第228話 冒険者のプライド!

 狐人族と入れ替わるように、シキブ達が俺の元にやって来た。


「聞いていたけど、気分のいい話じゃないわね」


 シキブは、少し怒った口調で話し掛けてきた。


「世の中には、騙される方が悪いって言葉もあるしな……」

「そんな言葉、初めて聞いたわよ!」


 ……そうか、この世界エクシズには、無い言葉か。


「それで、タクトはどうするつもりなの?」

「ライラ次第というか、狐人達次第だろうな」

「狐人は、昔から騙すのが上手いと言われていた種族だからね……」


 狐だから、騙すのが上手いという事か?


「まぁ、今回の討伐からは、ライラが外れる事になるかもな」

「仕方が無いわね。それよりも、なんでタクトが樹精霊ドライアドと会話が出来るのかを、教えて欲しいわね!」


 ……完全に、その事を忘れていた!

 オリヴィアの方を見ると、相変わらず笑顔だ。

 俺から説明するにしても、難しいよな……。


「私が代わりに、お答えしますね」


 俺の気持ちを察してくれたのか、オリヴィアが答えてくれるようだ。


「タクトさんは、この『蓬莱の樹海』、そして『奈落の密林』と『迷いの森』の管理者である樹精霊ドライアドが信用出来る人族として、色々と協力をして頂いております」


 樹精霊ドライアドのオリヴィアが言うと、説得力が違うな。


「シキブ殿とムラサキ殿は、御存じかと思いますが、『サイクロプス』と『コカトリス』の討伐は、私からの依頼でした」


 ふたりが俺の方を見るが、気付かないふりをする。


「先日も『奈落の密林』で、スレイプニルの亜種を討伐して頂いたと聞いております」

「えっ! 今、『奈落の密林』のスレイプニルと、おっしゃいましたか」

「はい、そうですよ」


 俺の情報を読んで、聞いたと言っているのか。

 それよりも、シキブの目線が突き刺さる……。


「『迷いの森』から、魔力が無くなり平和になったのも、タクトさんのお陰ですしね」


 ……俺のした事を全部説明するつもりなのか?


「タクトさんには私達、樹精霊ドライアドがお世話になっていると考えて貰って結構ですが、この事は秘密で御願いしますね」

「……はい、承知致しました」


 シキブは、オリヴィアに約束をした。

 あとで、御説教があるのだろうと覚悟はした。


「それで、伐採する条件が俺しか出来ないってのは、どういうことだ?」

「あぁ、それはリラにした事と同じ事をして貰いたいだけですよ」

「リラと同じ事?」

「森の管理者を敬うように神祠を建てましたよね」

「……そういう事か。確かに、この世界で俺にしか出来ない事だな」

「そうです。だから、タクトさんしか出来ないって言いましたでしょう」

「確認だがエリーヌの隣で、いいんだよな?」

「はい、結構です」

「分かった。狐人達の結論が出た後で、呼ぶから待っててくれ」

「承知致しましたわ」


 オリヴィアはそう言うと、森の中に入って行った。


「……タクト、きちんと説明してくれるわよね」

「今、オリヴィアが言ったとおりだ」

「そうだけど……それよりも、スレイプニル討伐したって本当なの?」

「あぁ、戦闘途中で亜種に変化して、物凄く苦労して討伐したんだぞ!」

「いや、そういう事じゃなくて……一応、確認するけど単独討伐よね?」

「当たり前だろ」

「……スレイプニルの単独討伐は、当たり前じゃないのよ」


 まぁ、このお叱りは想定内だ。


「しかも、冒険者ギルドのクエストなのに……」

「えっ! そんなのあったか?」

「……あったわよ。発注が古くて埋もれた可能性はあるかも知れないけど、そもそもランクSS以上の共通クエストなのよ!」

「そうなのか? 記憶になかったから勝手に討伐したけど、マズイのか?」

「討伐自体は問題無いけど、その討伐者がランクBで単独討伐ってのが問題なのよ!」


 シキブは、どうしていいものか悩んでいる。


「……正直に報告するしかないだろう。タクトなら、『ゴブリンロード』を討伐した実績もあるから、大きな問題にならないかも知れないぞ」


 珍しくムラサキが、助言をした。


「……そうね。考えても仕方ないわね」


 シキブは、考えるのを諦めた。


「この際だから、ついでに言っておくけど、討伐していないのに経験値だけ貰うのも、冒険者としては屈辱なんだからね」


 今更、サイクロプスとコカトリスの事を持ち出してきた。


「おぉ、そうだぞ! タクトだから、仕方ないと思って納得したんだからな」


 ムラサキも同調する。

 確かに、ふたりの言うかも知れない。

 冒険者のプライドがあるなら、自分の力以外で経験値を得ても嬉しくはない。

 その事に気が付けずに、ふたりには申し訳ない事をしたと、今更ながら思った。


「シキブ、ムラサキ! そこまで、気が回らなかった。すまなかった」


 素直に頭を下げて謝罪する。

 数秒しても、無言のままなので頭を上げるタイミングが見つからない。


「タクトが、素直に謝ったわよね?」

「あぁ、俺にもそう見える」

「コイツでも、素直な心があったんだな」


 俺が下を向いていると、言いたい放題に酷い事を言っている。

 シキブ達が言う言葉と、狐人達からの言葉だと、同じ事を言われても捉え方が違うのは、信頼関係が気付けているからだろうか?


 頭を上げて、三人を見る。


「好き勝手言いやがって……」


 俺が笑いながら言うと、シキブ達も笑った。

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