第181話 ユイの夢!

「本当に申し訳御座いませんでした!」


 昼休みに、イリアが『ブライダル・リーフ』に来て、今朝の新聞記事を謝罪に来た。


「記事の事は、イリアには関係ないだろう?」

「確かに職業的には無関係ですが、個人的には謝罪が必要と思っております」


 イリアらしい解釈だな。


「エイジンからは、既に謝罪は受けている」

「そうですか……」

「エイジンが、心配か?」

「いえ、彼の仕事ですので私がどうこう言える立場ではありません」

「十日後に、本社からエイジンより偉い奴が、この街に来るぞ!」

「えっ!」


 俺の言葉に、イリアは驚いていた。

 多分、エイジンがこの街から離れる可能性を感じたのだろう。


「なんとか、エイジンにはこの街に残って貰うように、交渉は進めるから安心しろ」

「私は、別に残って欲しいとは一言も言っておりません」


 そう言いながらも、安心した表情をしてギルド会館に戻っていった。



 しかし、これから偉い奴との接触が増えるなら、マリーやフランにも正装を仕立てる必要があるな。

 アラクネ達に仕立ててもらうか。


 フランとマリーを呼び、正装のデザイン画を描いてもらう。


「どうしたの急に?」


 フランが不思議そうに聞いてくるが、マリーは既に何かを感づいているようだ。


「十日後に、グランド通信社の偉い奴が、四葉商会に謝罪に来る。 お前たちにも同席してもらうからな」

「……やっぱりね。 絶対何かあると思っていたのよ!」


 マリーは呆れていたが、フランはグランド通信社の偉い奴というキーワードだけで緊張していた。


「でも、服仕立てるなら、服屋に行けばいいのになんでデザイン画を描かせたの?」


 相変わらずマリーは鋭い所をついてくる。


「宣伝も兼ねて、アラクネの糸で服を仕立てる!」

「アラクネの糸ですって! タクト、言っている意味分かっているの、最高級の糸なのよ!」

「あぁ、知っている。 今、ドレス等もアラクネの糸で仕立てている」

「……相変わらずね」

「まぁな」

「……御願いが有るんだけど、聞いてもらえる?」

「なんだ?」

「その、工房って見学する事は出来る?」


 工房って事は、アラクネ族の集落になるよな。

 マリーであれば信用出来るが、向こうのアラクネ達がどう思うかだよな。


「確認をしてみないと、答えられないな。 少し、待っててくれ」


 マリー達に聞かれない場所に移動して、クララに連絡をしてみる。

 向こうも丁度連絡したいと思っていたようだ。


「先に、用件を聞くぞ!」

「用件というか、服仕上がったわよ!」

「……明日じゃなかったか?」

「皆、気合が入っていたので、随分と早く出来上がったわ!」

「それは有難いが……」

「すぐに取りに来て、新しいドレスの相談をしたいと皆が待っているのよ!」


 ……プレゼン会議か?


「分かったが、デザインについては、こちらから信用出来る人族を連れて行ってもいいか?」

「……貴方が信用できるのであれば問題無いけど、出来るだけ少人数で御願したいわ」

「分かった。 あとで行くから宜しく」


 クララとの連絡が終わると、頭上でエマが飛んでいた。


「今の会話の相手って、アラクネ族のクララ?」

「クララを知っているのか?」

「勿論よ。 私はオリヴィア様の森に居たからね」

「そうか、じゃあこれの意味も分かるか?」


 左の甲に「大樹の祝福」を出した。


「……あんたって、凄い人間族だったんだ?」

「やっぱり、凄いのか?」

「当たり前でしょ! 紋章を二つも貰えるなんて奇跡に等しいわよ」

「そうなんだな、ところでエマも一緒にクララの所に行くか!」

「えっ、連れてってくれるの! 勿論、行くわよ!」


 クララ達を知っているエマが同行すれば、マリーに対する印象も良くなるだろう。


「マリー、見学の了解が取れたぞ!」

「ありがとう。 それと出来ればユイも同行させてもいい?」

「ユイも?」

「ちょっと、こっちに来て」


 マリーは、ユイの仕事を見ていたが、服飾やデザインに興味がある様なので、デザインを描かせてみたら自分より上手だった。

 その後も三枚程、書いてもらったがとてもよく出来ていると感心していた。


 ユイのデザインを見せてもらうが、確かに上手だ。


「せっかくだからユイのデザインで、正装を仕立てようと思ってね」


 マリーのこういった気遣いは、俺では到底出来ないな。


「分かった。 ユイを呼んで正装のデザインを決めてくれ。 終わったらドレスを取りに行くから呼んでくれ」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「なかなか、いい出来だな!」

「そうでしょう! 支払いはタクトだから、少し豪勢にしたわよ!」


 褒められたユイは、照れくさそうに下を向いている。


「ユイは、デザインや服飾に興味があるのか?」

「……昔から、綺麗な服を着たいと思っていたので、色々と考えていた」

「そうか、それがやりたい事って言うんだぞ」

「でも、私なんか裁縫や刺繍もろくに出来ないし……」

「裁縫が苦手なら、デザインだけすればいいんだよ。 裁縫や刺繍が得意な奴に任せておけば、いい物は出来るから」

「……そうなの?」

「そうだ、失敗したらそこからなぜ、失敗したかを学べばいいだけだ」


 俺の話ぶりに、マリーが、


「タクトって、たまにオッサンのように語るわよね?」

「……悪かったな!」


 見た目は青年でも、中身はオッサンだから仕方ないだろう。


 フランは撮影があるのと、服の製作工程に興味が無いので残るそうだ。

 ただし、デザインはマリー同様にユイと相談して既に決めているようだ。


 マリーの肩にエマが乗り、ユイと共に『蓬莱の樹海』にあるアラクネ族の集落に【転移】する。

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