第182話 イメージを伝える凄さ!

 クララを見て、マリーとユイは驚いている。

 ユイに至っては、涙目になっている。


「クララ、久しぶり!」


 マリー達とは対照的に、陽気に挨拶をするエマ。


「あれ? エマじゃない。 最近見ないと思っていたけど、何処に居たの?」

「色々あって、今はこの人達の所でお世話になっている」

「そう、エマが言うなら、この人族は信用は出来るわね」


 エマの助言もあり、クララから信用して貰えたようだ。


「……タクト~!」

「悪い、詳しい説明してなかったな。 アラクネ族に直接発注していたんだ!」


 マリーが俺を睨む目には、いつも以上の殺気が籠っているのが分かる。


「それで、服はどれだ?」

「ふふふ、これよ!」


 上から、アラクネ達が服を持って下りてきた。

 樹の間から差し込む光がウェディングドレスの反射したり透き通ったりして、幻想的な演出だった。

 先程まで俺を睨んでいたマリーや、涙目だったユイもその光景に心が奪われていた。


「予想以上に良い出来だな」

「当たり前でしょ! 私達アラクネ族が仕立てたのよ!」

「マリーにユイ、着てみて感想を教えてくれ」


 ユイは、こんな素晴らしい服は着られないと断るが、マリーが手を取って数匹のアラクネ達と一緒に樹の陰へと連れていった。


 カンナの依頼の服を受け取り、明日以降に調整を頼むかもしれない事だけ伝える。

 俺の服も仕上がっているので、アラクネから受け取る。

 イメージ通りの仕上がりだ。


「俺のイメージ通りだ!」

「そうでしょ! 簡単な作りだけど色々と技術を使っているのよ!」


 早速、着替えようとしたが、アラクネ達が樹の陰で着替えるように言ってくるので、仕方なく移動した。

 腕や首を服に通すと、伸縮していい感じのフィット感だ。

 ズボンも動きやすく出来ている。

 上着も、ダボつかず動きが制限されることなく伸縮した。

 なにより、全体的に軽い。

 素晴らしい出来だ。


 着替え終わって、樹の陰から出る。


 俺の姿を見ると、クララが不思議な顔をしている。


「着る前までのイメージと、着た後のイメージが全然違うわ……」

「そうか? 俺的には完璧だと思うぞ」


 奥の樹からマリーとユイも、着替え終わって出てきた。

 俺を見てマリーが一瞬動きが止まったようにも思えたが、気のせいだろう。


「タクト! このウェディングドレス凄いわよ! 身体に馴染むというか、服を着ているって感じが全くない!」


 マリーは、えらく感動している。

 それに引き換え、ユイは恥ずかしそうに立ったままだ。


「ユイ、綺麗だぞ」


 顔が真っ赤になり、さらに動かなくなった。


 その後、俺がタキシードに着替えたりしている間に、マリーとユイがアラクネ達と、ドレスの改善点や、新しいウェディングドレスのデザインについて、打ち合わせをしていた。

 マリーはアラクネ達に対しても、意見を堂々と言っている。

 とても先程まで、驚いていた人物とは思えない。

 ユイも、少しではあるが自分の意見をちゃんと言っているので、安心した。

 アラクネ達も技術面から、形状などの意見を言っている。

 途中で、クララが妥協案等を提示したりと白熱した打ち合わせが続いていた。


「タクト、この三着で決まったわよ!」


 その場で、ユイが意見を聞いて描いたデザインを見せてくれた。

 どれも、素晴らしいウェディングドレスだった。

 俺が前世のテレビ等で見た、ドレスに近い物もある。

 イメージを形に出来るって事は凄い事だと、改めて感じた。


 クララが、こちらに寄って来た。


「アラクネ族の技術は凄いな!」

「当たり前でしょう! しかし、さっきは楽しい時間だったわ」


 クララ達は、服飾をしたいが依頼が無いと服を作る事は出来ない。

 仮に、服を作っても着る人のイメージが付かない為、あまりいい出来にならないらしい。


「特に、ユイって子は私達の話の中で、何度も描き直してイメージを具体化してくれたので助かったわ」

「やはり、凄い事なのか?」

「そうよ。 今回は自分のイメージを全て消して、デザインする事に集中していたんじゃないかしらね」

「そうか。 そういえば、マリー達の正装の依頼は終わったのか?」

「なにそれ? 聞いてないわよ!」


 マリーとユイに、正装の依頼の話をすると、ウェディングドレスの事で熱くなりすぎて、自分達の事を忘れていたようだ。


「ユイも、二着ほど好きなデザインで作っていいぞ!」


 嬉しそうに頷いて、早速デザインを始めた。


 マリーとフランのデザインを見たアラクネ達は、騒ぎながらも楽しそうに話している。


「タクト、宝石等を調達して貰ってもいい?」

「それはいいが、何でだ?」


 今迄、アラクネ達の作る服は装飾品としては、木細工がメインだった。

 それが、ウェディングドレスに宝石が使われていたことが、かなりの衝撃で今後の服作りにも採用したいそうだ。


「すぐには、無理だが幾つか用意して持ってくるとする」

「御願いね」


 全ての打合せが終わり、一旦戻る事にした。


 驚いたのは、マリーとユイがクララと仲間フレンド登録した事だ。


「魔物と仲間仲間フレンド登録って初めてよ!」


 なにやら嬉しそうだ


「アラクネ達の事は、内緒だからな! フランにもだぞ」

「分かったわよ。 ねぇ、ユイ!」

「はい!」


 生き生きとした表情だ。


「エマは、どうする? このまま此処に残るか?」

「そうね……残ってもいいけど、いつでも帰れるなら、暫くはあの家で厄介になるわ」

「分かった」


【転移】でジークに戻る。

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