第276話 国王からの頼み事!

 ロード討伐の式典の夜、ローラから『魔法研究所』へは明日行く事で調整がついたと連絡があった。

 俺だけなら、大臣から外出許可を得ているので問題ない。

 後日、人体実験をしていた施設の報告は必要になると思うが、直接報告する事は無いだろうと思うので、ルーカス達と会うのはこれが最後で城を去ることになるだろうと思い、ルーカス達王族やダウザー達に挨拶をしておく。


「色々と世話になった。いち冒険者に戻るから、もう間近で会う事も無いから、元気でな!」


 俺の挨拶にルーカス達は、顔を見合わせていた。


「タクト、何を言っておるのじゃ? お主は既に国の重要人物だから、城へは自由に出入り出来るし、お主からの連絡は最優先事項になるぞ」

「そんな事、何も聞いていないぞ」

「魔王と言うのもあるが、お主は知識やゴンド村の件も含めて定期的に連絡が欲しいと思っておる」


 ルーカスの言いたい事も分かる。

 魔王を放置しておくよりも、管轄下に置いたほうが良いに決まっている。

 それに魔族と共存共栄しているゴンド村も、今後どう変化していくか動向を気にする必要があるだろう。


「分かった。とりあえず人体実験している施設の事も含めて、定期的に連絡をするが誰と連絡を取ればいい?」

「その役は私が引き受けますわ!」


 俺が言い終わると同時に、ユキノが立候補する。


「そうだな、ユキノが適任だな」


 なんで、ユキノが適任なのか不明だが、結局城に来て報告するので二度手間にならないだろうか?

 ルーカスもその事には気付いているようで、状況報告はユキノとして、定期的な報告は直接城に来てするように言われる。


「俺は国の為に動く気なんて、さらさら無いぞ」

「別に、お主にそんな事は期待していない。只、お主は国に利益を与えてくれる重要な人物なのも確かだ」

「それじゃ、今迄通り自由に暮らしていいんだな?」

「勿論だ。たまに、我の頼み事を聞いて欲しいだけだ」


 ……言葉は違うが、俺を上手く使おうと使いたいという思惑のようだ。


「理不尽な事を目にしたり、俺や知り合いに危害を加える奴がいたら、勝手に暴れるけどいいのか?」

「その時は、相手が悪かったのだろう。我はお主を信頼しておるからな」


 卑怯な言い方だ。


「お主の実力は、冒険者ギルドの昇級試験の際に直に確認するが、ここ数日お主の人柄を見ていたが自分の都合で暴れるような無法者で無いのは分かっておる」

「そうです。タクト様は神ですから、間違ったことはしません!」


 ルーカスが信頼してくれるのは、有難い事だ。

 ユキノが絡むと話がややこしくなる気がする。


「我の直属の部下というより、誰かの部下になる気が無いのは、ダウザーより聞いておる」


 どうやら、ダウザーとの間で俺に対する情報は、細かい事まで話をしているようだ。


「そうだ、国のというか誰かの為に、自分の意思を曲げてまで従う気は無い」

「……万が一、国がお主の敵になるようなら、必ず連絡を入れてくれ。それだけは約束して欲しい」

「連絡はするが、その後の対応について変更すると言う約束は出来ないぞ」

「それでいい。お主を怒らせて、街が崩壊するような事は、絶対に避けたいからな」

「……俺はそこまで酷くはないから、安心しろ」


 ルーカスは苦笑いしている。


「約束の証ではないが、この紋章をお主に渡す」


 そう言うとユキノが俺のところまで来ると、両手で王家の紋章のボタンのような物を見せる。

 ダウザーから貰った物の王家版だ。


「それがあれば、王家公認と言う事になる。当然、この権力を使って悪事を働く事も出来る」

「……既にダウザーから、同じ様な物を貰っている」


 【隠蔽】を解除して、ダウザーから貰ったルンデンブルク家の紋章を見せる。


「タクト、それは返して貰ってよいから、兄上のを貰ってくれ」


 ダウザーがルーカスより先に話しかけてきた。

 いち領主より、王族の紋章の方が当然威力も上だ。

 俺が断れば、国王であるルーカスの立場的な問題もあるので、先にダウザーが返却するように促したのだろう。


「分かった」


 服からダウザーから貰った紋章のボタンを外す。

 ユキノから王家の紋章の印を貰うと同時に、外したルンデンブルク家の紋章の印を渡す。

 受取った王家の紋章の印を服に取り付ける。


「普段は隠しておくからな。これを見て寄って来る人間は、信用出来ないからな」

「それはお主の自由だ。くれぐれも暴れる前には、連絡を頼む」

「安心しろって、多分約束は守る」


 ルーカスは余程心配なのだろう。


「タクト様、これからの御予定はあるのですか?」


 ユキノの質問に、分かっている俺の予定を伝える。

 明日は『魔法研究所』、その後は人体実験場の調査そして、冒険者ギルドの昇級試験。


「そういえば、俺の昇級試験を見るとか言っていたよな?」


 先程のルーカスとの会話を思い出す。


「お主の実力が見れるから、ダウザー達も含めて皆で観戦するぞ!」


 なんだかんだと理由を付けても、完全に興味本位だと思う。

 俺は、王国最強と言われる『三獣士』の実力を知りたいと思っている。

 しかし、俺の冒険者ギルドの昇級試験は、前回もそうだが観客が居るがそういう宿命なのだろう。


「期待されているほど、強くないかも知れないからな!」


 ルーカスの魔王への期待が分からないが、あまり期待されても困る。


「魔王の強さに期待しないほうが、おかしいだろう」


 ルーカスに、あっけなく否定された。

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