第146話 夢物語!
「タクト殿の御願いであれば、断る理由なぞありません」
「村長が、良くても村人の事もあるだろう?」
「いえいえ、タクト殿のおかげで魔族との交流も出来ておりますし、別にどうってことありません」
魔族との交流は、俺は知らないぞ!
ドラゴンや、ラミアの件も全く知らなかったしな。
「そうか、ありがとう。 村を一回りしてから帰るよ」
「そうですか、昨日今日とありがとうございます」
村長の家を出ると、子供達とハーピーの娘が遊んでいた。
会話を聞いていると、ハーピーの娘は『セフィー』と言うらしい。
深く関わられるの嫌かと思い、名前を聞いていなかったが、すんなり子供達共遊べるという事は、魔人としても人族に対して差別的なものが無いのだろうか?
「お前、本当に只者じゃなかったな!」
後ろから、ゾリアスが話しかけてきた。
「隠すつもりも無かったが、あえて話すつもりも無かったからな」
「そこは、別に気にしていない。 スラムでも余計な詮索は御法度だ」
「そういうものか?」
「そういうもんだ」
ゾリアスと村を歩いて回る。
昨日来たばかりだから、特に代わり映えはしない。
「しかし、ドラゴンに守られていて、魔族と交流がある村が存在しているとはな」
「面白いだろう」
「面白いというよりも、現実では考えられん。 王国騎士団の小隊でもこの村を攻略出来ないだろう」
「そうなのか! まぁ、なにより平和が一番だな」
「俺をここに連れてきた理由はなんだ?」
「なんでだ?」
「送るだけなら、俺を連れてくる必要はない」
「理由はふたつある。 送り届けたかの確認とこの村の事だ」
送り届けると言っても、言葉では証明する事が出来ない。
確実に証明するには、その場に立ち会ってもらうのが一番だ。
それに、ゾリアスにはこの村を、見て貰いたいと思っていた。
「話が出来ていなかったが、リロイにスラムを購入する話をした」
「スラムの購入だと?」
「あぁ、出来る限りスラムの住人の希望を聞いて対応はしたいと思っている」
「……それ本気で言っているのか?」
「あぁ、この村はついこの前まで、ゴブリンやオークの襲撃を受けていてな。 この村には元奴隷もいるが、皆分け隔てなく接してくれる。 ここであればスラムの子供達も人並みの生活が出来るかと考えている」
ゾリアスは黙り込んだ。
見方をかえれば、俺はスラムへの侵略者だ。
統括しているゾリアスにしてみれば、完全なる敵と考えられてもおかしくは無い。
「……子供は全部で十一人だ」
俺が依頼していた人数を話した。
子供十一人の内訳は人間族が四人で、虎人族がふたりに犬人族が三人、そして猫人族ひとりと兎人族ひとり。
乳児や幼児は居ない。
大人はゾリアスを含めて二三人。
人間族四人に、獅子人族四人と虎人族五人、犬人族三人に猫人族四人、それに鬼人の三人だ。
思っていたよりも少ない。
昨日、治療したのは全数に近い人数だ。
女性も数人いたが、ゾリアスの支配力が強いのか襲われてはいない。
「スラムを出ていく事に対する反対意見は出るだろう」
「それは間違いない。 反対する奴達は、怪我をしていたり身分を隠したい奴らだろうな」
「それは、犯罪者も含めてか?」
「あぁ、皆が本当の名を語っているとは言えないし、真実も分からない場所だからな」
「お前の意見としてはどうだ? 遠慮をしないで答えてほしい」
元気な奴はまだいいが、怪我をしている奴らはスラムを出ても仕事が無い。
子供にしても、親も居ない状態なので受け入れられるか不安がある。
抱えている問題が皆違うので、難しい。
「お前から見て、反対する奴はどれ位いる?」
「そうだな……子供抜きで考えれば、四分の一は反対するだろう」
「そうか。 もし反対派に金で解決する方法を提示したら、俺を軽蔑するか?」
「いや、受け取る受け取らないは自由だ」
「ありがとう」
「なんで、ここまでするんだ?」
「同じ街に居るのに格差があるのは、嫌だろ。 皆が笑って過ごせた方がいいだろ」
「たしかにな。 しかし所詮は夢だな!」
「そうだな。 けど行動せずに後悔するよりも、行動して失敗した方が俺は納得出来るからな」
「変わっているな」
「あぁ、変わっているさ! スラムの事も商売だから儲けを出さないとな」
真剣に話してみたが、ゾリアスは商売の話は本気にせずに、聞き流していた。
「スラムを出るとしたらゾリアスは、冒険者になるのか?」
体格からも鍛えているのは分かるので、冒険者になっても不思議ではない。
「冒険者か、憧れはあるが……」
冒険者になれない事情があるのか?
訳ありのようだが、深く聞く事はしない。
「俺的には、この村で警護でもしてくれると嬉しいんだがな」
「お前、本当の目的はそれだったんだろう!」
ゾリアスを見て、何も言わずに笑う。
アルに「帰る」と連絡をして、村人に挨拶を終えてからスラムに戻る。
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