第283話 生体実験施設-3!

 アルは一足先に、ゴンド村に戻ったのでネロともう一度、施設の中を詳しく調べる。

 人体実験していたであろう部屋に見慣れない紋章の入った書類が数枚あった。

 内容は売買契約の書類のようだ。

 他にも、ライテックに『肉体強化の薬』を売っていた書類も見つかった。

 魔人に変化したあの黒い玉の事だろうか?

 元勇者の末裔貴族達が資金を提供していたようで、御丁寧に催促した手紙の返事まで残っていた。

 証拠になるような物を処分しないのは不思議だったが、国の権力者と繋がっているのだから、後々脅しの材料に使えると考えていたのかも知れない。


 最下階の処分場に行くと、横に抜ける穴がふたつあったので、ネロと別れてひとつづつ確認をする。

 俺が調べた穴は、地上の施設の中にあった廃墟の建物へと続く道だった。

 ネロが中々戻って来ないので連絡をすると、調べている穴は長くて山向こうにある隣国の『シャレーゼ』に続いていたと言う。

 俺自身、『シャレーゼ』と言う国の事を知らないので、【全知全能】に聞いてみる。


 『シャレーゼ』は人間族による法治国家で、他の人族も認めずに魔族と同様の扱いをしている。

 国の規模としてはエルドラードの十分の一程度にあたり、エルドラード以上に貧富の差が激しい。

 エルドラードやオーフェンとの貿易も無い。

 軍事力にしても、エルドラードやオーフェンが本気で攻め入れば、ひと月もせずに侵略可能だそうだ。


 軍事力を求めて、この施設と手を組んだのか?

 見返りの代わりに、自国の国民を被験者として送り込んだと考えた方が納得出来る。

 しかし、この情報がルーカスに伝われば戦争にならないか?

 宗教ではないが、考え方が違えばシャレーゼの民との共存も難しいだろう。

 それに『オーフェン』と言う名の国も出てきた。

 ついでに【全知全能】に聞いてみる事にする。


 『オーフェン』はエルドラードと友好関係を結んでおり、国の大きさはエルドラードの二分の一程度になるが、季候が良い為、農作物等が沢山収穫出来る。

 エルドラード同様に、魔族に対しては敵対関係を続けているが、エルドラード程魔族が多く生息していない。

 貧富の差もエルドラード同様にあるが、武力重視が強い国の為、貧しくても強さを証明出来れば、それなりの地位に上り詰める事も可能らしい。

 よって、例え貴族の息子でも強さを証明出来なければ、家を継ぐことさえ許されない。

 俺が施設内で見つけた書類の紋章は、オーフェンの貴族の紋章だとも答えた。


 オーフェンも、完全実力主義の国であれば、実力のない者は薬やらに頼るのは想像出来る。

 こちらもルーカスに話すと面倒な事になるな……

 かと言って、嘘の報告は出来ないし困った。


「戻ったの~」


 ネロが施設に戻ってきた。


「道の途中で、これ拾ったの~」


 ネロの手には、冒険者ギルドのカードが十枚程握られていた。

 俺は、一旦それらを預かる。

 あとで、ジラールに渡す事にする。


 施設の指令室みたいな部屋を探していたが、見つからない。

 どのようにしてガルプツーは、施設内の仕掛けを作動させていたのか疑問だ。

 遠隔操作で施設を管理していた事も考えられるのが、俺の憶測に過ぎない。


 地上に戻り、施設の破壊をネロに頼む。

 シャレーゼの抜け道も地下の施設なども綺麗に破壊してくれた。

 地上面だけでも更地にしておこうと、ネロとふたりで壊した際の廃材を全て地中に埋めた。

 そのせいで他の場所よりも小高い土地になってしまうが、仕方ない。


 ネロに礼を言って、王都に戻ろうとするが逃げ遅れたのか、ロキの部下達が倒れていたので一緒に連れて戻る事にする。

 多分、アルの殺気で気絶しているのだろう。

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