第242話 怪我の騎士達!

 馬車を降りて、衛兵の案内で王国騎士団の詰所に向かう。

 向かう途中、治療士らしき者達が忙しそうに行き来している。

 忙しそうな女性の治療士を呼び止めて、状況を聞いてみる。

 怪我人に対して、治療士が足りていないそうだ。

 目の前で人が死ぬのは、気分がいいものでない。


「手伝うから、重傷者がいる部屋から案内してくれ」


 俺の助言に対して、愛想笑いで「大丈夫です」と返される。

 見た目で判断されているのだろうな……。

 仕方ないので、ダウザーから貰った紋章を見せる。


「大変失礼致しました。すぐに御案内致します」


 変わり身の早さには驚いたが、彼女らも疲れていたのだろうと思い、特に腹も立たなかった。


「悪いが、怪我をしている騎士達を治療するから待っててくれ」

「……分かったわ」


 シキブ達は納得していたが、ジラールとヘレンは「何言っているんだ?」と言う顔をしている。

 細かい事はシキブ達が説明してくれるだろう。


 治療に人が足りないと言う事なので、シロとクロも出したくなかったが仕方ないと諦めて呼ぶ事にした。

 シロには、別の治療士の案内で、比較的軽い怪我人の対応を頼んだ。

 クロには、治療が終わった騎士達の誘導等を頼んだ。


「とりあえず、責任者を呼んでくれ。治療しながら話をする」


 無断で治療するのも気が引けたので、話を付けておこうと思う。


「……治療しながら話ですか?」


 案内してくれている治療士は不思議そうだった。


「ここです」


 案内された部屋は悲惨なものだった。

 『死んではいない』といった表現が正しい怪我人が、五十人程寝かされている。


「お前は俺の後を着いてきてくれ。とりあえずコイツから治療する!」

「は、はい」


 入口に寝ていた怪我人から【治療】と【回復】を掛ける。


「終わった。次!」

「えっ!」


 魔法名だけ唱える無詠唱でも無く、手をかざすだけで次々と治療していく姿は、治療士からすれば異様な光景であっただろう。

 しかし、治療が終わった怪我人は起き上がり、怪我が治ったことを喜んでいる。


 十分程で、部屋に居た怪我人の治療は完了した。

 治った怪我人達は、それぞれに礼を言ってくるが、他の部屋にいる怪我人を治すことが優先だと言うと、納得してくれて同胞を早く治療してくれと言われた。

 治療士に次の部屋を案内させて、同様に【治療】と【回復】を掛けてまわる。

 同じように十分程で、治療を終えると入口に一人の女性が立っていた。


「……これは、どういうことですか」


 目の前の状況が信じられない様子だ。


「実は、この冒険者様が……」


 治療士が状況を説明しようとするが、俺はそれを止めて次の部屋へ案内するように言う。


「悪いが勝手に治療させて貰っているぞ。文句は後でいくらでも聞く。俺の友人も怪我の軽い奴らの治療を手伝っているから、そっちの文句も俺が聞くから」


 それだけ言うと、早々に次の部屋へと移る。

 治療が終わった騎士達に、その女性は『ユキノ』様と呼ばれていた。

 彼女は薄紫で長髪の人間族で、豊満な胸なのが特徴だ。

 いや違う、違わないが……治療士達の責任者なのは、騎士達の会話から、すぐに分かった。

 自分達の仕事を勝手に来て、良く分からない者達に奪われているのだから、文句を言われるのは覚悟していた。


 次の部屋でも同じ事を繰り返す。

 同行してきたユキノも、俺の行動が信じられない様子だった。


「……貴方は、神ですか?」


 意味不明な事を言っていたが、無視して治療をしていった。


「ここからは、命に別状のない騎士になります」


 案内してくれた治療士が、安心した口調で教えてくれた。

 隣のユキノは俺を尊敬いや、崇拝しているような目で見ている。


「紹介が遅れてたが、冒険者のタクトだ。国王に呼ばれたが、怪我人を放っておけなかったので、勝手に治療させて貰った。すまなかった」


 一応、頭を下げて謝る。

 俺の行動に驚いたユキノは慌てて、頭を上げるように言ってきた。


「感謝こそすれ、文句なんてありません。しかし、タクトと名乗られましたが『ロード討伐』のタクト様ですか?」

「そうだ、よく知ってるな。それより、残りの怪我人を治療していく」

「あっ、はい! 宜しくお願いします」


 ユキノから正式に承諾を貰ったので、引き続き治療をしていく。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 全ての部屋での治療を終えると、シロとクロに礼を言う。

 クロが言うには、シロが治療した騎士達は『女神』と祈っていたという。

 確かに治療士よりも、魔法は格上だし俺の影響か、念じるだけで魔法が発動する。


 しかし、元女神の眷属だったシロが『女神』と言われるのは皮肉なものだ。

 本当の女神であるエリーヌよりは神らしいのは、間違いないが……。


 ユキノに一番最初の部屋で、腕や脚を失った者達には復元出来なかった事を謝っておいて欲しいと伝えると、その言葉にえらく感動した様子だった。

 ここまで案内をしてくれた治療士にも礼を言う。


「いえ、こちらこそありがとうございました。因みに、私は治療士ではありませんよ」

「えっ! そうなのか?」

「はい、人手が足りなかったので手伝っていただけです」

「そうか、それは悪かったな。勝手に連れまわしてしまって怒られないか?」

「はい、大丈夫です」

「もし、文句言われるようなら、俺が代わりに聞くからな」

「大丈夫ですよ」


 笑って答える。


「そろそろ、あいつらが待ちくたびれているだろうから、戻るわ」

「ジラール様達の事ですね」


 流石にグラマスだけあって、有名人のようだ。


「私がジラール様の所まで、御案内致します」


 ユキノが案内役を名乗り出てくれた。


「すまないが、頼む」

「ヤヨイは先に戻って、この事を伝えてくれますか?」

「はい」


 ヤヨイと呼ばれた女性は、一礼して走っていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ここを曲がれば、ジラール殿達が御待ちになっている場所になります」

「そうか、忙しいのに悪かったな」

「いいえ、そんな勿体無いお言葉。こちらこそ、本当に感謝致します」

「疲れている治療士がいれば、治療してやるぞ」

「そこまで、タクト様に甘える事は出来ません」

「そうか、じゃあな」

「はい」


 ユキノと別れて、角を曲がりシキブ達の所まで歩いていく。

 シキブは俺を見つけるなり、


「思ったより遅かったわね」

「そうか? 三百人位の治療にしては、早いと思っていたんだけどな……」

「……三百人?」

「あぁ、三百人」


 シキブ達は「又か!」という顔をしている。


「三百人って、嘘を言うのも大概にしてくださいね」


 ヘレンに叱られる。弁明するのも面倒臭いので「スマン」と謝っておく。

 当然、シキブ達は俺が嘘を言っていないという事は分かっている。

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