第241話 嫌がらせの応酬!

 馬車を一旦止めて貰い、馬車の中で【転移】を使い、ライラを迎えに行き戻ってくる。

 案の定、初めて転移魔法を見たジラールとヘレンは驚いていた。


「はじめまして、ライラと申します」


 ジラールとヘレンに挨拶をする。

 ギルドカードを提示して『冒険者』だという事を証明する。

 ランクを見て「大丈夫か?」と不安そうな顔をするが、俺が「問題ない!」と言うと何も言わなくなった。


 しかし、【転移】を使えば簡単に城内へ入り込めるな……


 ライラとの簡単な自己紹介が終わったようなので、


「ゾリアスと連絡を取るが、問題無いか?」


 ジラールが、ゾリアスの兄だと知った際に思い出したことがあった。

 ゾリアスを裏切った部下達の事だ。

 もし、ソイツ等が今高い地位に居るのなら、ゾリアスを嵌めた事を償って貰う必要があると考えている。


 ジラールは返答に困っていたが、最後には頷き承諾した。


「話す内容は聞きたくないかも知れないから【結界】を張る。 俺の話声や、音は聞こえなくなるが気にしないでくれ」


 ジラール達に伝える。


 ゾリアスに連絡を取ると楽しく過ごしていると、嬉しそうに話してくれた。

 只、俺が王都に居る事を伝えると無言になる。

 そして、ジラールと兄弟の事も知った事も伝えた。


 ゾリアスが冒険者になるのを躊躇った理由も、ジラールに迷惑が掛かると思っていたかららしい。

 俺は、裏切った部下達の名前を聞く。

 中々、話そうとしなかったゾリアスだったが、


「言わないなら、分かるまで片っ端から王国騎士団の奴等を倒して聞くぞ」


 仕方いので脅迫をすると、重い口を割った。


 当時副官でもあった『パク』、『チョーヨン』の名前を挙げた。

 それ以外の者は、指示されて行動しただけだから罪は無いらしい。


「タクト、無茶はするなよ」

「俺が今迄に無茶をした事があるか?」

「……悪い、無茶な事しか思い出せない」


 最初は心配してくれていたのだろう。 しかし、俺が無茶ばかりをしていると認識した瞬間に何も言わなくなった。


「何かの為に聞いただけだから、すぐに行動を起こすわけでもないから安心しろ」


 そう言うと「分かった」と答えて、連絡を終えたたので、【結界】を解く。

 俺が「終わった」と言うと、ジラールは複雑な表情で、


「……ゾリアスは元気だったか?」

「あぁ、元気そうだったぞ」


 やはり、心配していたのだろう。


「今度、ゾリアスに会いに行きたいと思う……出来るのか?」


 ゾリアスに会う事は問題ないが、ゴンド村で会うのは避けたい。


「そうだな、ジークのギルドに呼ぶから兄弟水入らずで、話でもしたらいいだろう。 そうだよな、シキブ」


 ジークのギルドマスターでもあるシキブに話を振る。


「そうね、ギルド会館が嫌なら、近くに大きな建物内でもいいわよ」


 その大きな建物って、俺達の店兼住居のことだろう……

 シキブの嫌がらせか?


「そうだな、シキブ達の新居は広いから、そこでもいいな」

「ん、なぁ!」


 嫌がらせには嫌がらせで返す。


「おぉ、いつでも歓迎するぞ!」


 ムラサキは、素直に歓迎する様子だ。

 反対に、シキブは俺を睨んでいるが、目線を合わせて笑う。


「そうか、歓迎してくれるのは有難いが……そんなスグにと言う訳でも無い」


 会えると分かっただけでも嬉しそうだ。


「グラマスは、仕事を片付けてからにして下さいよ。 各支部のギルマスは真面目に書類提出しているのですから!」


 ヘレンに叱られる。 ジラールも庶務作業は苦手なのだろう。

 シキブは申し訳なさそうな顔をして、下を向いている。

 真面目に書類を提出していない負い目からだろうと推測は出来た。


「ヘレンは、ギルド本部に長く居るのか?」


 ヘレンの会話が少ない為、話を振ってみた。


「はい、ゾリアス様が王都追放になって間もなく前グラマスが引退することになり、グラマスと一緒に王都に移ってきました」

「ジラールとは、長い付き合いと言うことか」

「腐れ縁と言う奴ですね」


 表情を変えることなく、淡々と話す。

 仕事中のイリアに近い印象だ。 しかし、ゾリアスを『様』付けで呼んでいたな……


「ゾリアスを呼び捨てにしないのは、理由があるのか?」

「はい、恩のある方を呼び捨てには出来ません」


 恩がある? 気にはなったが、それ以上は聞かないことにした。


「あぁ、そういえばヘレンにイリアから伝言あったわ!」

「なんでしょうか? 用事であれば直接連絡すれば済むことですのに」


 シキブの言葉に、ヘレンは不思議な顔をしている。


「私もよく分からないけど、『賭けは私の勝ちよ!』とだけ伝えてくれれば分かるって言っていたわ」

「何ですって!」


 冷静な印象のヘレンが取り乱して立ち上がり、馬車の屋根に頭をぶつける。


「……ありえませんわ、そんな事」


 ヘレンは明らかに取り乱している。


「賭けってなんだ?」


 余りにもヘレンの行動が変なので聞いてみた。

 ヘレンは顔を赤らめながら、


「……結婚です」


 そう、小声で応えた。

 えっ! そういう事だと、イリアはエイジンとの結婚を決めたって事か?

 まぁ、俺達に話す事でもないが、何故か疎外感を感じた。


「……イリアに付き合っている人なんて、居ないわよね?」

「そうだな」

「そうですね、シキブさん達のように気付きませんね」


 トグルの言葉に、シキブとムラサキは恥ずかしい出来事を思い出したのか、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。


「付き合っている奴なら居るぞ、なぁライラ」

「はい」


 エイジンとの事は俺達しか知らないようだ。


「えっ!」


 さっきまで恥ずかしがっていたシキブは勿論、ムラサキやトグル、ヘレンは驚いた顔で俺達を見ている。

 ジラールは興味がないのか、外の風景を眺めている。


「相手、誰よ!」


 真っ先にシキブが聞いてくる。


「それは俺からは、言えないな。 聞きたければ本人から聞けよ」

「……分かったわ」


 シキブは、すぐにイリアに連絡を取る。 すぐに本題に入ろうとするが、書類の不備等の説教を長々とされて謝っているようだ。

 イリアの小言が無くなった所で、本題を切り出すと「付き合っている人は居る」「詳しくは俺に聞いてくれ」「プロポーズはされた」と淡々と答えたそうだ。

 更には、シキブの後始末で忙しいので用事がないのなら切るとまで言われたので、シキブは渋々連絡を終えた様子だ。


 当然、質問の矛先は俺になる。

 イリアは、質問されるのが鬱陶しいので、わざとこのタイミングを狙ったんじゃないかと勘繰ってしまう。


「早く教えなさいよ!」


 シキブは目を輝かせて急かしてくる。

 仕方ないので、答える。

 恋人の名はエイジン。 グランド通信社のジーク支社長と言う事に、俺も気に入っている人物だと付け加える。 二年程の付き合いと聞いている。

 イリアへの嫌がらせも含めて、出世街道まっしぐらとも伝える。


 話を聞いたシキブ達は驚いていたが、ヘレンは信じられないのかブツブツと何か呟いている。


「……イリア、仕事続けてくれるわよね?」


 シキブは心配そうに聞いてくるが、俺には分からないのでイリアに聞くしかない。

 そもそも、プロポーズされた事も知らなかった……もしかして、マリー達は知っていたのか?

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