第232話 冒険者の戦い方!

 『狐人の里』でライラと別れて、そのまま『蓬莱の樹海』を抜けた。


「まだ、時間もあるので少しでも進むか?」


 俺だけなら夜通し走れば、王都との距離をかなり縮めれるが一応、意見を聞く。


「そうね、普通の冒険者らしく、歩いて行きましょうか。 普通の冒険者らしく」


 シキブが、やたらと『普通』という言葉を連呼する。


「タクトが、私達の知らない所で、そんな事をしていたなんてね」


 樹精霊ドライアドの事か?


「気が付いたら、こうなっていたんだから仕方ないだろ?」

樹精霊ドライアドなんて、魔王と同じで簡単に会える存在じゃないんだからね」


 ……まぁ、そうだろうな。

 オリヴィア達は、情報を読み取った際に俺が『転異者』なのを知っているから、協力を求めているってのもあるが……


「しかし、オリヴィア様は綺麗だったな」


 ムラサキが、何気なく呟いた一言にたいして、シキブが過剰に反応する。


「あぁそうなんだ! ムラサキはオリヴィア様みたいなのが好みなんだ!」


 一気に不機嫌な空気になる。


「いや、違うんだ。 一般的なだな……」


 ムラサキは、慌てて訂正をしようとしているが、元々口下手なので訂正すればする程、シキブの機嫌は悪くなる。


「ムラサキは、オリヴィアがどう見えたんだ?」


 仕方ないので、ムラサキを助ける。


「……そうだな、言いづらいがシキブを、もう少しおしとやかにした感じだった」


 シキブとトグルは、不思議そうな顔をしている。

 ……なるほどな、やはりオリヴィアは幻術を使っていたか。


「トグルは、どう見えた?」

「俺は、リベラに似た女性だったぞ?」


 トグルからの回答に、俺は思わず笑ってしまった。


「何が可笑しいんだ!」


 シキブに続き、トグルも不機嫌な顔になる。


「悪いな、実は樹精霊ドライアドは、幻術を使えるんだ。幻術を使った樹精霊ドライアドを男が見ると美人と言うか、理想の女性が見えるようになっているんだよ」


 俺の言葉に、ムラサキとトグルは顔を赤くしている。

 シキブも、ムラサキの言葉を思い出して照れている。


「そうか、トグルはリベラをねぇ~」


 揶揄うようにトグルを見る。

 トグルは恥ずかしいのか、下を向いて無言のままだ。


 シキブとムラサキは、仲直りをしていつも通りいや、いつも以上に幸せオーラを出していた。


「……絶対に言うなよ!」

「俺よりも、そっちの新婚達に口止めした方が良いと思うぞ」


 悪気はないが、思ったことを口にするムラサキの方が心配だ。


「ムラサキさんに言ってもな……」

「無駄なのは分かるぞ。 残念だが、諦めるしかないかもな」


 落ち込んでいるトグルに追い打ちを掛けるように、シキブが興味津々で質問をする。


「ねぇ、いつから好きだったのよ!」

「……」

「どこが好きなの!」

「……」

「もう、告白はしたの!」

「……」


 シキブの質問に、無言を貫くトグル。


「話したくないんだから、そんなに聞く事無いだろう」


 流石にトグルが可哀想に思えた。


「私はトグルの恋を、応援したいだけよ!」


 何故か、怒り始める。


「話したくないのに無理やり聞くのは、可哀想だろう?」

「……そうだけど、気になるじゃない」

「時期が来れば、話してくれるんじゃないのか? なぁ、トグル」

「……多分」


 そう答えるのが精一杯みたいだ。


「タクトは、どんな風に見えたのよ!」


 シキブの標的がトグルから俺に変わった。

 俺は特徴を言うがシキブと同じに見えていたのが分かると、不満そうだった。


「なんでタクトは、こういう時は普通なのよ!」


 普通って意味も良く分からないが……


「まぁ、俺には効かなかったってだけだ」

「つまんないわね」


 ……やはり、暇潰しでトグルに聞いていたのか?



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 シキブが、ひたすら喋りながら王都まで歩く。


 今迄、長時間シキブと過ごす事も無かったので、シキブがこんなに御喋りだった事は知らなかった。


 何も起こらないのも暇なので【魔力探知地図】で辺りを確認してみる。

 少し行った所に大きな魔力の存在を確認出来た。


「なぁ、魔物でも討伐しないか?」


 俺の発言に、三人共こちらを見る。


「俺の感だと、あっちの方向に魔物がいる気がする。 行ってみるか?」

「勿論だ!」

「それじゃあ、タクトがリーダーでパーティーを組みましょう」


 ムラサキとシキブは、乗り気だ。

 トグルは、先程の件から完全に立ち直れていない様子だ。


 【魔力探知地図】を見ながら、反応のあった草原の中央まで来ると三人が、俺の顔を見る。

 「騙したな!」 といった顔だ。


 なんとなく分かる気もする。

 俺が探知した魔物が、『グリーンヴァイパー』だった。

 蛇に似ている姿をしている大型な魔物『ヴァイパー』が地形に特化した種類の魔物で、主に草原に生息する。

 討伐推奨ランクはAだと、シキブが話してくれる。


「はぁ、気軽にタクトの言う事を信じたのが、駄目だったわ」

「そんなに、難しいのか? シキブ達なら余裕で倒せるだろう?」

「……」


 そんな事を言っている間に、グリーンヴァイパーが襲ってくる。

 五メートル程ある体を上手く使って近距離から中距離の攻撃をしてくる。

 それに加えて、口から毒を吐くのでなかなか厄介だ。


 ムラサキが囮になるように動いて、グリーンヴァイパーの気を散らしている。

 シキブが、上手く回り込みながら死角から攻撃をしている。

 トグルは、尻尾の攻撃を避けながら、的確に攻撃をする。


 確実に自分の役割を把握した上で、動いている。

 「流石だな!」と感心をすると同時に、俺自身はどう戦っていいかが分らない。

 どう動いても、邪魔にしかならない気がする。


 傍観を決め込んでいる俺にシキブが、


「グリンヴァイパーが頭を上げたら、魔法で攻撃して!」


 攻撃のタイミングを指示した。

 その直後に、方向を変えたムラサキを攻撃しようとして頭を上げたので、【風刃】で頭を切り落とした。

 グリーンヴァイパー自身も首を切られた事が分らないのか、地面の上で舌を出したり引っ込めたりしている。

 その間、切られた胴体から噴水のように血が噴き出す。

 呆然と、その場に立ち尽くす三人冒険者達。

 

 数秒後に、支える事が出来なくなった胴体が、大きな音を立てて倒れた。

 その音で、正気を取り戻す冒険者達。


「……タクト、今何をしたの?」

「【風刃】で攻撃しただけだ」

「……【風刃】って、風属性の初級魔法よね?」

「そうだ、初級魔法でも威力があるから、よく使うぞ」


 シキブは、ムラサキとトグルとで何やら話し始めた。

 ……もしかして、やらかしたか?


「タクト、本当に【風刃】なのよね?」

「あぁ、そうだぞ」

「中級魔法や、上級魔法は習得している?」

「いや、していない。 特に不便を感じないからな」

「……よく聞いてね。 【風刃】にあんな威力は無いのよ」

「そうなのか? けど、サイクロプス討伐の時も使ったはずだぞ?」

「……あの時は目で追うのがやっとだったから、攻撃の内容までは詳しくは分からなかったのよ」


 今迄、普通に初級魔法のみで戦って来たから、これが普通だと思っていた。

 確かに、【魔法威力増加(一〇倍)】のユニークスキルはあるので、通常よりは威力はある。


「ユニークスキル【魔法威力増加(一〇倍)】が、俺にはあるからな」


 トグルは知らないが、シキブとムラサキは既にステータス内容を見られているので、隠す必要が無い。


「……ユニークスキルで一〇倍になっても、この威力は考えられないわよ!」

「確かにな、【風刃】なんてホーンラビットの首を落とす位しか出来ないからな」

「でも、今迄出来ているぞ?」

「だから、それがおかしいんだって事を言っているのよ!」


 ……シキブに何を言われても、心当たりが無い。


「お前の戦闘を真面目に見たけど、本当にバケモノだな」


 トグルが、嫌味を込めて言ってくるが、受け流すように返す。


「俺も初めて冒険者の戦闘を見たけど、凄いな!」


 俺の言葉に、シキブ達が驚く。


「……初めて?」

「おぉ、初めてだ。 今迄、人の戦闘とか見る機会無かったしな」


 シキブ達が俺を可哀想な目で見る。


 ……好きで、ボッチな冒険者をしていた訳では無いんだけどな

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