第285話 素直な思い!
「それで話っていうのは何だ?」
「タクト殿は、この国をどう思っておられますか?」
「いい国だと思うぞ。国王の国民に寄りそう考えにも共感出来る」
「そうですか、私も同感です。提案なのですが、タクト殿は爵位を受け取る気がありますか?」
「……爵位?」
爵位って、貴族とかの国の偉い位を与えられるという事だった筈だ。
「悪いが断るぞ。前にも言ったが、国の所属になるのは嫌だし、俺自体貴族とかがあまり好きじゃない」
「……やはり、そうですよね。いずれは私の手助けをしてくれる側近として考えていたのですが、難しいですね」
「そうだな、俺のような奴よりも優秀な奴は沢山いるから大丈夫だろう」
「私はタクト殿以上に、先の事を考えながら行動している人を知りませんがね」
「それは買いかぶりすぎだ。俺なんて、行き当たりばったりで行動しているだけだ」
「行き当たりばったりで行動しても、結果としては最善の結果になっていると思いますよ」
俺もアスランも、知らない間に笑顔で話していた。
「ヤヨイとソディックが結婚すれば、心強い身内になるだろう」
「確かにそうですが、父上が許すかという問題もありますね」
「国王は反対なのか?」
「いえ、どちらかと言えば好意的ですが、貴族の者達や他国からの縁談があるのも事実です」
「それを言ったらユキノも同じだろう?」
「はい、ユキノにも色々と縁談が来ております。しかし、ユキノはタクト殿一筋ですから、無理でしょう」
何故、アスランも諦めているんだ?
兄として、きちんと言って聞かせた方が良いんじゃないのか?
「元々、父上自身が政略結婚に否定的な考えなので、大丈夫かと思いますが外交問題が絡むと……」
外交問題とは、生体実験施設の事だろう。
「アスランにも縁談があるんだろう?」
「私の場合、先日まで放浪の旅に出ていた事になっておりましたので……」
「そうだったな。嫌な事思い出させてしまって悪かったな」
「そんな! タクト殿がいなければ、こうして話をする事さえ出来ませんでした」
「それはアスランの運が良かったから、俺が現れたんだろう」
「そういう捉え方も出来ますが、私自身いえ、私達家族はタクト殿を恩人だという事を忘れてはいませんので、その事は覚えておいて下さい」
「忘れないように努力はするよ。それより、俺を呼ぶときは呼び捨てでいいんだぞ」
「そうですね、気を付けているんですが難しいですね」
ユキノ以外は呼び捨てで呼び合う事にしたのだが、なかなか難しいようだ。
融通か利かない性格なのは、兄妹でも同じみたいだ。
「もし、国王から戦略結婚を命じられたら、受け入れるのか?」
「そうですね、私個人の気持ちよりも国民の事を考えるのが第一です。それは、王子として生まれた時から覚悟は出来ています」
王族に生まれた故の覚悟なんだろう。
自分の気持ちを殺してまで、国民の事を考えると言う事は俺には到底出来ないだろう。
「……アスランは凄いな」
独り言のように言葉が出ていた。
「そんなことありません。タクト殿の方が凄いですよ」
「俺が言っているのは、気持ちの事だ。自分の役割をちゃんと分かった上で話しているのは凄いと言う事だ」
「それは生まれた時から父上や母上に、ずっとそう教えられて来たので疑問もありませんでしたし、父上の考えは正しいと確信しています」
国王と王妃の子供達の子育ては、素晴らしいという証明になっている。
ここで疑問だが、アスランとヤヨイは普通なのに何故、ユキノは少し変なんだ?
単純に性格だけの問題なのか?
「こう言うと語弊があるかも知れませんが、私は王子ですので仕方ないのですが、ユキノとヤヨイには国に縛られず好きな人と人生を歩んでいって貰いたいですね」
「……それは、兄としてユキノを貰ってくれと俺に言っているのか?」
「分かりますか。 先程も言いましたが、タクト殿が親族になるのは心強いですからね。なによりユキノの気持ちが大事です」
「兄として、まともに職について丁寧語が話せる奴の方がいいんじゃないのか?」
「それはあくまで表面だけの問題です。上級職で丁寧語は話せても信頼出来ない者は多いですから」
「俺は中身の最低な奴だぞ!」
「それはタクト殿御自身がそう思っているだけです。タクト殿と少しでも話せば、素晴らしい方だというのは分かる事ですよ」
「そんなに褒めても、何も出ないぞ!」
アスランは「本当のことを言っただけ」と笑い返してきた。
お世辞もあると思うが、面と向かって褒められると照れる。
アスランからは、小さい頃の話やらを色々と聞かされたが、昔からユキノが変だったことだけは確認出来た。
ユキノに恋心といったものは抱かないが俺も変な奴だから、変な者同士お似合いなのかも知れないと思えるようになってきた。
周りが既成事実を固めて洗脳されるというのは、こういう事なのかと怖くもなる。
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