第277話 王都魔法研究所-1!

 一旦、王都を出てからローラをジークまで迎えに行きスグに戻ってくる。

 大臣の言うとおり俺が街に出ても混乱どころか、気付く者も居ない。

 王都の出入りを管理している門番に至っては、俺が数分で王都を出て帰って来た事を不審に思うがローラが居るとなると態度が急変する。

 彼らも仕事だから仕方が無いが、今後は『王家の紋章の印』を使おうかと本気で考えさせられた。

 ローラも「有名人なのに不思議だな?」と首を傾げていた。


 ローラの案内で数分歩き、大きな建物の前まで来る。

 明らかに他の建物とは異なっており、入口に大きく『王都魔法研究所』と書かれていた。

 ……王都魔法研究所? 魔法研究所じゃなくて、王都がついていた。

 ローラに確認すると、魔法研究所は、ここ王都と、魔法都市であるルンデンブルクの二箇所に存在しており、王都が本社でルンデンブルクが支社的扱いのようだ。

 確かに言われてみれば、『魔法都市』と言われているルンデンブルクに魔法研究所が無いのも変な話だ。


 ローラが扉を開けたので、魔法研究所の中に入っていくがローラを見ると皆挨拶をしている。

 やはり、主任という役職は凄いのだと痛感させられた。


「ここが所長の部屋だ。打ち合わせもここで行う」


 ローラが簡単だが説明をして、所長室に案内される。

 部屋の中には、年老いた『犬人族』が座っていた。

 

「おぉ、ローラ待っておったぞ!」


 所長と呼ばれた老人は立ち上がると、杖を手にして俺達の方に歩いてきた。


「所長、無理は禁物です」


 ローラは近寄りソファの方に所長を誘導して座らせた。


「こちらが、お話しておりました四葉商会代表のタクトになります」

「始めまして、王都魔法研究所の所長をしておる『シーバ』と申します」


 ローラが俺の紹介と、所長ことシーバから挨拶をされた。

 世間話でもするのかと思ったが、直ぐに本題の話を始めた。

 ……研究者という者達は、こういうものなのだと改めて感じた。

 ローラがジークに来た理由である『ロードの発見方法』『情報伝達の新技術の確立』『研究者の人材発掘』についての報告をしていた。

 どうやら本当は、ジークに数週間程滞在してからルンデンブルクに移動するつもりだったようだが、気付くと、予定よりも滞在してしまい俺と出会ったことにより完全にジークで研究する事に方針転換した様子だった。

 それよりも、ローラが敬語を使っていることに驚いた。


「ロードの発見方法は、報告書の通りになります。それと、研究者の人材発掘については、タクトというか四葉商会が協力してくれると言う事で問題は解決していると思っております」


 ローラからの報告を聞いていたシーバが難しそうな顔をしている。


「ロード発見の報告書については、私も確認した。素晴らしい発見だと感じた。しかし、四葉商会が人材発掘に匹敵するのかは疑問を感じる」

「確かにそうですね。タクト、カメラ持っていたら見せてくれないか?」


 【アイテムボックス】からカメラを取り出して机の上に置く。

 出してから気が付いたが、俺自身スキルを隠すと言う事が段々と薄れてきている。


「……今のは、もしかしてスキルの【アイテムボックス】か!」


 眉毛で隠れてあまり見えていなかった目が大きく開いて質問をしてきた。

 

「そうだ。珍しいだろ」

「長年生きていたが、実際に目にするのは、これが始めてだ!」


 シーバの鼻息が荒い。興奮しているのだろう。


「所長、それよりもこれを見て下さい」


 シーバの関心をカメラに向けようとする。


「ほほう、これは!」


 珍しいものでも触るように色々な角度から見たりしている。


「見た目は小型の写真機だな」

「はい、その通りです。しかも出来た写真は写真機とカメラでは比べ物にならない位、カメラの方が綺麗に仕上がります」

「成程、精霊石の純度の違いと余分な空間を削って小型化に成功したと言う事か」


 流石は、王都魔法研究所の所長と言う肩書きは伊達じゃないな。


「その通りだ。これは四葉商会で改良を加えてカメラと呼んでいる」

「これだけの技術は、ドワーフしか無理だろう。なかなかと面白い伝手があるようだな」


 ドワーフの事まで分かるとは、思っていた以上に凄いな。

 よく考えれば、ローラが黙って従っていること自体凄い事だ。


「ローラの言い分も良く分かった。四葉商会は確かに研究を協力する相手として問題ない」

「それとタクトは『物質転移装置』の仕組みも独自で解明しております」

「……なんだと!」


 その後、ローラから『情報伝達の新技術』と『物質転移装置の改良』について説明をしていた。

 説明の途中で、シーバが話を止める。


「……実は最近、時空の歪みが頻繁に起こっておる。転移魔法の使い手が現れたと考えたほうが良い」


 多分、それは俺のことだろう。当然、ローラも分かっているが、ローラが持っていた腕時計はローラ独自の物で、王都では【転移】しても問題なかったんじゃなかったのか?


「所長はどうして、その時空の歪みを発見出来たのですか?」

「あぁ、それはローラが隠れてその腕時計を作っているのを偶然知ったので、私も作ってみたので発見出来ただけだ」


 ……結局、ローラのせいという事になるな。


「そうでしたか、その転移魔法の使い手は、ここに居るタクトです」


 ローラは悪びれることなく、あっさりと俺の秘密を喋った。

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