第313話 伝える思い!

 城にいた者達に三獣士達の居場所を聞くと、客間に居ると教えてくれた。


「何処かに行くのか?」


 旅支度をしていたロキサーニに聞く。


「えぇ、国王様の依頼で明日にでも旅立つ予定です」

「忙しいんだな」

「はい、色々とありますので」


 極秘事項なのか、依頼内容は話そうとしない。

 俺も聞くつもりも無い。

 セルテートとステラにも、挨拶はするが先日までの無礼さは無かった。

 セルテートは「今度、会った時は負けない!」と話すが、ステラに「無理」と一蹴されていた。


「タクト殿、連絡先教えて貰っても良いですか?」

「別に構わないが、俺に連絡してくる事なんて無いだろう」

「そうかも知れませんが、人族最強と言われている方の連絡先を聞いておいても、損はありません」

「成程な」


 ロキサーニを始め、セルテートとステラとも仲間フレンド登録する。


「ところで、毎回こんな感じで、帰ってきてはスグに旅立つのか?」

「はい、そうですね。ただ、後任が育ってきているので、少しは楽になるかと思います」

「後任?」

「はい、ナイルとコスカです」


 成程、あのふたりなら納得だ。

 ここにいる三獣士程ではないにしろ、実力なら申し分ない。

 只、連携して戦闘している所を見た事が無いので、その点に関しては心配はある。

 ロキサーニの話だと、あと二人居るそうだ。

 今は任務の為、王都には不在みたいだが、いずれはこの四人が三獣士の後釜になるそうだ。


「そうすると、ロキサーニ達は引退なのか?」

「いえ、今よりももう少し自由が利く近場の任務になるかと思います」

「次の世代に任せる訳だ」

「はい、そうですね」


 年中、旅ばかりして特別任務を遂行していれば、気の休まる時間も無いだろう。

 それ程、過酷な事をしているのだと改めて思い、三獣士達を尊敬した。


「体に気を付けてな」

「タクト殿も」


 三獣士に挨拶をして、部屋を出た。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「送って行ってくれないのか?」

「俺が送らないといけない理由があるのか?」

「勿論だ。護衛を付けて王都に来ていないから危ないだろう」


 ダウザーが、あたかも正論かのように俺へルンデンブルクまでの送りを頼んできた。


「お前が考案した転移扉が出来るまでだから、今回だけ頼む」

「毎回、今回だけと言っている気がするが?」

「護衛無しに移動して、俺達が死んでもいいのか?」


 完全に脅迫だ。


「……分かった。その代わり、今回だけだからな」

「流石タクト、話が分かる」


 元々、送るつもりでいたが当たり前のように言われるので、少し抵抗しただけだ。

 ルーカスには、扉が出来たら連絡を貰うように頼む。

 アスランが「本当に有難う御座いました」と何度も俺に頭を下げる。

 ヤヨイには「ソディックと仲良くな!」と小声で言うと、顔を真っ赤にしていた。

 ユキノは、涙目で俺を見ている。


「御父様、私もタクト様と一緒に行っては駄目でしょうか!」


 ユキノはルーカスに無茶な事を言い始めた。

 王女の外出許可が、そんな簡単に出る訳ないだろう。


「少しなら、構わぬぞ」

「ありがとうございます」

「……ちょっと、待ってくれ」


 一旦、会話を止める。


「いつも、一緒にいる訳でないから安全は保障出来ない。何かあってからでは遅いので、駄目だ」

「どうせ、お主は数日で王都に戻って来るから、それまでだけだ」


 数日後に、転移扉に使う扉が出来上がるので、それまでの間だけ面倒を見てくれという事らしい。

 ルーカス曰く、数日くらいは俺も休めばいいと言うが、俺にも予定はある。


「とにかく、俺も予定があるから駄目だ。ユキノを危険な目には合わせたくないからな」

「そんなに、私の事を大事に思って頂けるなんて……」


 俺の言葉にユキノが感動しているが、王女を危険な目に合わせたくないのは当たり前の事だ。

 変に誤解を与えるといけないので「国民が王女を大事にするのは、当たり前の事だ」と伝えると、寂しそうな表情を浮かべる。


「色々と世話になったな」


 護衛三人衆の、ターセルとカルラ、ロキに挨拶をする。

 ターセルは、弟子のカンナに手紙を渡して欲しいと言われたので、了承して手紙を受け取った。

 カルアには、出来れば王都にアルとネロを連れて来ないようにと頼まれた。

 俺はカルアに「今度、ロッソのダンジョンに行く」と言うと、少し考えてから「ちょっと、待ってて」と部屋から出て行った。

 ロキは、俺のユキノに対する扱いに不満があるのか不機嫌そうだ。


「何故、お前のような奴に……」


 小声でブツブツ言っていた。


「試験で剣を折って悪かったな」


 冒険者ギルドの昇級試験で、ロキの剣を折った事を謝罪する。


「気にする事は無い。あの剣で互角に戦えなかった私の力不足だ」

「どうして、自分の剣で戦わなかったんだ?」


 気になったので、ロキに質問をする。

 三獣士達に、ルーカスは倒すつもりで試験に臨むように指示したのであれば、ロキとカルアにも同じ指示があったと思う。

 全力での戦闘であれば当然、使い慣れた自分の剣を使用するのが当たりまえだ。


「……今、修復している最中だ」


 気まずそうに答える。


「修復中って、折れたのか?」

「いや、刃こぼれしただけだ」


 あまり話したくない雰囲気なので、これ以上は聞かない事にする。

 ユキノの件で、俺を敵対視している感じがする。


 カルアが戻って来ると、手に袋を持っていて「ロッソに渡して欲しい」と頼まれる。

 とりあえず受け取るが「渡せば分かるのか?」と質問をすると「えぇ」と一言言って頷いた。

 他には無いかと確認をすると「カルアは元気です」と伝えるように頼まれる。


 ダウザー達ルンデンブルク家を送るので、皆に別れを言う。

 色々あったが楽しかったと思いながら、王都から移動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る