第284話 奴隷制度!
部屋には、ルーカスとダウザーに大臣達数人と王族一家にソディックが居る。
ルーカスや大臣達は、クロの撮ったカメラから【転写】してもらった写真と、証拠品として持ってきた書類を見ながら、俺の報告に耳を傾ける。
「……これは、大変な事になったな」
ルーカスと大臣は頭を抱えていた。
「ここからは、俺の仕事じゃないから帰っていいか?」
「そうだな……と言いたいが、もう少し協力してくれ」
「……俺は、なんでも屋じゃないぞ」
「そんな事は分かっておる。しかし、お主のように特殊な人物が居ないのも事実だ」
「特殊って、今迄俺が居なくても何とかなっていたんだろう?」
「普通の事だけなら、なんて事はない。ここ最近起きている事は、国の一大事ばかりだから困っておるのだ!」
ルーカスが逆切れし始めた。
俺としても手を貸してやりたい気持ちがあるが、都合良いように使われるのは好きじゃない。
「この国について疑問を感じている事がある。それを解決してくれるなら、多少は協力してもいい」
「……疑問を持っている?」
「奴隷制度だ!」
ルーカスは、ある程度は予想はしていたのか、驚いた様子はしていなかった。
「そもそも、奴隷と言うのは人権が無いんだろう? 身の周りの世話だったら使用人を雇えばいい。奴隷制度が必要な理由って何なんだ?」
ルーカスも含めて大臣達からも答えが返ってこなかった。
「考えてみろ、生活の為に自分の子供達を奴隷商人に売るしかない者達も居るんだぞ! 家族が一緒に居れない辛さを国王や王妃も知っているだろう!」
「しかし、奴隷にもある程度の需要がある訳で……」
大臣が奴隷の必要性を訴えかけてきた。
「その需要だって、制度があるから使うだけだろう。なければ、ちゃんと賃金を貰って働く事が出来るだろう」
俺の言葉に、大臣は黙り込んでしまう。
「国王に貴族、それに国民の命は平等の筈だ。それを奴隷だからと納得させるから、今回の人体実験のような事も起きたんだろう!」
とうとう誰も言葉を返さなくなる。
「エルフ族との事もあるし、問題が大きくなってからでは遅いんじゃないのか? エルフ族側は強制的に奴隷にされていた事を既に知っているんだぞ」
エルフ族に対する強制奴隷の件を引き合いに出す。
「エルフ族は知っていて、何もしてこないのか?」
「向こうも色々と悩んでいるんだろう。そのうち動きがあるだろうが、条約を反故にしたのは人族、王国側だ」
「……それについては、事実だ。なにも弁解が出来ん」
ルーカスには、辛辣な状況だろう。
「決めるのは国だから、俺は何も言わないが人を人と思わない決断なら、俺も同じ決断をするだけだ!」
重苦しい空気になり、皆が下を向いてしまっている中、手を叩く音が聞こえてきた。
拍手していたのはユキノだった。
「まさにタクト様の言う通りです。お父様も常々、国民は国の宝。国は人で成り立っていると言っていたではありませんか」
俺の言葉に感動でもしたのか、涙を流しながらルーカスに語り掛けている。
「私達王族も、国民が働いてくれているからこそ、こうして生活が出来ているのですよ! もし、自分の意志とは別で、強制的に働かされているのであれば、それ自体が間違いだと私も思います」
ユキノが話している事は、当たり前の事だ。当然、ルーカス達も分かっている。
分らない者がいるとしたら、奴隷を人では無く物として扱っている貴族や商人達だけだろう。
ルーカスは、長年根付いている奴隷制度を簡単に変えれないからこそ悩んでいるのは分かる。
しかし、誰かがこの制度を変えないと、この後何年も同じ事が続いてしまう。
「タクトよ、今この場で結論を出す事は出来ぬ。余達に時間をくれ……」
「それは構わないが、いい報告を期待しているぞ」
ルーカスは何も喋らなかった。
俺は、挨拶をして部屋を出る。
よくよく考えると、いち冒険者の俺が国王相手に、あんな事言ったら死刑にされても文句は言えないな……
身分を考えて喋らない俺にも問題がある。
丁寧語が喋れない影響か、性格にも攻撃性が出てしまっている気がする。
「タクト様!」
後ろからユキノが俺の後を追ってきた。
「さっきは、ありがとうな」
ユキノに礼を言うと、嬉しそうに微笑む。
「どうしてユキノは、俺に付いてくるんだ?」
以前からの疑問に思っていた事をユキノに尋ねる。
ユキノは、騎士達が傷付いているのに何も出来ない自分に不甲斐無さを感じて「自分の身はどうなっても良いので、騎士達を助けて欲しい」と神頼みしているところに、ヤヨイから連絡を貰い駆け付けると、次々と騎士達を治療している俺の姿を見て、神が自分の願いを聞き届けてくれたのだと思ったそうだ。
神が願いを聞いてくれたので、ユキノは騎士を助けた俺に自分の身を捧げるのが運命だと思っているらしい……
「俺は神じゃないし、治療の事もただの偶然だから、気にしなくていいぞ」
「いえ、タクト様は私の運命の御方です!」
頑固なのか、思い込んだら他が見えないのか分らないが、何故かユキノが可哀想に思えてきた。
自分で言うのも何だが、よりにもよって俺みたいな変な奴よりも条件の良い男は沢山居るし、王女であれば選びたい放題だろう。
「ユキノなら、美人で王女なんだから、幾らでもいい縁談があるだろう」
「まぁ、美人だなんて! ではなくてタクト様より、素晴らしい人など他におりません」
真っ直ぐな目で俺を見てくる。
純粋過ぎて俺には、直視出来ない。
「あのな、身分の違いがあってだな……」
「以前、タクト様は身分を気にしないと仰っていたではありませんか!」
駄目だ、口論では一枚も二枚もユキノの方が上手だ。
「タクト様は、私が御嫌いですか?」
「えっとだな、好きとか嫌いとかじゃなくてだな、今は問題が色々あって考えれないと言うか……」
「それが終われば、真剣に考えて頂けるのですね!」
「……そうだな」
ユキノは嬉しそうに「いつまでも待っています」と俺を真っ直ぐな目で見て答えた。
こんなに女性から積極的にアプローチされること自体、前世も含めて初めての事だし、この世界に来てからは【呪詛】の事もあって、知らない女性は近づいてこないので戸惑っていた。
「タクト殿!」
ユキノに続いて、アスランが俺を追って来たのか声を掛けてきた。
「国王に対して、無礼な話し方をした俺を注意しに来たのか?」
冗談交じりで返すが、アスランは真剣な顔だ。
「いえ、その事は気にしておりませんし、タクト殿の言い分が正しいと思います。別の件で、出来れば二人っきりで御話が出来たらと思いまして……」
そう言いながら、ユキノの方を見る。
「お兄様、私の用事は済んでおりますので」
俺とアスランに挨拶をして去って行った。
「タクト殿、申し訳ないが私の部屋でも良いか?」
「全然、構わないぞ」
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