第312話 ライラの弟子入り!

 王都での用事もあらかた片付いたので、世話になった人達へ挨拶に回る。

 まず、魔法研究所に行く。

 シーバとローラに挨拶をすると、ローラから魔法研究所との契約書を渡される。

 正式に、四葉商会と魔法研究所とで契約が結ばれた。

 ジークに戻ったら、皆にローラが四葉商会に入った事を伝えなければならない。

 どうせ、引越しの時にジークに戻るだろうからその時でも良いだろう。

 シーバには転移扉が出来次第、設置も含めてルンデンブルクにある魔法研究所を案内してもらう事にした。


 城に戻り、訓練場を訪ねるとソディックが、騎士団達と訓練をしていた。

 俺はソディックに、ジークへ戻る事を伝える。


「そうですか、本当に色々と御世話になりました。私個人としても、王国騎士団としても大変感謝しております」

「大袈裟だな」

「いえ、決してそのような事はありません。私や騎士達の命を救って頂いたことは事実です」

「まぁ、なんだかんだでスグに王都に来ることになるかも知れないけどな」

「そうですか、永遠の別れでは無いですが、やはり寂しいですね」

「嬉しい事を言ってくれるな」

「タクト殿、それと御願いがあります」

「ん? なんだ?」

「実は、ユキノ様やヤヨイ様が信仰している『エリーヌ様』を信仰したいと言っている騎士達が多くて、我々も信仰しても良いかと承諾を得たいと思いまして」

「別に俺の承諾を得なくてもいいぞ。信仰するのは本人の自由だからな。それなら、これを王国騎士団に寄付してやる」


 【アイテムボックス】から、オリヴィアが製作したエリーヌの像を出す。


「これが『エリーヌ様』なのですか!」

「あぁ、そうだ」


 随分と美化されているが、その事は言えない。


「一応、神だから大事に扱ってくれよ」

「はい、勿論です。ありがとうございます」


 ソディックは騎士達にエリーヌの木像を丁寧に運ぶよう指示を出していた。


「それじゃあな!」


 最後にソディックと握手をした。


「少し、御待ち下さい」


 帰ろうとする俺をソディックが止めた。

 ソディックは騎士達を集合させると、俺への感謝の証なのかソディックの掛け声と共に、騎士達が一斉に天へ剣を突き出した。


「ありがとうな」


 そう一言言って、背中を向けた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「もう、帰るのか?」


 コスカが驚いた口調で俺に聞いてきた。

 一応、三獣士達にも挨拶をしようと訓練場を訪れると、コスカとライラに冒険者数人しか居なかった。

 コスカはライラに指導していたようだ。


「あぁ、王都での用事も終わったしな」


 コスカは残念そうだが、それは俺に向けての感情では無い事は分かっていた。

 ライラと離れるのが寂しいのだろう。それは、ライラも同じなのかも知れない。

 王都での環境は、ライラにとって冒険者として強くなるためには申し分ない。


「ライラ、もう少し王都に残るか?」

「……でも」

「ライラが今、何を一番に優先したいかだ。ここで冒険者として強くなるのも良いし、ジークに戻って今迄通りの生活するのも良い。決めるのは、ライラ自身だ」


 即答しない事からも、悩んでいるのが分かる。


「コスカ、ライラを預けるから一人前の魔法士に育ててやってくれないか?」

「えっ!」


 突然の頼みにコスカは驚いた後、ライラを見た。


「コスカが魔法士としては、一流なのは認める。その一流魔法士に教えを乞う事が出来れば、ライラ自身も冒険者として格段に強くなる」


 コスカは困惑しているが、『一流魔法士』と言われた事が嬉しい様子だ。


「数回しか見ていないが、コスカがライラに教えている所を見ている。お互い良好な関係だと思うし、俺から見ても良い師弟関係だと思うぞ」

「そ、そうかな」


 コスカが、ニヤけながら照れている。


「おぉ、ライラもコスカを師匠と呼んで、もっと魔法を学びたいだろう?」

「うん、コスカさんは教え方が上手だし、師匠と言えばコスカさんになると思う」

「そうだろう、店の事は心配しなくていいから、自分の気持ちに正直になれ」

「……私は、コスカさんが迷惑でなければ、もっと魔法を教えてもらいたいです」


 やはり、子供は気を遣わずに正直に過ごして欲しい。

 子供と言っても、年齢は俺より上だが……


「コスカ、ライラもこう言っているし頼めないか?」

「そこまで言われたら、仕方ないわね。私の教えは厳しいわよ。大丈夫?」

「はい、コスカさん。いえ、コスカ師匠!」


 コスカは、ライラに師匠と呼ばれて、より一層ニヤけている。

 煽てると調子に乗るタイプと言うのは、間違いないようだ。


「王都に居るのなら、ライラの宿も探さないといけないな」

「それなら、師匠である私の所に泊まれば良いわよ!」

「コスカ、家持っているのか?」

「……宿屋だけど、ライラひとりくらいくらい増えても問題無いわ」

「そうか、それなら宿代半分出すから、宿代を教えてくれ」

「何を言っているの、弟子の面倒を見るのは師匠の役目でしょう。そんな気遣い不要よ!」

「コスカ師匠!」


 コスカと一緒に居ると、ライラの性格も変わってしまわないか不安になるが、ここはコスカに甘える事にする。


「ライラ、頑張れよ」

「うん!」


 コスカに「ライラを頼む」と言うと、「任せておいてよ!」と自信満々で答えた。


「ところで、ナイルや三獣士達は何処に居るか知っているか?」

「ナイルなら、そこに居るわよ」


 視線の先には、訓練場の隅でひたすら剣を振っている冒険者が居た。


「……あれ、女性だぞ!」

「そうよ」

「もしかして、ナイルって女性だったのか?」

「えっ、何を今更言っているのよ!」


 確かに、剣士にしては小さかったが、その分ソディックと同じ様にスピード重視での戦いだった。

 ここ一番でのユニークスキル【一刀両断】もあったりしていたし、力負けしている印象も無かった。

 容姿だって、長髪だが男でも長髪の奴は多数いる。

 完全に俺の選択肢から、剣士が女性だという事が抜けていた。

 女性に対して鳩尾を殴った事に、物凄く罪悪感が出てきた。

 少し気まずい気持ちのまま、ナイルが剣を振っている所まで行く。


「よっ、ナイル!」


 俺の言葉に、剣を振るのを止めて振り返る。


「タクト殿でしたか、私に何か用ですか?」

「いや、王都を離れるから挨拶だけしておこうと思ってな」

「それは、わざわざ御丁寧に」


 ナイルは頭を下げる。


「俺に負けたのが納得いかないか?」

「いえ、一度目は私の驕りでしたし、二度目は完敗でした」

「そうか、鳩尾を殴ってすまなかったな」

「何故、謝る必要があるのですか? 勝負であれば問題無い筈です」

「いや、確かにそうだが……」


 それ以上、言葉が出てこなかった。

 決して、女性軽視している訳では無いが、女性を殴ると言う行為が自分の中で許せない。


「差別している訳では無いが、俺は女性を殴らないつもりでいたが、ナイルが女性と知らなかったので鳩尾を思いっきり殴ってしまった事に対する謝罪だ」

「……そうですか。戦いの最中は、性別関係無く戦ってくれていたという事ですね」

「本当にすまない」

「気にする事ではありません。戦いに性別は関係無いですから」


 そう言うと、再び剣を振ろうとしていた。


「ところで、スピード重視の戦い方なのに、そんな重い剣をどうして使っているんだ?」


 疑問に思い聞いてみる。


「それは威力があるからです」

「しかし、【一刀両断】のスキルがあれば、威力は関係無いだろう? それに剣が重いとナイルのスピードが落ちるんじゃないのか?」

「確かにそうですが……他の戦い方を知りませんし、これが普通だと思ってます」

「ちょっと待っていろ」


 ナイルを待たせて、訓練場においてある剣を持ってきた。


「この軽い剣を出来るだけ早く振ってみたらどうだ?」

「それだと威力が落ちる」

「確かにそうだが、スピードを乗せた剣は普通に振るより威力があると思うぞ」

「……確かに、一理あるかも知れないな」

「まぁ、ナイルなりの戦い方があるから、所詮は素人の意見だから聞かなかったことにしてくれ」

「いや、参考になった。感謝する」


 ナイルに別れの挨拶をして、三獣士を探す事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る