第203話 リーフ・デザイン!

「どれがいいと思いますか?」


 ミラが、ユイの書いたデザインを四枚持って、ダウザーに意見を聞きに来た。

 横からデザインを見ていたが、全て異なってはいるがミラに似合っているデザインかつ、領主夫人としての気品を損なう事の無いようになっている。


「どれも素晴らしいな。 この中からは選べんな……全部、仕立てて貰え!」


 ……おいおい、仕立てるとは言ったが、その数は酷くないか?

 俺の表情に気付いたダウザーは、


「タクト、提案だが『ブライダル・リーフ』を、ルンデンブルク家御用達にするからダメか?」


 卑怯な言い回しだな。


「そもそも『ブライダル・リーフ』は、結婚式や写真撮影をメインとした店だ。 服の仕立て業務は兼務していない」

「そうか、それなら新しく仕立て屋を作れば問題解決だな!」


 ……そんな簡単なら、こんなに悩む必要がないだろうに。

 絶対に分かっていて言っているだろう。


「服の仕立ては、四葉商会としては受けるが、『ブライダル・リーフ』としては受けないからな!」

「それでいい。 こちらも無理な頼みはしないから、安心してくれ」


 今、無理な頼みをしたばかりだろうが!

 ユイは、兼務となるな……

 無理をさせないように、業務形態を考えなければいけないな。

 ユイの事だから、また無理をしないとも限らない。


「デザインは、ユイが担当した物のみ受注するからな」

「当たり前だ。 彼女のデザイン込みだ!」


 ユイを見ると、恥ずかしそうにしている。

 その横のマリーとフランは、嬉しそうにそんなユイを見ていた。


「マリーとフランには、後でユイの業務で相談があるから、頼むな」

「気にしなくていいわよ」

「そうそう」


 俺の心配事が分かっているかのように、応えてくれる。


「店は、ここでいいのか? なんなら、ルンデンブルクに土地と建物を用意するぞ」


 いきなり、具体的な話を始めた。


「申し出は有難いが、この街を離れるつもりは今の所ないから、活動拠点はこの店になる」

「そうか、残念だが仕方ないな。 タクトの能力なら、何処に店があっても同じようなものだしな」

「……俺は、便利屋じゃないからな」


 言っておかないと、普通に移動手段として呼ばれる可能性が大きい。

 貴族の移動であれば、護衛も多数必要だが【転移】を使えば少人数で目的地まで行ける。


「そんな風には考えていないが、もしもの時は頼むかも知れんので宜しくな!」


 俺を使って移動する気なのが、なんとなく感じた。


「それよりも、『ブライダル・リーフ』とは仕立ての仕事を請けないのであれば、別の店ってことだよな?」

「あぁ、そうだ。 さっき言っただろう」

「俺達は、なんて店に発注すればいいんだ?」


 確かにそうだ。 業務形態が異なるのであれば店の名前が必要になる。


「ユイがデザインしているんだから、『ユイ』でいいよ」


 俺が即答すると、


「ちょっと、タクト! それは安易過ぎない!」

「そうよ、もう少し真剣に考えた方が良いわよ!」


 マリーとフランが慌てて、再考するように言ってきた。


「……俺もそれはどうかと思うぞ」


 ダウザーもマリー達に同意した。


「そう言われてもな……ユイ、お前が好きな名前を付けていいぞ!」

「えっ、私がですか!」


 俺の無茶ぶりに、ユイが驚く。

 マリー達も俺が付けるよりはマシだと、口々に言っている。


 俺のネーミングセンスは【呪詛】では無いかと疑いたくなるな……

 今度、女神より恩恵ユニークスキルが貰える機会があれば、『ネーミングセンス』が良くなるのを授かるようにするかと、真剣に考えたくなる。


 暫く考えていたユイが、よく分からないので『リーフ・デザイン』でどうかと提案する。

 シンボルの四葉のリーフとデザインを合わせただけだが、何故か皆が絶賛している。


「これからは、『リーフ・デザイン』に仕立ての依頼となるな!」


 ダウザーが、機嫌よく声を上げた。

 俺的には、どうにも腑に落ちないが、皆が納得するなら良しとした。


「これからも、御贔屓に!」

「当たり前だ!」


 ダウザーには皮肉が通じなかった……

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