第307話 冒険者ギルド高ランク昇級試験-9!

 俺の剣での攻撃は、紙一重で避けられる。

 ムラマサに攻撃する際に、少しだけ剣を長くするように指示をする。

 紙一重で避けていたロキサーニに傷付ける事が出来た。

 傷つけられたロキサーニは、不思議そうな顔をしたが気にする事も無く攻撃を続けている。

 それからも少しづつ剣の長さを変えては攻撃をする。

 致命傷にはならないが、幾つかの傷を付ける事は出来たので、精神的な揺さぶりくらいにはなっただろう。

 ロキサーニは、自分につけられた傷口を幾つか見た後に、


「変ですね、間合いは完璧に把握したと思ったのですが? まだ何か隠しているという事ですか?」

「さぁ、どうだろうな」

「長引くと私が不利になりそうですので、そろそろ終わりにしましょうか」


 ロキサーニは半身になり攻撃の体勢に入る。

 左腕は顔半分を隠している。

 攻撃が魔法か剣かを悩んでいても仕方ないので、こちらも剣を構える。

 ロキサーニが動いたと同時に【風球】を連続で撃ち込むが、あっさりと避けられる。

 気付くと目の前まで距離を縮められていた。

 左手を前に出したので魔法攻撃が来ると構えると、下から上に剣が向かってくるのが見えた。

 魔法攻撃と見せかけてからの剣での攻撃と判断して、ムラマサを左手に持ち替える。

 ロキサーニの攻撃をムラマサで受け止めるがそのまま押されて、脇腹に剣が食い込もうとした瞬間に身体をロキサーニに預けるように倒れこみ右手で【雷撃】を撃ち込む。

 距離を取ろうとするロキサーニに追従して【雷撃】をひたすら打ち込む。

 多少離れても【雷撃】は当たるので、攻撃は効いている筈だ。

 後ろに下がった所に【転送】を使い【水球】を連続で撃ち込むと回避しようと身体を回転させた瞬間にムラマサを長くして、ロキサーニを突く。

 気付いたロキサーニは後ろに飛んで回避しようとするので、【転送】と【火球】を回避した場所に打ち込むと、体勢が整っていなかったロキサーニに直撃する。

 ロキサーニが体勢を崩した隙に、ムラマサで切りかかる。

 避けれる態勢では無いと思ったが、尻尾を器用に使いながら体制を立て直して、攻撃を剣で弾いて躱した。

 「よく躱したな」と感心しながらも【転送】を使い、三箇所の異なる場所から【火球】を撃ち込む。

 ロキサーニの反応速度が遅れて、二発が直撃した。

 片膝をついたロキサーニの首元にムラマサを当てる。


「俺の勝ちでいいか?」

「そうですね、参りました」


 ロキサーニは笑いながら降参した。

 結局、最後はスキル頼りの力押しになってしまったが、この攻撃スタイルが俺の攻撃スタイルなのだと納得するしかなかった。

 膝をついているロキサーニに手を差し伸べて、立たせてやると観客席からは大きな歓声が上がる。

 ロキサーニに【回復】と【治療】を施してやると、礼を言われた。それから、悔しそうな口調で話す。


「負けてしまいましたね」

「たまたま今回は俺が勝っただけだ」

「いいえ、タクト殿は本気では無かったでしょう?」

「そうでもないぞ」

「見ていれば分かります。敢えて剣術に付き合って貰ったように感じますしね」

「よく観察しているな」

「変わりゆく戦況を、常に判断する事が戦ううえで最も重要な事ですからね」


 三獣士のリーダーらしい発言だった。

 俺は【結界】を解いて、ロキサーニと一緒に観客席にいる冒険者達に手を振る。

 歓声の中には俺へのブーイングは聞こえなかった。

 王都の冒険者達に受け入れて貰えたと考えてよいのだろうか?

 そんな事を考えながら、ロキサーニと試合会場を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る