第275話 討伐完了の式典!

 約五年に一度発生する脅威『ゴブリンロード』に、『オークロード』の討伐完了。

 国民の不安が消え去り、討伐完了と共に式典が行われる。

 国民に報告をする為、発表されてからの大臣達は、準備に追われていたようだ。

 街自体も、式典イコール祭りになるので、活気に満ち溢れていた。

 始まる直前に、ゴブリンロード討伐の件も報告すると聞かされた。

俺の単独討伐よりはパーティーでの討伐でないと、オークロードとバランスが取れないので、ソディックとライラを除く四人で討伐した事にして貰う。


 打楽器の大きな音と共に、王族や俺達討伐パーティーが、城のベランダから国民に姿を現す。

 最初に、国王であるルーカスが国民に挨拶をする。

 その後、ソディックが紹介されると国民から大きな歓声が上がる。

 流石と言うべきか、ソディックの挨拶は素晴らしかった。

 俺が挨拶していれば、上から目線で偉そうな口調に聞こえて、絶対に国民から罵声や怒号が出ていただろう。

 ソディックに、シキブから順にひとりづつ紹介される。

 やはり皆、緊張しているのが分かる。

 ライラを不安にさせないように、ライラの背中にそっと手を添えると若干緊張が解れたのか「お兄ちゃん、ありがとう」と、言われる。

 ライラの紹介が終わり最後に紹介された俺も、一歩前に出て一礼だけする。

 直前のライラまでの歓声と違い、俺の時だけ歓声が少ない。

 遠くからなので、【呪詛:服装感性の負評価】も気にしていなかったが、遠くからでも服装が変なのだけは分かるらしい……。

 期待はしていなかったが、明らかに歓声が少ないのは、やはり落ち込む。


 ソディックからの報告が終わると大臣が、反逆罪として、罪人の名が呼ばれると同時に、数年前のゾリアスの事件の真相と、ゾリアスの無罪が、国民に発表をされた。

 この発表は、国民に対して衝撃だった。

 世間を救ったといわれる勇者の末裔達が、国王の失脚させるという暴挙に出たのだから、仕方ない。

 平和になったとしても、勇者に期待を持っている国民がまだいるのも事実なのだろう。

 それだけ、勇者という肩書は凄いものなのだと実感した。


 一時間程度の式典も終わり、俺達も城の中に戻る。


「お前は、緊張しないのか?」


 平然としていた俺に、トグルが不思議そうに聞いてきた。


「俺も、緊張していたぞ」

「……本当かよ」


 実際は、殆ど緊張していなかった。

 これには、自分自身も不思議だった。

 元々、あがり症では無かったが流石に今回は緊張すると思っていたが、この世界に転移して俺の中でも何かが変わったのかも知れない。

 大臣から、俺達は英雄扱いされる為、数日は街に出ると混乱が起きるので、出来る限り城内で過ごすように言われる。

 しかし、俺は明日か明後日には『魔法研究所』に、ローラと訪れる事になっているので、大臣にその事を伝えると「タクト様は大丈夫でしょう」と、素っ気ない言葉が返って来た。

 ……問題無いので良い事なのだが、俺が街に出ても騒ぎにならないという事を言っているのだろう。


「タクト殿、本当に申し訳御座いません」


 ソディックは、パーティーのリーダーで討伐した実績を捏造した事を気にしていた。

 何回も「気にするな」と言っていたが、手柄を奪ったという騎士道に反した行為というのが、影響しているのかも知れない。


「これ以上、謝罪は必要ない。パーティーを組んだ以上誰が倒そうが、パーティーとして討伐したというのが事実だ」

「そうだ! 結局、コイツが仕留めたが、俺達はそれぞれの役割を果たした」


 珍しくトグルが、俺の発言に同調してくれている。


「それに、リーダーの件は俺の方こそ感謝している。俺では、あんなに上手く話せないからな」

「そうだ! コイツが話したら酷い事になっていただろう」

「……そうですか、そう言って頂けるのであれば、私も受け入れる事に致します」


 納得してもらえたようだ。

トグルの言葉で、ソディックが納得したのも腑に落ちないが、深く考えるのは止める。


「ちょっと、いいか?」


 皆を集めて、オークロードの魔剣こと『ムラマサ』を出して、経緯について報告をする。

 説明の最中にムラサキが、興味本位で魔剣に触った為、瀕死の状態になり騒然となったが、死ぬことは無いと説明をしてムラサキに【回復】の魔法を施した。


「焦ったぞ! 死ぬかと思った」

「魔剣と言っているのに、勝手に触るムラサキが悪いだろう!」

「……確かにそうだな」


 ムラサキのせいで、説明が途中になっていたので続きを説明する。

 結論は俺以外扱えない武器なのであれば、俺が使うしかないという当然の事だった。


「魔王に魔剣とは、本当に人族じゃなくなっていくみたいだな」


 トグルが嫌味っぽく、話しかけてくる。


「俺は何も変わらないのに、可笑しなことだよな」


 俺自身は変わらないと思っているが、周りの俺に対する態度がいずれは変わっていくのだろうと予感はしている。

 称号や見た目で、俺から離れていく者が居るかと思うと、それはそれで悲しい気分になる。

 そんな気持ちに気付いたのか、シロにクロそして、ムラマサが周囲に分からないように温かい言葉を掛けてくれた。

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