第274話 魔剣!
王都から戻った次の朝、シロとクロには「今日は自由に過ごしてくれ」と言うが、一緒にいると言うのでふたりと共に、オークロードと討伐した『常世の渓谷』に来る。
周りを確認して、【アイテムボックス】から、オークロードの腕と剣を取り出す。
取り出した瞬間に、腕は液体に変化して、剣のみが地面に刺さった。
オークロードと対戦した際に、手に入れた剣だが気になっていた。
周りに影響が無いようにとこの場所を選んでみたが、杞憂に終わりそうだ。
改めて地面に刺さった剣を見てみる。
全体が黒く光り、全長三メートル程あるだろう。
大きさ的にも魔人専用の武器なのか、禍々しい感じがする。
欲しいという奴が現れるまで、保管するしかないと思いながら仕舞おうと手を添えると、身体から『HP』と『MP』が抜かれる感じがしたので、スグに手を放す。
……何なんだ? 魔族にしか触れられない剣なのか?
【全知全能】に確認をすると、意思を持つ剣で一般的に『魔剣』と呼ばれていると答えが返って来た。
『魔剣』『妖刀』等、形状や地域により呼び名は異なるが武器自体が自我を持ち、精神が弱い者が武器に触れれば、使用者の意識まで取り込んでしまう武器の通称らしい。
切れ味も落ちず、錆びる事も無い。
この世界でも数本しかない希少な武器とされている。
そんな、希少な武器を何故オークロードが持っていたんだ?
偶然、手にしたとは考えにくい。
俺が知らないだけで、オークロードにオーク以外の別の仲間が存在していたという事か?
ガルプツーが、裏で糸を引いていた可能性が高い。
だからと言って、ここに放置しておくわけにもいかない。
なるようにしかならないと思い、シロとクロには何かあれば、それぞれの判断で対応するように頼んでおく。
右手で魔剣の刀身を触ると、魔剣の記憶なのか精神攻撃なのか分らないが、悍ましい映像が頭の中に流れ込んでくる。
確かにこれは、精神を病むかも知れないと思いながらも耐える。
しかし、ひたすら映像が流れ込んでくるだけで、それ以上でもそれ以下でも無い。
こちらから、魔剣に語り掛けてみる事にして、念じてみる。
(おい、お前の目的は何だ!)
返答はない……
しかし、流れ込んでいた映像が止まったと同時に、『HP』や『MP』が吸われる感じも無くなった。
(映像を止めたって事は、俺の声が聞こえているんだろう)
少しは期待をしながら、話し掛ける。
当然のように返答が無い。
無視されているのか? 答える気が無いのか分らない。
(返答が無いなら、この剣折るからな! 一応、これでも俺魔王だから、二度目は無いと思えよ!)
脅迫じみた事を言ってみる。
これで、駄目なら【アイテムボックス】の中に永久保管か、本当に破壊して新しい武器に作り替えて貰うかを検討する事にする。
(お前が魔王で、我を破壊するだと!)
向こうからの返答があった。
(そうだ。お前の元持主であるオークロードから奪い取った。そのオークロードを倒したら、俺が魔王になった)
(成程な、生命力の無い腕に掴まれたままだったのは、お前の仕業という訳か!)
(そうだが、お前の目的は何なんだ? この映像に意味はあるのか?)
(魔族ならいざしらず人族のお前に、我の精神攻撃が効かないとは!)
(御託はいいから、さっさと質問に答えろ。答えないなら、剣をへし折るからな)
(……我にふさわしい所有者を探している。お前なら、我にふさわしい素質があるから、所有者にしてやっても良いかもな)
(断る)
(何故だ! 我を使いたいと思う奴は、この世界に幾らでもいるぞ!)
(いや、おれ剣士じゃないから必要ないだけだ)
(剣士で無くても、我を持てば凄腕の剣士に引けを取らない。それに魔剣使いの称号も得るのだぞ!)
(全く興味が無い。そういう事なら暫く仕舞っておいて、そのうち売りに出すから新しい所有者とやらを見つけてくれ)
(ちょっと待て! 私の精神攻撃に耐えられて、ここまで会話出来る者等会った事が無い。我を使ってみたいと思わないのか?)
(全然、思わない)
これ以上、話をしても同じだと思い、断る理由を伝える。
まず、大きすぎて使えない。そして、自分の意志と関係なく、勝手に戦われるのは好きではない。
使う代償がある筈だが、それを明確にしていないのは信用出来ない。
反論があるようなので、聞いてやる事にする。
(大きさや形状は、使い手のイメージで変更可能だ。それに指示が無ければ勝手には戦わない。そもそも力関係で言えば、お前の方が上だろう)
何やら都合のいい事を話し始めた。
(それに代償だが、『HP』や『MP』を糧にして威力を上げる事が可能なだけだ。希望を聞いてどちらか片方だけにする事も出来る)
……なんで、この魔剣はこんなに必死なんだ?
(お前の言い分は分かったが、そこまでして俺に所有者になって欲しい理由は何だ?)
(我と会話が出来る精神力の者に、興味があるだけだ。それに、会話が出来ると言うのも面白い)
(成程な、とりあえず分かった。俺が所有者になってやるよ)
(本当か! 嘘じゃないだろうな!)
若干、声が上ずっている。
姿は見えないが嬉しいのだろう。
(では、お前の理想の剣に変化する)
三メートルあった剣が、徐々に小さくなっていき、俺が使いやすい大きさになる。
形も剣から刀に近い形に変化した。
(これが俺の理想の剣の形か!)
地面から剣を抜き、切っ先を天に向ける。
前世の記憶にある『妖刀:村正』が頭を過る。
(お前の名は、『ムラマサ』だな!)
思わず呟くと、黒色の刀身は光を放つ。
この光の感覚は、以前にも感じた事がある。
そう、シロとクロに名前を付けた時と同じだ!
(我と契約まで結べるとは、驚いたな!)
(武器でも、名前を付けると主従関係が成り立つのか?)
(我も初めてなので良く分からんのだが、主従関係というよりは、お前が我の所有者になったのだろう)
(そうか、悪かったな。お前も、俺より剣士に使用してもらった方がいいだろう?)
(……確かにそうだが、致し方あるまい)
まぁ、不可抗力とはいえ契約してしまったのは仕方ない。
(とりあえず、宜しくな!)
ムラマサに挨拶をする。
(ところで鞘は無いのか?)
(無い。欲しければ作ってくれ)
むき出しのまま、持って歩く事は出来ない。
仕方ないので、ユニークスキル【道具契約】をする。
(……これはこれで寂しいな)
(姿が無いだけで、意思の疎通は出来るから問題無いだろう)
仕舞っている間は、意思の疎通が出来る。
シロとクロにも、俺を通して会話が聞こえるみたいだ。
(お前は、シロとクロの次の仲間だから、先輩達には逆らうなよ!)
(……致し方ない。シロ殿にクロ殿、宜しく頼む)
意外と礼儀正しい。
シロとクロも、挨拶を返していた。
剣も手に入ったので、今後は剣術のスキルも上げておく事にする。
当然、スキルに依存しない戦闘技術も習得する必要があるが、今迄なんとかなったので、これからも適当でも何とかなるという思いはある。
しかし、この件は報告する必要があるのだろうか?
明日、話だけはしてみるとするが、俺以外は使用出来ないのだから、文句を言われても仕方ない。
少し、憂鬱な気落ちになる。
俺以外の者が、ムラマサに触れた場合どうなるかを確認すると、俺の命令通りに『HP』や『MP』を吸い取るというので、握った場合のみ『HP』と『MP』を瀕死の状態になるまで瞬時に吸い取る仕様にする。
ムラマサを握ろうとすること自体が、窃盗目的だと仮定している。
死なないまでも、一瞬で瀕死状態になるので簡単に捕まえる事が可能だ。
ムラマサを出して、数回素振りしてみるが俺専用の武器かのように、全く違和感がない。
(成程、使いやすいな)
(当たり前だ!)
ムラマサは上機嫌で話し掛けてきた。
俺もこの世界に来て、シロと会って会話できる喜びを感じた事があるので、今のムラマサの気持ちも少しは理解出来る。
武器というよりは、仲間といった感覚に近い。
(これから、宜しくな!)
改めて挨拶をして、ムラマサを仕舞う。
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