第227話 狐人族の思惑!
【全知全能】で『蓬莱の樹海』にある『狐人の里』と言われる集落の位置を確認する。
アラクネ族の場所からは、反対方向のようだ。
さすが、国で一番大きな森だけある。
もう一度、近い場所まで【転移】して、『狐人の里』を目指す。
途中からは、ライラが知っている場所だったので案内をして貰った。
森の一部が切り開かれていて、数人の狐人達が居た。
俺達の姿を見つけると、誰かを呼びにいくのか里の中に入って行った。
集落に近づくと、ライラだと気付いた狐人達が集まって来た。
皆、ライラが戻って来た事には大歓迎の様子だ。
しかし、よそ者だからかも知れないが、俺達への視線は冷たいと言うか歓迎されていない様に感じられる。
変だな? ラウ爺とは、和解したよな……。
「タクト殿!」
奥から、ラウ爺が俺を呼ぶ。
俺の名を聞くと、狐人同士で、明らかに俺に聞こえる大きさで「変な奴」「誘拐犯」「小汚い人間族」等と話している。
正直、気分がいいものではないが、ライラの手前我慢をする。
「ギリギリですな、心配しましたぞ」
「遅くなって悪いな。俺の事情で遅くなった」
ライラが、何か言いたそうだったが、【念話】で「大丈夫だ」と伝えると、何も言わなかった。
「儀式なので、俺達は里に入れないだろうから、里の外で待っている」
「申し訳ないですが、御願い致します」
「それと里の拡張の件は、どれ位なのかを先に教えてくれ」
ラウ爺とふたりで、皆と離れる。
拡張したい場所まで来ると、「ここ位」と足で線を引いては次の場所に行き、同じ動作を繰り返す。
「この位の広さ位ですな」
「ちょっと、そこで待っていろ」
俺は樹に手を当てる。
「お久しぶりですね」
後ろから、声がするので振り返るとオリヴィアが立っていた。
ラウ爺は、状況が掴めていない。
「ラウ爺、この美人が森の管理者で
「初めまして、狐人族のラウ殿」
「は、はじめまして……」
心ここにあらずと言った感じだ。
「言わなくても用件は、分かっているだろう」
「はい、伐採の件ですね」
「問題無いのか?」
「条件付きで了承致しましょう」
「……条件付き?」
「えぇ、最近の狐人族ですが、森を大切にすると言う気持ちが疎かになっています」
ラウ爺の方を見ると、申し訳なさそうにしている。
心当たりがあるのか?
「最近も、数人に対して制裁を加えました。そうですよね、ラウ殿」
「……はい、その件は申し訳御座いませんでした」
どうやら数人の者達が、森で意味も無く伐採したり、枝を折ったりと横着な事をした為、オリヴィアの逆鱗に触れて、樹のツルで両手両足を縛られ、数日間森の中に放置された。
その後、発見されたが森の中より「これは警告。森に危害を加える者には今後、容赦はしない!」と何処からともなく声が、聞こえてきたそうだ。
「……俺は、その話聞いてないぞ。人間族の俺が勝手に伐採しても、自分達には危害が無いと思って騙したのか?」
「いや、断じてそんな事では無い」
「ラウ殿、嘘はいけませんね。タクトさんに伐採をさせて、自分達は関係ない事にしようとしていましたよね?」
「……そうなのか?」
ラウ爺は、何も答えない。
「狐人族の誤算は、タクトさんが私の信頼している人物だと、知らなかった事ですね」
「騙していたって事か……」
「はい、そうです」
「そう言う事なら、これ以上は協力は出来ない。オリヴィア、わざわざ悪かったな」
「いえいえ、気になさらずに」
オリヴィアは笑顔で微笑んだ。
「待ってくれ!」
ラウ爺が、大声で叫んだ。
「……騙していないと言ったら嘘になるが、里としては大きな問題だ。出来るのなら内密にしておきたかった」
「それと俺が伐採して、オリヴィアから制裁を加えられる事とは、関係無いだろう?」
「……」
「俺が、着いた時に集落の狐人達は、聞こえるように俺に対して汚い言葉を言っていたよな?」
「……それは」
「まぁ、どっちでもいい。俺を信用しない奴は、俺も信用しないだけだ!」
「違う! タクト殿を信じていない訳では無い。お嬢を誘拐したと、まだ思い込んでいる奴達が居るのは事実だが……」
「それが、狐人族の考えなんだろう?」
「……いや、違う」
「違わないだろう。ライラの件に関しては、俺に一切非が無い事は知っていただろう。ギリギリになったが約束通りにライラも連れて来た。俺は約束を守ったぞ。それに対して、そっちは俺を騙したんだろう?」
ラウ爺は、反論が出来ない。
「だから、残念だがこれまでだ」
ラウ爺に背を向ける。
「待ってくれ! 少しだけ時間をくれ……頼む」
「時間なら今迄、沢山あった筈だろう。それなのにまだ時間が欲しいってのは、そっちの都合だ」
「……確かにそうだが」
「伐採は自分達でやってくれ。オリヴィアとの条件とやらも、自分達で何とかすればいいだけだ」
「私の条件は、タクトさんでないと無理ですけどね」
笑顔で俺を見る。
又、俺に何か討伐させる気なのか?
「そういうことなら、里を広げるのは無理だな。制裁覚悟で広げるなら別だが」
ラウ爺は、下を向いたまま無言だ。
「待って!」
樹の陰から、ライラが姿を現した。
後にも数人の狐人達が居る。
俺に警戒しているのか、始めて見る
「ライラ、どうして此処に?」
「森から、お兄ちゃんとラウ爺、それにオリヴィア様だと思われる女性の声が里まで聞こえてきたの」
……声が聞こえていた? オリヴィアの仕業か!
咄嗟に、オリヴィアの方を向くと、俺に向かって微笑んでいた。
……確信犯か!
「それで、里でも騒ぎになっていて……」
「そうか、ゴメンな。力になりたいと思って来たけど、無理みたいだ」
「……私が、皆に本当の事を話して、お兄ちゃんが悪くない事や、失礼な事はお詫びさせるから」
ライラは、泣きながら俺を説得する。
「子供のライラに、ここまで言わせるのをどう感じる」
ラウ爺に向かい、問いかける。
「……申し訳ないと思う」
俺はしゃがんで、ライラと同じ目線になる。
「ライラに任せるけど、俺が納得出来なかったら断るけど、いいか?」
優しい口調で話すとライラは、小さく頷いた。
「……悪いけど、時間も無いからな」
「うん、分かっている」
ライラは、ラウ爺の手を取ると振り返って、里の方に戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます