第226話 ライラの儀式まで……!

「俺がですか!」


 トグルは、いきなりの事で驚いている。


「えぇ、タクトの推薦でね。 決めるのはトグルだけど、あまり時間も無いのよ!」


 トグルは俺の顔を見るが、すぐにシキブの方へ顔を戻す。


「……俺で良ければ、力になります」

「そう、ありがとう。 ライラはどう?」


 ライラは、緊張していた。

 当然だろう、この間冒険者になったばかりなのに、恐怖の対象ともなっているオークロードの討伐なんて、考えもしなかっただろう。


「お兄ちゃんが選んでくれたなら、頑張る! 只、儀式が……」

「儀式?」


 シキブが首を傾げる。


「あぁ、狐人族は三〇歳を迎えると、儀式があるらしい。 その儀式が数日後にある」

「そう、ここから王都までだと一〇日前後よね。 その儀式はいつなの?」

「……明後日」


 えっ! 明後日だと……


「ライラ! なんで今迄黙っていたんだ!」

「……お兄ちゃん、忙しそうだったから話そびれて」


 ローラの話からも、まだ先だと思っていたんだが、ローラ自身も儀式の日を間違えていたのか?

 それとも、俺の【転移】で間に合うと知っていて、「そろそろ」だと言ったのか?


「そうか、最近なかなか話出来てなかったからな、ゴメンな」


 ライラは、頭を左右に振った。


「けれど狐人族の里までは、とても間に合わないわね……」

「いや、大丈夫だ」


 俺の言葉で全員が【転移】の事だと分かったらしい。


「イリア、そういう訳だから留守を御願ね!」

「分かりました。 くれぐれも無理をしないように」


 シキブが、イリアに留守中の事を頼む。


「なんで、イリアなんだ? こういう場合は、実力のある冒険者に頼むんじゃないのか?」


 俺の言葉に、シキブにムラサキやトグル、そしてイリアまでも驚いた顔をしている。


「イリアは元冒険者だ! レベルで言えば俺の次位だったんだぞ!」

「えっ! 受付嬢じゃないのか? それに強さ的にはトグルが三番目だって……」

「それは私が冒険者を引退したので、知った仕事の受付をしていただけです。 それに引退した身ですので、冒険者の強さで言えば三番目は、トグルさんで間違いありません」

「……誰も教えてくれなかったぞ!」


 俺の言葉に、一斉に目を逸らした。


「他の冒険者に頼むより、引退したとはいえ信用と実力のあるイリアに頼むのが、妥当なのよ」

「そういうことだ。 それよりも、準備をして一刻も早く出発だ!」


 なりほどな、確かにイリアであれば、シキブと同等の仕事が出来るだろう。


「ところで、準備って何だ?」


 不思議に思い、聞いてみる。


「何を馬鹿なこと言っているの! 何日も野営することになるから、食料とかの用意が必要でしょ!」

「えっ! だって、夜に【転移】で戻って、朝になったら元の場所に又【転移】すれば、いいだけだろう?」


 俺以外は皆、目が点になっている。


「……確かに、タクトの言う通りだけど、私達は普通の冒険者なのよ! 規格外の貴方の常識は通用しないの!」


 何故か、シキブが怒っている。


「しかし、それは便利ですね! 戻って来て仕事をする事も可能ですね」


 イリアの目が光ったかのように見えた!


「……タクト~!」


 シキブの怒りが増している。


「冗談です。 その間は、私が引き受けますので安心して下さい」

「イリア、ありがとう」


 とりあえず、必要最低限な持ち物を持って、ギルド会館前に再度集まる事にした。



 俺はライラと、『ブライダル・リーフ』に行き、王都へ向かう事になった説明をする。

 マリーとフランには「必ず帰って来る事」を約束させられた。


 ライラの荷物を【アイテムボックス】に仕舞う。

 シロとクロには、人型で行動してくれるように頼んだ。


 ライラの部屋から出ると、トグルが鬼人ツインズのザックとタイラーに説明をしていた。

 オークロード討伐に選ばれたトグルを、尊敬の眼差しで見ている。

 その後ろで、姉のリベラは心配そうにトグルを見ていた。

 トグルがリベラに何か言いたそうだったが、俺達に気が付いたのか何事も無かったかのように振舞っている。


「お邪魔だったか?」


 笑いながら声を掛ける。


「うるさい!」


 小さな声で言葉を返す。


「俺達は、先にギルド会館に行っているからな」

「俺もスグに行く」

「ザックにタイラー! お前達も一緒に下に行くぞ。 王都で土産を買って来てやるから欲しい物をがあれば聞いてやる」


 土産という言葉に反応してか、すぐに俺達の後を付いてきた。

 トグルは、「余計な事を!」 という目で俺を見ていた。



 ギルド会館前にはシキブとムラサキも、まだ来ていなかった。

 皆が揃うまでの間、ライラに質問をする。


「儀式の間は、何も力になれないが大丈夫か?」

「うん、大丈夫!」


 真っ直ぐな目で俺を見つめた。


「儀式が終えると、何か変わるのか?」

「……分からない」

「そうか」


 話の途中で、シキブとムラサキが姿を見せた。

 そのすぐ後に、トグルも現れた。


 街の外まで歩いて『蓬莱の樹海』に【転移】をする。

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