第231話 分家の反乱!

「頭首、大変です!」


 里の方から、狐人が叫びながら走って来た。

 俺達を無視して、レクタスの所まで駆け寄る。


「里で、分家の者達が暴れてます!」

「なんだと! 暴れている理由はなんだ!」

「それが先程と同じで、頭首様とそこの冒険者達の会話が里の中に聞こえてきて……」


 ……オリヴィアの仕業か。こうなる事を予想していたのか?


「それで、本家や関係者達を襲っています!」


 レクタスは、「何故だ!」と驚いている。


「自業自得だな。馬鹿にしていた分家の者達に襲われるといいさ」

「お前が言う通りに動いていれば……」

「誰でも、思い通りになると思っているお前が馬鹿なんだよ」


 ライラを後ろに隠して、シキブに目線を送ると理解してくれたのか、ライラを守る位置に移動してくれた。

 レクタスは襲い掛かろうとするが、ラウ爺が必死で止めている。

 力は、ラウ爺の方が強いので俺達まで攻撃が届くことは無い。

 しかし、なんでラウ爺もレクタスと一緒に俺を襲わず、必死で止めようとしているんだ?


「タクト!」


 後でトグルが叫ぶ。

 振り向くと、里の方から火柱が見える。


「……火事か?」


 そう思った瞬間に、俺は既に里の方に向かって走り出していた。

 里の入口に着くと、中央に先程見えた火柱が上がっている。

 多分、頭首であるレクタスの家だろう。

 他にも明らかに造りが豪華な住居が破壊されていたり、火を点けられたりしている。

 周りを見渡すと、三分の一位の住居が燃えている。

 襲っている分家の者達は、今迄の仕打ちの恨みを晴らしているように暴れている。

 襲われている本家や取り巻きの者達は、自分達がなぜ襲われているかを理解していない様子だ。

 このままだと森の方に火の粉が飛んで、森自体が火事に巻き込まれる可能性が高い。


「シロ! クロ!」


 シロとクロを呼ぶ。

 シロには、水属性の魔法で消火活動をしてもらう。

 クロには、上空から火が飛び移っていないかを監視してもらった。

 俺はその間、この暴動を力づくで止める事にした。

 【結界】を作り、その中に襲われている本家や直系の者達を中に入れた。


「お前も、本家の味方か!」


 分家の者達に怒鳴られる。


「違う。どちらかと言えば、御前達の味方だ!」

「それならどうして、そいつ等を匿うんだ!」

「殺すのはいつでも出来るが、その前に森が燃えるのが困るだけだ。少しだけ待っててくれ」

「そんな事は信じないぞ!」


 ……確かに、そうだな

 【結界】の中で、ひと際うるさい奴を選んで外に出す。

 分家の者達は襲い掛かろうとするが、それを止める。

 逃げようとするソイツを捕まえて、ひたすら殴った。

 顔の原型が無くなる位、ひたすら殴り続けた。

 周りには、ソイツの血が飛び散る。

 一分程の時間だが、誰も言葉を発しなくなっていた。


「まだ、生きているがこれで信用してくれたか?」


 血みどろの拳を見せると、何も言わなくなった。

 【治療】を施して、元の顔に戻して再び【結界】の中に放り込んだ。


「今みたいに、殺さなければ何回でも殴り続けれるから、少し我慢してくれ」


 俺の言葉に、分家の者達は驚きながらも頷いた。

 反対に【結界】の中の者達は「助けてくれ!」と叫び始めた。



 シロが頑張ってくれたおかげで、早く鎮火した。

 クロも周りに火が飛び散っていない事を確認して貰うが、問題は無かった。

 【結界】の中には、本家と取り巻きの者達が閉じ込められている。

 消火の最中に、ムラサキがレクタスを連れてきたので、ラウ爺共に【結界】の中に閉じ込めた。


「私も、本家だから罰は受けないといけない……」


 ライラは、自分の立場を理解したうえで話していた。


「冒険者殿!」


 一人の青年が、俺に話し掛けてきた。


「何だ? 分家の代表か?」

「代表ではありませんが、ライラの処罰は少し考えて貰いたいと思いまして……」

「……ジェロさん」


 青年の名は『ジェロ』と言い、ライラやローラとも親交のある者だった。

 ローラが、ライラの事を連絡したのもジェロらしい。

 後にいる者達も、ライラの処罰は考えていない事を叫んでいる。


「ライラは、皆に好かれているんだな」


 頭に手を置き褒めてやる。

 涙目になっているライラが嬉しそうに笑う。


「処分を決めるのは、御前達だから好きにすればいい。とりあえず、ひとりずつ解放するから拘束するなり好きにしてくれ!」


 顔を見合わせながらも、不安な顔で頷いた。

 今後の事も考えると、里の問題は里の者で対応するべきだ。

 そうでないと「誰かがやってくれる!」という甘えが出る。

 十数人いる本家と取り巻きの連中を、ひとりずつ解放した。

 ラウ爺は暴れるかと思ったが、素直に拘束されたのは意外だった。


「今日は泊まって、里の者達とこれからの事を話し合えよ。明日、迎えに来るからな」

「うん、分かった」


 ライラを置いて、『狐人の里』を出る。

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