第311話 堕落した冒険者!

 ヘレンから、一枚の紙を見せられてランクS以上の冒険者に必要な説明を受ける。

 まず、ランクB以下のクエスト受注の禁止だ。

 これは、先程思っていた事なので理解出来た。但し、例外としてパーティーの場合は問題無いそうだ。

 ギルドとしては、その方が討伐達成率は上がるし、死亡率も下がるのでパーティーを編成する際は、受注クエストよりも高ランクの冒険者と組む事を推薦していると、補足で説明してくれた。

 次に、冒険者の育成が書いてあった。

 この項目は強制では無いが、ギルドとしての御願いだと説明する。

 パーティー編成の件にも共通する事だが、出来る限りで良いのでとヘレンが頭を下げる。


「出来る限り協力はするが、確約は出来ないからな」

「それで構いません。あくまでギルドとしての御願いですから」


 ヘレンは再度、頭を下げた。


「最後になります」


 そう言って、似顔絵の下に名前と身体的特徴の書かれた紙を十数枚机の上に置いた。

 冒険者のギルド会館に張ってあったのと同じだ。

 確か『要注意人物』とか「見かけたら連絡を」みたいな指名手配犯のような事が書かれていた気がする。

 俺自身、あまり興味が無かったので詳しくは見ていなかった。



「……なんだ、これは?」

「この人物達は、元冒険者になります」


 紙に書かれていた者達は、元冒険者で今は犯罪者だとヘレンは説明をする。

 『盗賊』や、依頼を受けての『殺人』等を行っており、国として捕まえる必要があるそうだ。

 懸賞金と報酬まで書かれているので、賞金首なのだろう。

但し、報酬が少なく危険度が高い。

冒険者を悪用している過去がある為、冒険者ギルドとしては、なんとしても捕まえて裁きを受けさせたいと考えているようだ。


「この生死問わずってのは、そのまま捉えていいのか?」

「はい、本人と断定出来れば問題ありません。出来れば、生きたまま捉えてもらえると助かります」


 確かに、背後関係などがあれば、生きたまま捕まえた方が良いだろう。

 生死問わずとは、冒険者の安全を考慮してのギルドとしての建前なのだと感じた。


「こいつ等を捕まえて、ここに連れて来ればいいんだよな?」

「はい、そうです」

「この紙で全員なのか?」

「はい」


 ヘレンが答えると「ちょっと待っててくれ」と机の下に紙を隠して【複製】で自分の控えを作成して、机の上に戻す。


「俺が出来る限り、捕まえてくるけど良いか?」

「えっ、それは構いませんが、ここに乗っている者達はランクA以上ですよ」

「ランクS以上も居るのか?」


 そう言うとヘレンが、数枚の紙を出してランクS以上は指名手配犯達を並べた。


「そもそもなんでランクS以上の奴らが、こんな事になっているんだ?」

「……それは、俺から説明しよう」


 ジラールがヘレンに代わり説明を始めた。

 『ピゴール』と書かれていた男は、ダンジョン出口で報酬を巡り仲間と口論の末、仲間を殺した後にダンジョン出口で待ち構えて、出口に近づいてきた冒険者達も殺した。

 騒ぎに気が付いた他の冒険者が立ち向かおうとすると、冒険者の中にランクSや、ランクAが居る事に気が付き、戦闘は不利だと判断したのか、隙を見て逃げ出したそうだ。

 『デュロック』は、雇主であった貴族を殺害して屋敷に火を放った。

 屋敷からは金目の物を奪い逃走しようとしている所を、逃げようとしていた使用人達に見つかり使用人達を襲ったが、息があった数人の使用人達の証言から、デュロックが犯人だと判明した。

 『ランドレス』は元々ギルマスだったが、次第に自分の影響力を大きくしていき、仲間と共に村自体を支配して傍若無人な生活をして、近くを通った冒険者や商人達も襲い始めたそうだ。

 冒険者時代も自分勝手な行動で、冒険者達からも煙たがられていた存在らしい。

 国賊として、国からも一級犯罪者とされている。


 話を一通り聞き終わったので、質問をする。


 まず、今迄捕まっていない理由を聞く。

 ジラールはランドレス以外は、所在が不明な事を理由にあげた。


「犯罪者になった以降は、犯罪の形跡は無いのか?」

「いや、何度か冒険者や貴族等が襲われた際に発見されている。いずれも単独な為、一度逃げられると足取りが掴めない」

「ランドレスは、どうなんだ?」

「奴は、支配していた村を捨てて、北にある破壊された都市の近くに拠点を構えている」

「場所が分っているなら、騎士団と共闘すればいいんじゃないのか?」

「それがな、そこの領主である『アモイ』様が自分達で討伐すると、頑なに拒んでいるんだ」

「国王が命令だと言っても駄目なのか?」

「基本的には、領地の問題は領主が解決するのが大前提だからな。騎士団は冒険者のように自由には動けないのが実情だ」

「冒険者は、国とは関係無いからか?」

「一応、冒険者ギルドや商人ギルドは、国とは別の機関だからな」

「けど、グラマスは国王からの頼みだったんだろう?」

「あぁ、それは前任のグラマスと国王様が親しい仲だったのもあるのだろう」

「あぁ、大体の理由は分かった。もうひとつ質問いいか?」

「あぁ、いいぞ」


 今のランドレスの事で、気になっていたジークに来た時にフランがシキブに向かって言った事について質問する。


「昔のゴンド村のように、ギルドが管轄していない為、苦しんでいる村などは無いのか?」

「……悪いが、全てを把握していない。基本的には各ギルマスに任せているし、毎回報告も受けていない」

「各拠点の冒険者ギルドが、健全に機能しているのかの判断は、ギルマスの報告だけって事か?」

「そうだ」

「俺が口挟む事では無いが、ランドレスのような奴が現れても、発見が遅れるって事だな」

「残念だが、そういう事だ」


 触れられたくない事に触れられたのか、ジラールもヘレンも申し訳なさそうにしている。

 実際、シキブもギルマスとしてゴンド村の事は報告していないのだから、他のギルマスも同様な事は十分に考えられる。


「別に責めるつもりは無い。俺はあくまで、いち冒険者だからな」


 運営には運営の難しさがあるのは理解している。

 その事を責めた所で、俺に何か代案がある訳では無い。

 あくまで現状確認をしただけだ。


「それじゃあ、俺はそろそろ戻るから、何かあれば連絡をくれ」


 世話になったジラールとヘレンに別れの挨拶をして、冒険者ギルド本部を後にした。

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