第306話 冒険者ギルド高ランク昇級試験-8!

 氷の彫刻となったステラに緊急で治療が必要な為、ヘレンが試合を一旦止める。

 ステラを会場の外に出して、治療をさせる事にした。


「ふたりを倒すとは、流石ですね」


 ロキサーニが俺に話し掛けてきた。


「まだ、戦うつもりか?」

「そうですね、友を倒されている身としては、もう少しお付き合い頂けると有難いのですがね」

「俺が断っても、無理矢理にでも始める気なんだろう?」

「そんな事ありませんよ、あくまでも御願いする立場ですから。それに一応、リーダーとして三獣士の面子も少しでも取り戻しておきたいですしね」


 リーダー? セルテートが仕切っていたから、てっきりセルテートがリーダーだと思っていたが、よくよく考えるとあんなのがリーダーだと、ピンチの局面で乗り切れるわけがないな。

 セルテートもステラも冷静さを欠きやすい性格みたいだから、客観的に周りを見て状況判断が出来るロキサーニがリーダーなのは、必然だ。


「そういう理由なら仕方が無いな」

「ありがとうございます」


 俺自身も、もう少し戦ってみたい気がしているし、貴重な体験だと思うのでここで止める気分でもない。

 ヘレンに試合の続行を申し出ると、怪訝な顔をされる。

 ロキサーニからも頼むと「仕方ないですね」と言い、戦闘再開の合図をする。


 ロキサーニは、半身になり剣を後ろで構えて、左腕で顔の下半分を隠して独特な構えをしていた。

 様子見も含めて、近くまで移動すると顔を隠していた左手を俺の方に振ると【炎球】が出て俺に向かってきた。

 その瞬間、俺は勘違いしていた事に気付く。

 ロキサーニは『剣士』でなく『魔法剣士』だったのだ!

 しかし慌てずに、左手を出して【魔法反射(二倍)】でロキサーニに跳ね返すと、ロキサーニは剣で【炎球】を弾いた。

 弾かれた【炎球】は観客席に激突した。

 たまたま、人が居ない道具などが置いてあった所だったので怪我人は居なかった。


「タクト殿、むやみに弾くと観戦している冒険者に被害が出るかもしれませんよ」


 狙ってやっているのか?

 しかし、俺が避けても被害の大小に違いはあるが同じ事になる。


「脅しか?」

「さぁ、どうですかね」


 話をしながら、ヘレンには危険だから観客席に避難するように伝えると、すぐに観客席に避難していた。

 ヘレンの避難を確認したので、試合場のみ【結界】を張り攻撃が試合場以外に影響が無いようにする。

 先程と同じ構えのまま、俺の向かってくる。

 魔法攻撃と剣攻撃のどちらで攻撃してくるだろうと考えていたら、一瞬判断が遅れた。

 右手から今迄以上の速さで、剣の攻撃が繰り出される。

 衝撃音が試合会場に響く。


「ほぅ、タクト殿も剣を使われるのでしたか!」

「あぁ」


 咄嗟にムラマサで、ロキサーニの攻撃を受けてしまった。


(この状況で我を使用するとは、流石だの。幾らでも切ってやるぞ!)


 ムラマサは嬉しそうに俺に語り掛けるが、慣れない剣でロキサーニの攻撃を躱すのに精一杯で、ムラマサの相手をする余裕は無かった。

 弟子のロキサーニでこれだけの強さであれば、師匠のロキはその上という事になる。

 昇級試験だという事で、本気を出していなかったのか?


「おっと!」


 少しの考え事もロキサーニ相手だと危険だ。

 しかし、防戦一方で攻撃出来る隙が無い。本意ではないが致し方ないと思いながら、ムラマサに教えてもらい戦闘を続ける事にする。

 少しづつだが、攻撃を返す事が出来る。


「動きが変わりましたね。今迄は準備運動ってことでしたか?」

「どうだろうな」


 付け焼刃の剣術では、到底ロキサーニには敵わない。

 ロキサーニに合わせて剣術に付き合う必要も無いので、戦術を変える事にする。

 一旦、距離を取り半身に剣を構える剣をロキサーニに向ける。

 左手はロキサーニにから見えぬようにして【火球】と【転送】を使い、ロキサーニの背面から魔法攻撃を仕掛けた。

 突然の背後からの攻撃に驚いたロキサーニは振り向く。

 その隙に俺はロキサーニを突こうと距離を詰めるが間一髪で避けられる。


「成程。今のは危なかったですね」


 笑顔で冷静に話しているが、本心なのかどうかは分らない。

 やはり、狸なだけに人を騙しやすい人種なのか?

 とりあえず、休憩を与えると厄介なので、【火球】を連続で撃ち込み続ける。

 剣で躱しているのが分かるが煙で視界が悪くなった一瞬、距離を一気に縮めて剣で切りかかろうとすると、目の前で【光球】が現れて眩い光で周囲を包む。

 このままでは、マズイと思い距離を取るが視力が戻っていない。

 ロキサーニの気配は感じるので、ムラマサの指示通りに身体を動かして攻撃を凌ぐ。


「ほう、この攻撃も防ぎますか!」

「……なんとかな」


 ぼんやりだが視力が戻ってきている。

 あと少しすれば、完全に戻るだろう。

 しかし、ゴブリン討伐に使った戦術を逆に使われるとは間抜けな話だ。

 向こうは幾度となく魔物討伐している歴戦の強者だ。

 まだ他にも幾つか戦術を隠し持っているのだろう。

 もし、三獣士が揃っていたのなら、もっと色々な攻撃があったのかと思うと、早めにふたりを戦線離脱させておいて正解だった。

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