第204話 大物貴族への取材!
「スイマセン、タクト殿はいらっしゃいますか?」
一階から、エイジンの声が聞こえた。
受付まで下りて行き、エイジンと同行した記者『ウルジャ』から名刺を貰う。
「タクト殿、そんなにスクープですか?」
「俺的には、そう思うが違ったらスマンな!」
笑いながら、エイジンとやり取りをしているが、ウルジャは俺を恐れているのか無言のままだ。
「俺が怖いのか?」
ウルジャに聞いてみる。
「いえ、そんな事はありません」
若干、声を震わしながら答えた。
「申し訳御座いません。社内では『四葉商会』は、重要顧客になっている為、粗相が無いように気を付けているので、緊張しているのです」
……そうなのか、四葉商会の名前が独り歩きしている気がするな。
二階のリビングで皆が、くつろいでいるのでエイジン達もそこに招く。
扉を開けると、エイジンとウルジャの緊張が最高に達した。
「……タクト殿、あそこに座られている方はもしかして、ルンデンブルク卿ですか!」
「もしかしなくても、そうだ。独占インタビューなので、聞きたい事聞いていいぞ」
エイジンとウルジャは、言葉が出ない様子だ。
「どうした、エイジン」
「いえ、大物と聞いていましたが、まさかルンデンブルク卿とそのご家族とは……」
「ダウザー達は大物かと思ったが、大物じゃなかったのか?」
「そんな、私達がおいそれと取材出来るような御方達ではありません」
「そうか、それなら良かった」
ダウザー達の取材が有るからソファを開けて貰い、マリー達には食事の用意を頼んだ。
ユイには、先程のデザインを仕上げて貰う。
緊張しながら、ウルジャは取材を開始した。
テーマは特になく、聞きたい事を聞くというスタイルにした。
ダウザー達は、真剣な表情で答えていく。
家族三人での取材は、初めての様子でミラやミクルは少し照れていた。
「タクト殿は、凄いですね」
取材状況を見守っているエイジンが、俺に話し掛ける。
「何がだ?」
「ルンデンブルク卿のことです」
「まぁ、物のついでだ」
「物のついでに、ルンデンブルク卿との取材の約束を出来る様な人を、私は存じ上げません」
「そうか? まぁ、これで少しでも先の失敗が取り戻せるといいけどな」
「何を言われますか! この取材は歴史的な事なのですよ。取材嫌いで有名なルンデンブルク卿が、しかも御家族と共に、取材に応じて頂いているのですから」
興奮しているのを、必死で隠すように冷静に話す。
取材嫌いなのはダウザーの性格上、面倒臭いから取材を受けないだけなんだって事が、すぐに分かった。
「それで今回のジーク訪問の目的は?」
ウルジャの質問に、ダウザーが答える。
「領主であるリロイ殿へ結婚の祝いと、四葉商会の『リーフ・デザイン』への仕立て発注になる」
「おい、ダウザー!」
思わず叫んでしまった!
「それは、内緒だろう!」
「そんな約束したか?」
ダウザーは、ミラやミクルを見たが首を傾げていた。
「タクト、口止めはしていないわよ」
マリーが、調理をしながら話してきた。
「そうだったか?」
「えぇ、特別に仕立てる事は言っていたけど、この場で秘密だとは一言も言っていないわ」
……そういえば、確かにそうだ。
「スマン、俺の勘違いだった。しかし、悪いが仕立ての件は内密に頼む」
「……なんでだ? 良い宣伝になるのではないか」
「こちらの準備も整っていない状態で、しかも内々に販売しているので『四葉商会』はいいが『リーフ・デザイン』の名前は、今の段階では世間に知られたくない」
「……そういう事なら仕方ないな。『リーフ・デザイン』の所は削除しておいてくれ」
記者のウルジャに、訂正を求めると「畏まりました」と返事をする。
「悪いな、ダウザー」
「気にするでない」
皆、嬉しそうにほほ笑んでいる。
そんなに、おれが謝るのが嬉しいのか?
そんな俺に、エイジンが恐る恐る声を掛けてきた。
「タクト殿は、ルンデンブルク卿を呼び捨てに出来る立場なのですか?」
「一応、ダウザー達家族からは、呼び捨てで呼ぶように言われている」
エイジンの顔色が変わっているのがよく分かる。
この国のトップクラスの貴族を呼び捨てにするのだから、その気持ちも分かる。
「まぁ、あまり気にするな。俺は変わりなく俺だから」
「はぁ、確かにそうですが……」
「どうした、一気に遠い存在にでもなったか?」
「いえ、そういう訳ではありませんが、何と言うか……言葉が見つかりません」
複雑な表情をしていた。
ウルジャが、ダウザー達に向かい礼を言った。
取材が終了した様子だ。
ダウザー達に「お疲れ!」と声を掛ける。
先程、撮影した写真を手渡すと、三人で笑顔になりながら見ていた。
フランは、最後にその状況を撮影して、早速【転写】作業に入った。
ウルジャに向かって、取材の感触について聞いてみる。
「いい記事書けそうか?」
「はい、必ずいい記事にしてみます。それと、記者人生でこんなに緊張した取材は、初めてです」
取材が終わり、ホッとしたのか言葉が軽やかだ。
続けて、話を聞こうとした瞬間に、大きな音と共に扉が開いた。
「疲れた~!」
「腹減った~!」
ザックとタイラーが、稽古から戻って来た。
「お前ら、帰ってきたら『ただいま』だろう」
トグルがふたりを叱って、部屋を見渡すと驚きながら、
「ダウザーさん! じゃなかったダウザー様、どうして此処に……」
予期せぬ対面で、慌てている。
ザックと、タイラーの頭を押さえて無理矢理、御辞宜をさせる。
「トグル、久しぶりだな。ミクルを警護してくれたそうで、感謝する」
「いえ、当たり前の事をしたまでです」
こんなに、礼儀正しいトグルは始めて見た。
「その元気なふたりが、お前の弟子か?」
「はい、その通りで御座います」
ダウザーは、トグル達の所まで行き、面を上げさせるとザックとタイラーに向かい話しかける。
「お前達の師匠であるトグルは、昔だが私とパーティーを組んでいた事もある。頑張って強くなれよ」
「はい!」
ダウザーの言葉に、ふたりのトグルに対する尊敬が更に強くなっただろう。
一方のトグルは、ダウザーの本性を知っているので、嫌がらせだと思っているようだ。
フランが写真を持ってきたので、それをエイジンに渡す。
ウルジャと写真を見ながら「素晴らしい出来だ!」と言っていた。
記事にする前に、一度ダウザー達への確認が必要と言うので、俺がその役目を引き受けた。
すぐに戻って記事にするというので、下まで送って行く。
心なしか、エイジンに元気が無いように思えた。
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