第240話 国王の城へ!

「ところで、国王にはいつ会いに行くんだ?」


 ギルドでの用事が終わったと思った俺は、ジラールに聞く。


「そうだな、ここでの用件は完了しているから、今から行こうか」

「国王と面会の承諾は、取れているのか?」

「勿論だ。 シキブから連絡も貰った後すぐに城の担当者へ連絡をした。 時間はもう少し後になるが、騎士団の所にも寄るから時間的には問題無いだろう」


 騎士団の所に寄るのは、王国騎士団団長のソディックに会う為なのだろう。

 怪我していると言っていたが、大丈夫なのか?


「王国騎士団の団長は、怪我していると聞いている聞いているが動けるのか?」

「命には別状は無いが、重症らしいな」

「そんな状態で、討伐に来られるのか?」

「部下の無念もあるから、大人しくしてられないのだろう」

「……よく国王が許可したな」

「そうか言っていなかったな。御前達の許可が出れば同行しても良いと言ったらしいぞ」

「えっ! そんなの聞いてないわよ」


 シキブが驚く。


「だから、言っていなかったと今、言っただろう」

「知っていて黙っていたの?」

「いや、俺もシキブに連絡した後に連絡を貰った」


 シキブは納得していない様子だ。


「会って無理そうだったら断ればいいだろう?」

「……そんな簡単な問題ならいいんだけどね」


 仮にも、王国最強といわれている王国騎士団、しかも団長から懇願されて断れるかという事らしい。

 足手まといなら、連れて行かなければいいだけだと思うが……。


 城に向かう準備の為、【アイテムボックス】より正装を取り出す。

 シキブ達のもしまっておいたので、取り出して各々に渡す。

 それを見ていたヘレンは、「便利なスキルですね」と羨ましそうだ。


 シキブとヘレンは別室で着替えるので退室する。

 残された男共は、その場で着替える。


 正装に着替えた俺を見てジラールが、「【呪詛】と分かっていても、変な格好にしか見えない」と失礼な発言をする。


「シロとクロは、国王の許可が出るまで隠しておくがいいか?」

「そうだな。 強力な戦力になる者達とはいえ、国王の目の前で許可を取った方がいいだろうな」

「何かあったら、助けてくれよ」

「グランドマスターとして、冒険者を助けるのは当然だ!」


 頼もしい言葉を掛けてくれた。


 暫くすると、ジラールはヘレンから連絡があったようで、着替えが終わった事を伝えたようだ。

 扉が開くと、正装に身を包んだ女性達が入ってきた。


「タクト、お願いがあるんだけどいい?」

「……又、変な事じゃないだろうな」

「又って、タクトに変な事頼んだこと無いじゃない!」


 自覚が無いって怖いな……。


「それで、頼み事ってなんだ?」

「私じゃなくて、ヘレンなんだけどね……」


 シキブは、ヘレンに目線をやる。

 ヘレンは恥ずかしそうにしながら、


「シロ様に触らして頂く事は可能でしょうか?」


 ……シロ? 猫科系獣人か!

 俺がその事に気付くと同時に、ジラールが叫ぶ。


「ヘレン! 自分だけズルイぞ!」


 ……ジラール、お前もか!

 その姿は既にギルド本部グランドマスターの威厳は無かった。


 シロに確認すると、いつも通り快諾する。


「この姿でいいのか?」

「……この姿?」


 ジラールとヘレンは何のことか分からない様子だ。


「そうか、言っていなかったな。ちょっと待っていろ」


 シロとクロに人型に変化するように言う。

 人型に変化すると、ジラールとヘレンは呆然としていた。


「おい!」


 二人を正気に戻して、ヘレンから握手とハグをする。

 イリアと同じ様に幸せの絶頂の顔をしている。


 それを見ていたジラールは、正装のズボンで手をひたすら擦っている。

 その光景を見ていた俺は、以前にも似た光景を思い出して小さな声で呟く。


「……ゾリアスみたいだな」


 俺の言葉に、ジラールの表情が一変する。


「ゾリアスを知っているのか?」


 そういえば、ゾリアスは王都を追放になったのを忘れていた。

 ……マズイ事になったか?


「ゾリアスはタクトが面倒を見ているわ」

「……タクトが?」


 シキブは、ジークの街での事を話し始めた。

 スラム街が無くなった事、タクトを慕っている村で、普通ではないが平穏に暮らしている事等だ。


 ……ゴンド村の事を話している時は、魔物やアルとネロの事を話さないか心配だった。

 辺境の地にあるとはいえいずれ、冒険者か商人等に見つかる危険は承知している。

 かといって、【結界】や【隠蔽】で隠しても一時的なものになってしまう。

 この件は、ずっと気になっている問題だ。


「ゾリアスから王都追放になった経緯等も聞いている。事情はどうあれ、ゾリアスは俺の友人だ。ゾリアスに文句があるなら、俺が聞いてやる!」


 語尾を強めながら、ジラールに話す。


「文句など無い……ゾリアスは俺の兄だ」


 ……兄? ゾリアスと兄弟って事か?

 シキブ達の方を見るが、シキブ達も知らなかった様子だ。


「犯罪者とはいえ、兄の面倒を見てくれて感謝する」

「……言葉を返すようだが、ゾリアスは犯罪者じゃない。今でも立派な王国騎士団の志を持っている」

「そうか……」


 ジラールは嬉しそう顔で下を向く。

 そこにはシロが既に立っていた。

 一気に緊張するジラールに対してお構い無しに握手とハグをした。


 国王から、グランドマスターに指名された際の色々ってこの事なのか……。


 とりあえず、魂の抜かれたジラールとヘレンを無視して、ライラに連絡をする。


「お兄ちゃん!」


 元気な声が返ってきた。


「さっき王都に着いたが、こちらに来れそうか?」

「うん、里のほうはラウ爺がなんとかしてくれるから大丈夫だよ」

「そうか、迎えに行くから正装に着替えて待っててくれ」

「分かった」


 ライラとの連絡が終わり、ジラール達を見ると正気に戻っていた。


「もういいか?」


 ジラールの問いに対して、もう一人の仲間を迎えに行くので待って貰うように伝える。


「……転移魔法か?」

「そうだ。それに魔法研究所からも呼ばれているからな」

「魔法研究所?」

「ロードの発見方法について呼ばれているからな!」

「成程な。冒険者に研究者という事か」

「タクトは、商人ギルドでもランクSだぞ」


 納得したジラールに、ムラサキが余計な事を言う。


「……ランクSだと!」

「巷で噂の四葉商会代表はタクトなのよ!」

「なんだと! シキブ達の結婚式を取り仕切った四葉商会か!」


 シキブも諦めた様子だ。


「因みに、俺は研究者じゃないからな」

「……そうなのか?」

「あぁ、無職なのはさっき確認しただろう?」

「……」


 国王の城まで移動する馬車に乗り込む。

 馬車の中で、ローラに連絡をすると「分かった」と素っ気無い返事だ。

 迎えに行く時期は未定だが、『魔法研究所』には連絡して貰うように追加で頼んでおく。


 馬車が止まり、城への衛兵に身分証明書を提示して城内に入る。

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