第304話 冒険者ギルド高ランク昇級試験-6!

 試験会場には既にルーカス達王族や、ダウザー達も観覧する為に座っていた。

 冒険者達もランクSSの時から座り続けていたのか分らないが、満席に近い状態になっている。

 歓声の中には相変わらず、俺を敵対視するブーイングらしきものも交じっている。

 会場中央では『三獣士』らしき者達が立っていた。

 狼人族の男性が『セルテート』、狐人族の女性が『ステラ』に狸人族の男性が『ロキサーニ』とヘレンが紹介してくれた。

 『三獣士』と言うわりに、全てイヌ科なのが気になったが、ネコ科とは相性が悪いので必然的に、このメンバーになったのかとも思った。


「試験官の俺達を待たせるとは、いい度胸だな」


 セルテートが高圧的な態度で、俺に話し掛けてきた。


「そうか、これでもかなり早く来たつもりなんだがな」


 こちらも少し挑発的な言葉で返すと、セルテートは俺を睨んできた。

 俺はその視線を無視して三人を観察する。

セルテートは手甲らしき物は着けているが、他に武器らしいものも所持していないし服装は『武闘家』に近い。

 ステラは、杖を持っているし服装からして『魔法士』だと推測出来た。

 ロキサーニは、右手に剣を持っているので『戦士』なのだろう。


「ルールを説明する」


 ステラから今回の実務試験のルール説明を聞く。

 三獣士達は、それぞれ布を身体の一部に巻いて戦闘を行う。三人のうち誰からでもその布を奪えば合格らしい。


「簡単な試験だろう」


 セルテートは、相変わらず高圧的な態度で話し掛けてくる。


「制限時間は、あるのか?」


 俺の質問にステラが答えようとすると、セルテートが遮るように、


「お前の力尽きるまで付き合ってやるよ」


 笑いながら話す。

 俺は無視しながらも、いい気分でも無い。

一瞬でこの試験を終わらせる方法を思いついたので、試験が終わった後のセルテートの悔しがる顔を楽しみに試験に挑むことにする。


「俺は、いつでもいいぞ」

「俺達も同じだ」


 試験会場の中央まで歩くと、俺を囲むように三獣士は、三方に散った。

 ヘレンの「始め!」の合図と共に、セルテートが俺に向かって突進してくるが、俺はヘレンの横に移動して、手には合格の証でもある布を三枚持っていた。


「これで、合格か?」


 ヘレンは勿論だが、三獣士達や観覧していた者も何が起こったか分かっていない。

 布をヘレンに手渡すと「合格です」と宣言してくれた。

 これでランクSSSに昇級した事になる。


「じゃあ、俺は用事が済んだから帰るわ」

「待て!」


 ヘレンに挨拶をして帰ろうとすると案の定、セルテートが文句を言い始める。


「お前、何をした」

「説明しないといけない理由でもあるのか?」


 ヘレンの方を見ると、首を左右に振っている。


「必要ないようだぞ。あっけなく負けたので、無理矢理にでも理由が欲しいのか?」


 今度は俺が高圧的な態度に出る。

 セルテートは怒りで毛が逆立っていた。

 説明するなら簡単な事だ。

 俺はヘレンの開始の合図と同時に【転送】を使い、三獣士達の布を奪い取り、【神速】でヘレンの所まで移動しただけだ。


「どうしても戦って欲しいと言うなら、戦ってやってもいいぞ?」


 セルテートの拳は強く握られていて、今にも襲い掛かって来そうな勢いだ。

 ステラがセルテートを落ち着かせようと、隣で何か話をしている。


「タクト殿、セルテートが失礼な態度で申し訳ありませんでした」


 ロキサーニがセルテートの態度で、俺に謝罪をしてきた。


「いや、こっちも同じように挑発したから、お互い様だ。気にするな」

「ありがとうございます」


 ロキサーニは丁寧に礼を述べた。


「お前達も、戦う事が出来なくて不満なのか?」

「ん~、そうですね。あっという間に終わってしまったので、どちらかと聞かれれば、そうなりますかね」


 俺としても、三獣士の実力を体感してみたいと思っている。

 一瞬で終わらせてしまった事に対して、若干後悔もあった。

 俺は観客に向かって、「俺と三獣士の戦いを見たいか?」と聞くと、好意的な歓声が上がる。


「セルテート! 仕方ないから、もう一度戦ってやるよ」


 落ち着かせようとしていたステラを手で払い、俺を見ながらステラとロキサーニへ戦闘準備の指示を出していた。

 先程と同じように俺を囲うように三人が配置に着く。

 勝利条件について、三獣士に確認をするとセルテートが答えた。


「俺達のうち誰かを戦闘不能にすれば、お前の勝ちだ!」

「分かった」


 ヘレンを見て頷くと、開始の合図をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る