第147話 反対派!

 スラムの洞窟で、コボルト達が話をしていた。

 俺とゾリアスが突然現れて驚いた様子だ。


「結論は出たか?」


 問いに対して、ひとりのコボルトが小さな声で喋る。


「僕達はどこにも行く所がない。 どこに行ってもバカにされる」

「バカにされなければ、どこでも良いという事か?」

「……うん。 すぐ殴られたり蹴られたりされるの嫌」


 奴隷商人から、余程の虐待を受けていたのか!


「得意な事は無いのか?」

「嗅覚が良い事と地面を掘る事。 でも役に立たないと言われた」

「何を言っているんだ? 嗅覚が良いことは凄いことだぞ! それに地面を掘るなんて、畑仕事には重宝されるぞ!」

「そうなのか?」

「あぁ、俺が保証する!」

「こんな事言ってくれた人族初めて!」


 コボルト達が、やっと笑顔になった。

 それぞれがダック、コーギ、ルドックと名前を教えてくれた。


 俺の紹介する村で、少し暮らしてみるかと提案すると聞き入れてくれた。

 ゾリアスを残して、もう一度ゴンド村に行く。


 村長や村人に事情を話して、少しばかりの金を生活費として渡した。

 村長達は断るが、何人も預かってもらうのに無償と言うのはダメだと言う。


 コボルト達は、掘るのが得意だと言うので畑仕事でも手伝って貰う事を伝える。


 心配はしていないが、仲良く暮らしてほしいと言う要望も付け加える。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その夜にスラムで、ゾリアスより俺の提案の説明があった。

 俺は、【隠密】で隠れてその様子を見ている。


 勿論、ゾリアス達も知らない。


 やはり、反対意見が出る。

 ゾリアスの予想通り、反対派は七人だった。

 その内、怪我人が三人含まれている。


 ゾリアスを慕う者からは反対する者はいない。

 俺との信頼関係も少なからず構築出来たからだろう。


 数人であれば、四葉商会で雇ってもいいと思っている。

 ステータス閲覧するのは、少し気が引けるが……


 反対派の多くは、ゾリアスが統括者なのを良く思っていない集団で、元々が弱者から金品を強奪するような奴等だ。

 欲の皮が突っ張ているようで「出て行って欲しいなら金をだせ!」と要求していた。


 ……元々が、不法行為なのに何を言っているんだ?


 どうせ、払っても出ていくつもりは無く、何度も金を要求するのは間違いない。

 事前に問題が分かっていれば、対策は可能だ。

 コイツ等は、どうにでもなる。


 それよりも、怪我人をどうするかだ。


 身体は勿論だが、心に傷を負っている者も居る。

 こちらは、個々に抱えている問題が異なる為、簡単には解決しないだろう。


「御前達は、俺が責任を持って生活出来るようにするから、信じて欲しい」


 ゾリアスは、怪我人達に向かって話す。

 続けて、反対派に対して、


「御前達は、金を幾ら要求するつもりなんだ?」


 ゾリアスの質問に対して、反対派のリーダーらしき男は、


「そりゃあ、出て行く訳だから困らないだけの金は必要だな!」


 敢えて金額を言うつもりは無いみたいだ。


「……分かった。 俺達が出て行った後、好きに交渉してくれ」

「あぁ、そうさせてもらう!」

「それと、忠告するが見た目で判断すると、酷い目に合うからな」

「臆病なお前と一緒にするな!」

「……ハーセミッツ! 俺は、忠告はしたからな」


 ゾリアスとしては、交渉は反対派で勝手にやってくれってことか!

 反対派リーダーの名は、ハーセミッツか。


 怪我人達は、ゾリアスを信用して一緒に着いていく事になった。

 ハーセミッツ達は、その場を立ち去ろうとしたので、おれは【隠密】のまま着いていく。


「これで、ここは俺達の物だな!」


 嬉しそうにハーセミッツが話すと、他の三人も口々にゾリアス批判をする。


「そうですね! 腰抜けのゾリアスには荷が重すぎたんですよ!」

「これで、街の外れで隠れて商人を襲わなくても、よくなったぜ!」


 ……こいつ等、そんな事をしていたのか!


 街の外で、捨てられていたというウーニラ達のような奴隷は、本当に捨てられたのか?

 コイツ等に奴隷商人が襲われた為、奴隷契約が解除されたんじゃないのか?

 それとも、捨てた後にコイツ達に襲われたのかも知れないな。


「それに、街中での盗みやらも解禁になるしな! 昔の様な自由気ままな生活に戻れるわけだ!」


 四人が楽しそうに大笑いをしながら話している。


 コイツ等を野放しにしても被害が大きくなるだけだな。

 最後に、襲われる側を体験してもらうとするか!



 引き返して、何事も無かったかのようにゾリアスの所に行く。


「よっ!」


 軽く挨拶をする。


「悪いな、やはり反対意見が出た。 俺ではどうしようも無いかも知れん」


 申し訳なさそうに返してきた。


「気にするな。 それよりゾリアス達はどうするんだ?」


 ゾリアス達は、冒険者登録をしてゴンド村に移住すると言った。

 子供や怪我人達も連れて全てだ。


 受け入れてもらえるかや、仕事等の不安もある。


「子供も含めて、出て行くという判断をした奴は全員集めてくれ」

「どうしてだ?」

「個人の決意を確認したい。 他の選択肢を希望する者もいるかもしれない」


 ゾリアスは、子供達を呼んで説明をした。

 やはり出ていく事への不安や、元奴隷の子供もいる様で外の世界が怖い子もいる。

 大人も含めて、個別に意見をじっくりと聞いた。

 敢えて、名前は聞かない事にした。

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