第286話 冒険者ギルドとグランド通信社!

 ギルマスのジラールから呼び出しが掛かった。

 なにやら俺が居ないと話が進まないらしい。

 詳しい事は来てからと言われるが、思い当たる事と言えばクエストの報酬位だが、話をする事も無いだろう。

 討伐パーティーはまだ、外出禁止らしく城で軟禁状態が続いている。

 相変わらずムラサキとトグルは、王国騎士団と稽古をしている。

 シキブはダラダラと過ごしている。イリアが見たら怒り心頭だろう!

 ライラは、ヤヨイと行動を共にしている。

 王国の魔法士達の所に案内されたりと、冒険者として自分に出来る事を色々と模索しているようで、いずれ良い経験になるだろう。


「何処に行かれるのですか?」


 ユキノがいつの間にか俺の後ろにいる。

 ジラールとの会話を聞かれていたようだ。


「あぁ、ジラールの所に行ってくる」

「そうですか、私もお供してもいいですか?」


 本当に、こんな簡単に王女が外出してもいいのか?

 ルーカス達に言っても許可を出すのは分かりきっている。

 断れば断ったでユキノが泣く展開が見えている。


「連れて行ってやってもいいが、マリーから借りている服を着る事と、国王の許可を取る事が条件だ」

「分かりました。直ぐに御父様に確認して着替えてきますので、御待ち下さい」


 これだけ頻繁に城から出るんであれば、ユキノにも平民用の衣装を用意させる必要がある。

 いつまでもマリーの服を借りている訳にもいかない。

 

 城に出入りしている仕立て屋だと、平民の服とはかけ離れた服になり意味が無いと思うので、帰りに王都の仕立て屋で、ユキノの服を作ってやる事にする。



「お待たせしました!」


 数十分後、ユキノが息を切らしながら走ってきた。


「あっ!」


 俺の手前でユキノが躓いて倒れそうになったので、抱きかかえる。


「あ、ありがとうございます」

「気をつけろよ」


 ユキノは赤くなりながらも、俺に身体を預けたまま動こうとしない。

 こういった状況になった事が無いので、どうしたらいいのか分からない……

 ユキノは自分から離れる気配が無い。かといって、俺から突き放すタイミングも分からない。

 完全に膠着状態だ。

 暫くすると、我に返ったユキノが恥ずかしそうに「申し訳御座いません」と言い、俺から離れた。


 ジラールの待つギルド本部まで【転移】する。

 あらかじめ【転移】用に一部屋用意して貰っていたので、怪しまれることはない。

 扉を叩いて名前を言うと部屋の中から「入ってくれ」とジラールの声が聞こえたので、扉を開けて入る。


「悪いな、タクト……って、ユキノ様?」


 ユキノを見たジラールが驚いていたが、ジラールの対面には『グランド通信社』のヘレフォードとアンガスが座っていた。

 謝罪の際に俺が提案した人気ランキングの投票の件だろうと推測は出来た。

 ヘレフォードとアンガスもユキノに気が付くと挨拶をする。

 ユキノはいつも通り笑顔で「気になさらずに」と言う。


「タクト様、お久しぶりで御座います。ロード討伐までされていたとは驚きました」

「一応、冒険者だしな」

「普通の冒険者が、ロード討伐に召集されたり致しません。流石はタクト様と言うべきですかな」

「たまたま偶然が重なって、呼ばれただけだから気にするな」

「御謙遜を」


 ヘレフォードとアンガス相手に世間話をしているが、ユキノが居る事により緊張しているのが分かる。


「それでジラール。俺を呼んだ理由は、グランド通信社絡みという事でいいのか?」

「そうだ。人気投票の話をしていたところ、お前の話題にもなったので来てもらった」

「俺が来た所で、状況は変わらないだろう?」


 アンガスの話では、人気投票する際のプロモーションをグランド通信社に任せてもらいたいという説明をした。

 但し、四葉商会にも協力してもらうという話も付け加えた。

 一位の特典として写真集の話等の事も説明して、一位の冒険者とギルドそして、グランド通信社の売り上げの分配についても詳しく説明をしたそうだ。


「そこまで説明が終わっているなら、俺来なくても良かったんじゃないのか?」

「いいえ、発案者でもあるタクト様が王都に居るのであれば、同席してもらうのが当たり前かと思います」

「そういう訳か。それで、俺が何かを決める訳でも無いんだろう?」

「ある程度までは決まっていますが、もうひとつ話題性が欲しいと考えているのです」

「話題性ね……今迄一位になった奴は何か貰っていたのか?」


 今迄の人気ランキングの投票について、何も知らないので詳しい事まではアドバイスの仕様が無い。


「上位三名までには、証明書を手渡している。それ以外は特に無い」


 一位になったのに景品も無いのか?

 そうであれば、一位になる理由もそれ程無いという事だな。


「一位になったら、一位の証として記念の像を渡したらどうだ? その像とは別にこのギルド本部に一位の名前プレートを飾る。一生残る物になるし永遠に自分の名前が刻まれるので、冒険者としてはやる気になるんじゃないのか?」

「確かにそうだな。名を刻むと言うのは冒険者にとって名誉ある事には違いない」

「いずれは、金で票を買収したりと問題も出てくるだろうけど、試行錯誤して変更していけばいいだろう」

「確かにそうだな。ただ、今迄の一位の者の扱いをどうするかだ」


 確かに、前回までの一位の者達には特典が無かったし、名前を刻むことも出来ない。

 ジラールは、不平不満が出る事を予想しているのだろう。


「それなら、グランド通信社主催という事で、今回を第一回とすれば問題無いだろう」

「確かにそうだが、それで納得するかは分らないぞ!」

「今までと違い、グランド通信社から色々と景品が出るから別だと考えればいい事だ。今迄はギルドが主催していたんだから、変更したと言えば問題にもならないだろう?」


 ジラールは悩んでいるのか険しい顔をしている。


「国の行事にすれば、文句もありませんわ!」


 ユキノが口を挟んできた。


「日頃の冒険者様達の労いも含めて、一年に一度の冒険者様の感謝祭にして景品等はグランド通信社様から提供頂く事にすれば良いかと思います」

「国王というか国として良い事なんて、ひとつも無いだろう?」

「祭りになれば、人が集まり街が賑やかになります。 街が活発になれば、皆が潤います」

「ユキノの言い分は分かるが、国と特定の商人ギルドが絡むとなると他の大手商会から文句を言ってくるだろう?」


 大きな金が動くのであれば、それに群がろうとする者は多数出てくる。


「確かにタクト様の仰る通りです。国主催となれば、動く金貨の枚数が途方もない枚数になります。揉めるのは間違いありません」


 ユキノは自分の案が却下されて落ち込んでいた。


「今迄の一位が分かっているなら遡ってプレートに刻めば良いだけだ。記録は残っているのか?」

「勿論だ」

「それなら、問題解決だろう! プレートや飾る台等はグランド通信社からの寄付にして、下の方に『寄贈:グランド通信社』と書き込んでおけば、冒険者ギルドは無料で貰ったので問題無いし、グランド通信社は宣伝にもなるので良いんじゃないのか?」


 ヘレフォードやアンガスは驚いていた。


「確かに、その方法であれば寄付しただけで寄付した弊社の名前も台と共に永遠に残りますね」

「タクト殿、素晴らしいですぞ!」


 ふたりして俺を褒めるが、俺的には前世で学校に卒業生から寄贈された備品と同じ感覚で話をしたに過ぎない。


「ユキノの案ももう少し考えれば、良い案になったかもな」


 落ち込んでいるユキノをフォローする。

 自分の意見が通らなかったりすると、次第に自信を無くして発言をしなくなる奴を何人も見てきた。

 ユキノや他の者達にも、そうなって欲しくはない。自分の意見はきちんと言葉で伝えて、間違ったりしてもそこから何かを感じ取ってくれればと思っている。


 ユキノは俺の言葉に笑顔を取り戻していた。

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