第148話 事情と最終決断!

 やはり、不安要素は皆同じだった。

 前科があったり、元奴隷だった事を気にしている。


 個別に面談した際に、やりたい事や得意な事を聞いたりした。

 【鑑定眼】でステータス閲覧をしようとも思ったが、ゾリアスの『詮索は御法度』という言葉が頭を過ったので止めた。


 全員と個別に話をして、気になった者が何人か居た。


 鬼人族の子供二人は兄弟らしく、姉も一緒にスラムで暮らしていた。

 それぞれが、冒険者になりたいと言っていた。

 理由を聞くと、『復讐』と即答した。

 詳しくは、今は聞かないが今度話す機会があれば教えてくれと言うと、分かったと回答した。


 冒険者希望であれば、冒険者ギルドの繋がりもあるので、この街に残った方が良いのか……。

 とりあえず、姉の方にも話を聞いてみる。


「弟達が、そんな事を……」

「俺は、理由までは聞いていないが姉という立場で、弟達をどうしたいかを聞きたい」


 姉は、『リベラ』と言い、弟達は『ザック』『タイラー』と名前を教えてくれた。


 復讐の相手は、旅の途中に両親を殺した六本腕の魔物と、それを指示していた人族だと言う。

 親は自分達を逃がす為に犠牲になり、護衛だったウルガーに連れられて逃げたと、涙を流しながら話した。


 名前も分らず、どのような種族かも分からない。

 身体的特徴以外では、特徴のある杖を持っていた事位しか手掛かりが無い。


 姉としては、弟達をそんな危険な目に合わせたくは無いが、聞くような子達ではない。

 心配なので出来れば、傍に居たい。

 ……やはり、リベラ達はジークに残った方が良い気がするな。


 リベラを帰して、ウルガーを呼んだが同じような話しか聞けなかった。

 せめて、特徴のある杖の形でも分れば良かったのだが……。


「そういえば!」


 ウルガーは何かを思い出したようだ。


「人族らしき奴が、ガルプとか魔王と話していた気がするぞ!」


 ガルプに魔王だと!

 ……面倒事になりそうだな。


 ウルガーを帰すと、怪我人を呼ぶ。


 一人目は、利き腕の右腕が動かない人間だ。

 時間が経過している為、【治癒】で治す事は出来ないが、薬で痛みを和らげる事は可能だ。

 どちらかと言えば心の傷が大きい為、身体的に治っている箇所も治ったと思っていないようだ。

 ……こればっかりは、俺でもどうしようも無い。

 考えを変えて、ゾリアスを信用して着いていくと言ってくれた。


 二人目は、左目にが刀傷があり左目が失明している虎人だ。

 【治癒】と【回復】をしようとしたが、本人の遺志により断られた。

 自分への戒めと言っていた。

 それ以上は聞けないし、聞こうとも思わなかった。

 ゾリアス達には感謝しているが、ここに居られなくなるのなら自分で別に場所を探すと、真剣な目で語った。

 何を言っても自分の信念を曲げない、自分をしっかり持っている人物だ。

 何故、このような人物がスラムに居るのかが、不思議だった。


 最後に、この集まりに参加していない兎人族の娘の所まで行く。

 子供とも大人とも言えない年頃に見えるが、ゾリアスは子供と判断しているようだ。

 右足の膝から下を失っている。

 顔左半分にも大きな怪我をしており、左耳も上半分が無い。

 腕などにも怪我の跡が多数ある。

 尻尾も切られたのか無い。

 ……服で隠れているが、身体にも無数の傷が有るのは推測出来る。

 ゾリアスから彼女は、元奴隷だと聞いていた。

 前領主の暇潰しに虐待を繰り返されて、ここに捨てられたそうだ。


 先日、【治癒】【回復】を掛けたが、時間が経ちすぎている為【治癒】をしても、治すことは出来なかった。

 俺に対しても人間族という事で、心を開いていないのは感じる。

 ここまで酷い仕打ちが出来るのかと思うと、同じ人族にとして怒りが込上げてくる。

 この状態だと、生きる希望が見いだせないだろうし、これからも誰かに依存して生活していく事になるのは間違いない。


「怖がらずに聞いてくれ、これから何をしたい?」


 暫く無言が続いた。

 話し始めるが舌も切られているようだ。

 俺に分かる様に、ゆっくりと一言一言喋る。


「む・かっしの…よに、く・ら…した・い」


 涙を流しながら、必死に喋る

 甘いと言われるかもしれないが、この娘をこのままにしていく事は俺には出来ない。

 今後、同じ場面になる度に、全員助けるのかも分からない。

 しかし今は、俺に出来る事があるなら、実行するだけだ。


「俺が、それを叶えてやる」


 ゾリアスを呼び、この娘を治す事を伝える。

 他の怪我人とで差別が出来てしまう事に対して、先に詫びておく。


「それは、問題無い。だけど、これだけの怪我を治すなんて、どんな奴でも無理だろう……」


 【アイテムボックス】から、『ドライアドの実』と水の入った瓶を出す。


「これを飲んでくれ」


 兎人の娘は少し考えてから、『ドライアドの実』と水を飲んだ。

 飲み終えた数秒後に、身体全体を緑色の光が包んだ。

 俺もゾリアスも一瞬、目を瞑る。

 目を開けると、先程とは違う兎人が座っていた。


 本人も何が起こったのか分かってい無い様子で、足を触ったり動かしたり耳を動かしたりしている。


「タクト、お前何したんだ?」


 目の前の出来事を、必死で理解しようとしているゾリアスが、俺に質問をする。


「ドライアドの実を飲ませた」

「……ドライアドの実だと! お前、それが幾らするか知っているのか」

「いや、知らん!」

「貴族に売れば、人生何もせずに三回は遊んで暮らせるだけの価値はあるんだぞ!」

「そうなのか? 貴重な実とは聞いていたが……まぁ、今俺が出来る事はこれ位しか無かったからな!」

「お前、これ位って……」


 ゾリアスが、兎人の娘に目を向けて、


「ユラ、タクトに礼を言え!」


 ユラと言われた兎人の娘は、小さな声で話す。


「……ありがとうございます」


 礼を言ってきたが、先程とは違い嬉しそうな顔はしていない。


「私には、払える金貨がありません。どうしたら……」

「あぁ、もしかして報酬の心配しているか?」

「……はい」

「俺の報酬は高いぞ」

「タクト!」


 ゾリアスが会話に入ってこようとしたが、手をゾリアスの方に出して遮るように、会話を続ける。


「俺への報酬は、これから楽しい人生を過ごすことだ」

「……えっ?」

「だから、せっかく怪我が治ったんだから、普通に楽しく生きて行けってことだよ」

「でも、それじゃあ……」

「気にするな! そうだな付け加えるのであれば今度、誰かが困っていたら出来る範囲で助けてやってくれ」


 ユラは納得出来ていないのか、頭の整理が出来ていないのか俯いたままだ。


「タクト、お前って奴は!」


 ゾリアスは、目を擦っている。


「お前、泣いているのか?」

「ゴミが入っただけだ! 俺が泣く訳ないだろうが!」

「はいはい」


 ゾリアスとユラには、『ドライアドの実』を使った事は秘密だと約束させた。


「ユラは一足先に俺が治療の為、連れて出たと言っておいてくれ」

「あぁ、分かった」

「ユラは、今晩は俺達の家に泊まってくれ。あっ、他に従業員も居るから気にするな!」

「……でも」

「この姿を、他の奴に見られる前に行くぞ! ゾリアス、明日また来る」

「おぉ!」


 ユラの手を掴み【転移】で、家まで移動する。

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