第174話 悩めるトグル!

 ギルド会館に戻ると、トグル達が居た。


「よっ!」


 挨拶をすると、トグルが俺を引っ張って別の場所に連れて行こうとする。


「おい、どうしたんだ」

「いいから、ちょっと来い!」


 ライラに中に入って、試験の報告をするように言う。

 言い終わると同時に、トグルが強引に俺を引っ張って、人気の無い場所に連れていかれた。


「……少し相談がある」

「トグルが、俺に相談なんて珍しいな」

「俺だって、お前に相談するなんて屈辱だが、そうも言っていられない状況なんだよ!」


 トグルの相談内容は案の定、ザックとタイラーについてだった。

 トグルを心酔しているようで「家で一緒に生活して、冒険者の心得を早く習得したい!」と、言っているらしい。


 子供の周りを考えないその思考は、少し羨ましいなとも思う。


「それで、俺に引き留めろという事か?」

「あぁ、そうだ」

「トグルは嫌なのか?」

「嫌とかじゃなくて、俺に四六時中面倒が見れるかって事だよ」

「そりゃそうだ」

「ちゃんと、お前からは断ったのか?」


 トグルは黙り込んだ。

 嬉しそうに話すザックとタイラーの顔を見ていると、断り辛いそうだ。


「流石のトグルも、子供には勝てないか」

「あぁ、そうだよ!」


 案外、素直だな。


「しかし、まだ二日目なのにそこまで慕ってくれるなんて、余程お前を尊敬しているんだろうな」


 トグルは、何も答えなかった。


「断る事は俺からも出来るが、本当にそれでいいのか? 俺から言うのと、師匠のお前が言うのとでは、言葉の重みが違うぞ」

「それは、そうだが……」

「少しは一緒に居てもいいと、思っているのか?」

「まだ、分からん。 ただアイツ等は嫌いではない」

「……そうか」


 トグルも葛藤しているのだろう。

 俺もいい方法が無いかを考ええてみる。

 案を思いついたが、受け入れて貰えるかはトグル次第だが……


「お前、俺達の家に引っ越して来い!」

「はっ?」

「今の話だと、一緒に住んでも良いが四六時中面倒は見れないんだろう? だったら俺達の家に、お前が来れば解決だろう?」

「いや、それは……」

「家賃は取るから安心しろ」

「そう言う事で悩んでいるんじゃない!」

「ひとり暮らしで寂しいんだろう」

「違う!」

「ギルド会館にも近いし、立地的にもいいと思うんだがな?」

「だから、そういうんじゃなくてだな!」

「分かった! お前、女が沢山一緒に住んでいるから恥ずかしいんだろう」

「……」


 あれ? 冗談のつもりが図星だったのか?

 トグルに対して、物凄く申し訳ない事をした気がする……


「じゃあ、ザックやタイラーと一緒に住んでもらう為に、俺からお前に頼むから引っ越して来てくれ」


 トグルに頭を下げた。

 俺が簡単に頭を下げた事に驚いた様子だ。


「お前は、プライドとかは無いのか?」

「プライドなんて、なんの役にも立たないだろう? 邪魔なだけだ」


 俺の言葉にも驚いている様子だ。

 冒険者や鬼人族としてのプライドがあるトグルには、信じられないのだろう。


「……分かった。 その代わり女性の隣の部屋は止めてくれ!」

「了解した。 出来る限り考慮はする」




「本当か、兄ちゃん!」

「やったぜ!」


 トグルが俺達の家に引っ越してくる事を伝えると、ザックとタイラーは大喜びだ!

 その仕草を見ていたトグルにも、自然と笑みがこぼれる。


 マリー達に何も言わずに勝手に決めたので、また変な顔をされるのは覚悟している。

 俺のせいとはいえ、一気に住人が増えたよな……


「お兄ちゃん!」


 ギルド会館の中から、ギルドカードを持って嬉しそうにライラが走って来た。

 中腰になり、走って来たライラの頭を撫でて「おめでとう!」と祝いの言葉を掛ける。

 嬉しそうにギルドカードを見るライラに対して、悔しそうなザックとタイラーだ。


「ザックにタイラー、ライラはこう見えても魔法士としては、かなりの実力を持っているんだぞ」

「はい、見た目で判断はしてません!」

「そうです。 ライラさんが強いのは知っています!」


 ……コイツ等、完全にネロの事でトラウマになっているな。


「ライラさんじゃなくて、ライラって言っているでしょ!」


 ライラは、『さん』付けされるのを嫌っているようだ。

 見た目は同じ背格好なのに、特別扱いされるのが嫌なんだろうな。


「お前ら、ライラがいいと言っているから、『さん』無しで呼んでやれ」

「……でも」

「その代わり、ライラもお前らを呼び捨てで呼ぶから、同じだろ」


 ふたり共困惑している。

 俺はトグルの方を見ると、意図を理解してくれたらしく、


「そうだ、タクトの言う通りにした方がいいぞ」

「師匠が言うなら、分かりました!」


 ふたりが声を揃えて答えた。


 昼休みの時間なので、このまま皆に事情を説明しに行く。

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