第202話 点と点を結んで線に!

 ルンデンブルク家が『ブライダル・リーフ』に来店して、家族写真の打合せをしている。

 流石に、マリーやフラン達従業員も緊張している。


「試着してみますか?」


 マリーがミラに尋ねる。


「いいんですか!」


 嬉しそうに返事をして、マリーに案内されて試着室へ向かう。


 数分後、試着した姿で登場したミラは、


「あなた、このドレス凄く軽くて着心地も最高ですわ!」


 ミラはウェディングドレスの良さを、ダウザーに話す。

 ダウザーは、ミラの姿を見たまま固まっている。


「綺麗だな!」


 ダウザーの言葉に、ミラも恥ずかしそうに俯く。


「見とれるのは勝手だが、質問には答えてやれ!」


 俺の言葉に、正気を戻したのか、


「そうだろう! タクトの所の商品は素晴らしい物ばかりだ。 私も服を仕立てて貰う約束をした」


 ダウザーの言葉に、ミラは羨ましそうに言う。


「タクト殿、私の衣装も仕立てて頂けませんか?」


 そうなるだろうな。

 この状況で断る訳にもいかないので、了承した。


 ミクルのドレスは、伸縮は可能だったが、宝石の大きさは変わらないのと、伸縮部の制限もあり一部長い所があったので、シロが仮縫いをして長さ調整をした。


 エマはミクルの周囲を飛び回って、変な箇所が無いかを確認している。



 フランは、緊張しながら撮影をしている。

 見ているユイやライラも真剣に撮影状況を見ていた。


「有難う御座いました」


 フランの声と共に撮影が終了した。

 ダウザー達も緊張していたのか、ホッとした表情だ。


 フランは、そのまま【転写】作業に入る。


 ダウザー達が、家族の着替えをしている間に、エイジンへ連絡をする。


「タクト殿、どうされましたか?」

「あぁ、大物の独占インタビューをしたいなら、一流の記者を連れて店まで来てくれ」

「大物とは?」

「それは、来てからのお楽しみだ。 エイジンの経歴に傷を付けた詫びだと思ってくれ」

「いえ、そんなことはタクト殿のせいではありません。 とりあえず、すぐに準備して伺います」


 事前に、ダウザー達には宣伝も兼ねて、取材に関しては了承を貰っていた。

 服を製作することもあり、協力してくれるようだ。


 家族での取材は初めてだと、ミラとミクルは嬉しそうに話していた。


 エイジンには、言葉の通り詫びも含めて記事を書かせるつもりだ。

 四葉商会の代表と言うよりは、俺個人の意見になるが……


 ミクルが、着替えを一番早く終わったようで、俺の所まで走って来た。


「タクト様、私にも衣装を作って頂けませんか!」


 目を輝かせながら話す。

 明らかに興奮している。

 ダウザーとミラには承諾して、ミクルには駄目とは言えない。


「分かった。 仕立ててやるよ!」


 俺の言葉を聞くと、嬉しそうに笑った。


 その後。ダウザーとミラも着替えが終わったので、グランド通信社の取材の件を話をする。


 待っている間にマリーも交えて、ユイに衣装のデザインを描かせた。

 ミラは楽しそうに意見を言っている。

 マリーは慣れてきたのかいつも通り、相手が誰だろうと怯まずに意見を言っている。

 デザインしているユイも、自分の意見を言っていた。

 遠目に見ていると、OL達の座談会の様子だ。


「楽しい時間だったぞ!」


 ダウザーが話しかけてきた。


「よくキャラの切り替えが出来るな?」

「まぁ、慣れだな。 あんなに砕けた話し方をしたのも数年振りだしな」


 嬉しそうに語る。


「それに、ミラのあんな楽しそうな顔も久しぶりだ。 ここの従業員達は良い人達ばかりだな」

「俺が居るからな!」


 冗談を言ってみるが、ダウザーは真剣な表情で、


「そうだな、タクトのせいだろうな。 お前の凄さは、力だけじゃ無いのが分かるぞ」

「俺独りでは、何も出来ない。 仲間が助けてくれるから、何とかなっている」

「顔に似合わず、謙虚だな」

「事実を言っただけだ」


 実際、その通りだ。

 俺のスキルは、女神であるエリーヌから貰ったものだ。

 そのスキルのお陰で、人並みはずれた能力を手に入れて、冒険者としてもそれなりに生活出来ている。

 金にしても、ゴブリンやオークから拝借した物だし、特殊素材についてもドワーフ達や、樹精霊ドライアド達の協力があったからだ。


 俺は、その点と点を結んで線にしたに過ぎない。


「ところで、少し真剣な話をしていいか?」

「あぁ、構わんぞ!」


 ミクルの誘拐の件に絡んで、エルフの奴隷売買や人身売買に関係する闇ルートの件。

 そして、コボルト達の奴隷場や王都近くの人体実験の事を報告した。


「……驚いたな。 それが事実なら国家を揺るがす一大事だぞ!」

「そうだ。 裏で誰かが糸を引いているはずだ。 心当たりは無いか?」


 ダウザーは暫く黙ったまま、小さな声で呟いた。


「一部領主か、統一された地方の反乱かも知れんな」


 この国の人族は、元々三つに分かれていて領地の奪い合い等を行い戦争をしていたが、数百年前に『エルドラード』が他の二国を吸収した。

 その二国には未だに反乱分子が存在している様で、時々反乱デモが起きている。


「俺から兄上に連絡はするが、タクトは独自で動いてくれないか? 勿論、報酬は払う」

「言われなくても、俺は好きなように動く。 何かあれば、報告はする。 それに報酬はいらん!」


 短時間ではあるが、俺を理解したのか「頼む!」とだけ言い、それ以上は追及もしてこなかった。

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