ランドレスの仲間六人を捕獲したと報告が入る。

 村民や奴隷は監視が厳しい為、慎重に遂行しているらしい。

 俺が外で騒ぎを起こす隙に、村民と奴隷を救ってくれるように伝える。


 【風弓】で出入口のひとつを破壊する。

 大きな音が響き、出入口は瓦礫の山となり封鎖された。

 俺の思いとは違うが、これであれば入口をひとつに出来ると思い、シロにも破壊するように伝える。

 俺も、もう一ヶ所の出入口まで行き、同じように破壊をする。

 これで出入口は、ひとつだけだ。

 【分身】を解き、シロと合流をする。

 建物の中であれば、あの香を使う事は出来ないと思うので、一石二鳥だ。

 施設内に入ってから出入口を塞ぎ、誰も逃げ出せないように細工をしておく。


 【隠密】を使い、施設の中を調べるが、外同様に瓦礫だらけだ。

 幾つか道が分かれているので、声が聞こえない方へ進んでみる。

 研究室だった場所に入っていると、瓦礫に崩されているが、解剖道具のような物やベッドだったであろう物が置いてあるのが確認出来る。

 黒い染みのようなものは、もしかしたら血なのかも知れない。

 どうしても、生体実験施設を思い出す。

 ここで、人体実験が行われていた事は公にされていないとはいえ、今でも知っている者が居る筈だ。

 廊下であったであろう場所を進んで行きながら、途中にある部屋を見て回る。

 殆ど崩壊している為、部屋とは呼べない場所ばかりだ。

 最近、使用された形跡もない。

 これ以上進んでも何もない可能性もあるので、この先の調査はシロに任せて廊下を戻り、声が聞こえる方に進む事にする。


 先程の廊下が分れていた場所より少し先で、ランドレスの仲間と思われる物がふたり居た。

 【隠密】なので、ふたりは俺が居る事を認識していないので、普通に会話をしている。


「今夜は、俺が勝つからな」

「何を言っている。お前、最近負けてばかりだろうが」

「あぁ、だから今夜は今迄の負け分を取り返すつもりだ」

「しかし、攫ってきた村の奴等を戦わせて、勝敗を賭けさせるなんて、ランドレスの親分の考えは凄いな」

「あぁ、あの香があれば命令に逆らえないからな。男は賭けの対象として戦わせて、女は弄べるし最高だな」

「俺達も、あの香を吸わないように気を付けないとな」

「確かにな、一歩間違えば俺達も同じだからな!」


 こいつ等の話をもう少し聞いていても良かったが、とても気分の良い話でも無い。

 とりあえず、クロを呼び寄せてこのふたりを捕らえて貰う。


 シロが戻って来たが、先程の廊下の先には何もなかったそうだ。

 外で何か動きがあるといけないので、シロには外で待機をして貰う事にする。


「主、少し問題が……」

「どうした?」


 捕らえられている村民達が、急に暴れ出したそうで監視しているランドレスの仲間が香を焚くと、嘘のように大人しくなったそうだ。

 その騒ぎに乗じて、数人の村民を保護したそうだがクロから見ても、あきらかに禁断症状だったと言う。


「その香には、中毒性があるという事か?」

「はい、そうかと思います」


 このまま、ランドレスから解放しても、禁断症状での苦しみが考えられる。

 数日で治まれば良いが、幻覚や錯乱して暴力や殺人等に発展する恐れもある。

 【全知全能】に質問をする。

 元冒険者で、三〇〇年前に破壊された施設に居るランドレスが使った香は何かと。

 答えは『魔香まこう』の一種である『血瘴香けっしょうこう』と言い、香を焚く際に使われる『魔香炉まこうろ』にある玉に命令や欲望を思い描いて触れ、香を焚くとその効果を香に乗せる事が可能らしい。

 催眠効果以外にも、催淫効果も有る。

 中毒性もあり、多用すると匂いの効果が無くなると香を欲する発作が起きる。

 血瘴香は、人族や魔族の血液から作り出される。

 魔香炉を持っていれば誰でも使用出来るが、血液を大量に使用する為、術者への負担も大きい。

 古の技術で作られた物の為、現在この世界では、ひとつしか存在していないらしい。

 因みに、この世界で製作出来る者がいるかと言う質問には、「居る」という回答だった。

 その者の名を聞くと、「俺」だった…… 


 この話なら、ランドレスはなんらかの方法で血瘴香を手に入れて、村民達に催眠効果を掛けた事になるが、媒体となる血液はどうなっているのかが疑問だ。

 続けて質問をすると、ランドレスは幾つかの村で大量に村民から血液を奪い貯蓄しているそうだ。

 しかし、最初に襲った村に使った血瘴香の媒体となる血液はどうしたのかと質問をすると、この施設に保管されていた血液を使ったという回答だった。

 つまり、研究施設に眠っていた血液を使い村民から血液を奪い、ここに連れてくる村民に使ったと言う事になる。

 目的が全く分からないが、ランドレスが鬼畜だと言う事だけは分かった。 

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