第183話 ファッションセンスゼロ!
「なに、その恰好」
フランが、俺を見るなり眉間にしわを寄せている。
「格好いいだろう、俺のデザインだ」
「マリー、よく何も言わなかったわね!」
マリーが無言になる。
「なんでだ?」
「はっきり言うけど、ダサいわよ」
……ネーミングセンスだけでなく、ファッションセンスも無いのか!
「具体的に、何が悪いんだ?」
「全部よ、全部!」
思いっきり全否定された。
まず、全身が白色一色での統一から始まり、黒色のインナーシャツや羽織っている上着の短さ、それにズボンのユッタリ感。
聞いているだけだが、心が折れそうになる。
俺的には他の冒険者の恰好を参考にしながら、十七歳の身体に合わせて学生時代に着慣らした変形学生服と呼ばれる「短ラン」や「ボンタン」を意識したのが裏目に出たのか?
……しかし、他の冒険者と比べても、そんなに変わっデザインにしていないはずなのだが、変だと思っていないのは、俺だけなのか?
「まぁ、フランもそれくらいにしてあげて! 服のセンスなんて、人によって違うんだから!」
一生懸命フォローしてくれているのが、分かるだけに余計に落ち込む。
「村人の服と、どっちがマシだ?」
二人して考え込んでいたが、僅差で今の服という結論を出した。
……考えるほどなんだな。
落ち込んでいる俺を、気にも留めずにマリーとフランは、仕事に入った。
マリーは事務作業をして、ユイも色々と雑務をこなしている。
ユイに、デザイン道具一式を買ってやろうと思い、気分転換に道具屋へ向かう事にした。
ライラも仕事をシロとクロに取られてしまっているので、一緒に道具屋に行く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いらっしゃいませ!」
入店と同時に挨拶をされる。
道具屋と言っても、揃えている商品の品揃えが店によって異なる。
比較的、画材関係の品揃えが豊富な、少し遠い道具屋に来た。
『上質紙』と『MP回復薬』をあるだけ購入する。
いずれは、上質紙等を扱う業者とも直接取引をする予定だが、今はそこまで手が回らない。
デザイン用の道具を数点購入する。
「ライラは、欲しい物が無いか?」
聞いてはみたが、特に無いらしい。
「ところで、タクトさん。 鏡を何に使ったんですか?」
俺が街中の鏡を購入した事で、儲け話が絡んでいると思っている道具屋が、大量に仕入れたそうだ。
「知り合いが二〇個程、必要だっただけだ」
この道具屋の主人も、大量に仕入れてしまったようだ……
どうやら、俺は商人たちの間では、俺が何かをすると儲けられると噂になっているようだ。
道具屋を出て露店街に行き、ライラと買い食いをしながらブラつく。
昨日、ペンダントを購入した露店の前を通ると、店主が「似合っているよ!」とライラに声を掛けた。
声を掛けられたライラは、嬉しそうだ。
ふと、アラクネの宝石の話を思い出した。
「加工出来ないような宝石もあるのか?」
店主は、あるにはあるが売れるような代物では無いと、見せてくれた。
確かに、装飾品として加工するには小さすぎる。
しかし、服などのアクセントとして取り付けるには問題ない。
「この売り物にならない宝石を売ってくれ」
「こんな、クズ宝石をですか!」
「あぁ、そうだ」
店主は、ゴミ同然だからタダでもいいというが交渉の末、金貨十枚で購入した。
「それ、なにに使うんです?」
「知り合いからの頼まれ物なんだよ」
「そうなんですか。 兄さん、噂のタクトさんでしょ! なにか儲け話あれば教えて下さいよ!」
噂が先行していたのか、新聞記事の影響かは分からないが、俺は有名人のようだ……
特に行く所も無くなったので、家に戻ろうと歩いていると途中で偶然に、カンナと出会う。
「おぉ! カンナ、いい所で会った」
「えっ、午前中に会ったばかりですよ」
「まぁ、そうだがあれから色々あってだな。 実は、師匠の服が出来たんだよ」
「そうですか……って、こんな短時間でですか!」
「そうだ、時間があるなら少し確認出来るか?」
「はい、時間は大丈夫です」
買い食いで、腹一杯だが近くの軽食店に入る。
テーブルの上に服を出すと、想像以上の出来に驚いている。
触って確かめてみると、その軽さにも驚いていた。
「タクトさん、これ凄いですよ」
「そうだろう! 四葉商会の品物は全て超一流品だ」
刺繍等の細部も確認しているが、特に問題は無さそうだ。
「けれど、サイズが大きいような気がしますね……」
「トイレにでも行って、着替えてみれば分かる」
「でも、私だとかなり大きいですよ?」
「騙されたと思って、着替えてみてくれ」
納得いかない様子で、服を持ってトイレに入っていった。
数分後、トイレから出てきたカンナは、かなり興奮している。
「なんなんですか、この服は! 身体のサイズに合わせて伸縮するし、着た感覚が無い程軽いじゃないですか!」
「だから、言っただろう四葉商会の品物は、超一流だと」
技術が分からないように、完成した服には全て【隠蔽】を掛けてあるので技法等は全て分からない。
「それと、アラクネの糸を使用しているのは内緒な」
「はい、分かりました。 けど、師匠にはなんて……」
「聞かれたら、四葉商会に服を発注したと言えばいい」
「それだけで、いいんですか?」
「あぁ、俺がカンナの御得意様だから、特別に仕立てたって事を補足しておけば問題ないだろう」
「分かりました。 こんな素晴らしい物を頂いて何ですが……」
「代金は、今朝の通りでいいからな。 無理して高くするようなら、今後はカンナとの関係も考えるぞ」
「えっ! それは困ります。 じゃあ、これで……」
申し訳なさそうに、カバンから金貨を出す。
俺は、枚数を確認せずにズボンのポケットに入れた。
「確認しないんですか?」
「カンナを信用しているから、確認の必要ないだろ?」
「……さすがタクトさんですね」
呆れたように笑う。
「因みに、俺の服装ってダサいか? 正直に言ってくれ!」
「……そうですね、個性的だと思います」
……やはり、ダサいのか。
「お兄ちゃん、大丈夫だよ!」
ライラの優しさが、余計に俺を更に落ち込ませる。
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