第141話 やりたい事と自己犠牲!

「タクト殿、久しぶりですな!」


 久しぶりにゴンド村を訪れた。

 入口に、村長が俺に気付いて挨拶してくれた。


「その後、どんな感じだ?」


 村の様子について、聞いてみる。


「はい、村人皆が生き生きしております。 ドラゴン殿達とも仲良くしてます」

「そうか、困った事は無いか?」

「まぁ、今に始まった事では無いですが、若者が少ない事による労働力不足ですかね。 こればっかりは何とも……」


 確かにそうだ。

 ゴブリンやオークに略奪や殺戮を繰り返されて、若者は随分と減ったと聞いていた。


「村長は、子供や獣人が村に来ても受け入れるつもりはあるのか?」

「そうですね、タクト殿の判断であれば考える余地もないですぞ!」

「いやいや、そう言う事じゃなくてだな……」


 移民者を受け入れるという事は、それだけ問題が起きる事が大きくなる。

 特に先住者と移民者とでの問題は、必ず起きる。


 「……その辺は、ロイドに聞いた方がいいな」


 確かに警護しているロイドが適任か。


 村を歩くと、皆が明るく挨拶をしてくれる。

 声を掛けてくれた村人に対して、困っている事を聞くがやはり労働力不足だ。

 今はドラゴンが守っていてくれるので、作物も魔物を気にせずに育てることが出来る為、余計にそう感じるのだろう。


「タクトさん! お久しぶりです!」


 遠くから、大声で駆け寄ってくる青年が居る。

 ロイドだ!


「おぉ、久しぶり! 調子はどうだ!」

「えぇ、ドラゴンたちのおかげでやることが無いですね!」


 苦笑いをしている。


「そうか、相談があるんだがいいか?」

「私で良ければ!」


 今後、人手不足の為移民を受け入れた場合、住民同士で問題が起こるかと思うがその際にどう考えるかを聞いてみた。


「そうですね、私では役に立てそうにないですね。 村の警護という事であれば、信頼と強さが求められますからね」

「強さが無いから、役に立てないという事か?」

「はい」


 よく分かっている。

 自分より弱い者に対して、強者は余程の事が無い限り従わないだろう。


「その場合の対策は、どう考える?」


 続けて聞いてみた。


「そうですね……移民の方と村で暮らしている村民との信頼が出来るまでは、私等と一緒に行動していくのが良いですかね」


 俺と同じ答えだ。


「ロイドは、その人物に警護を任せても良いのか?」

「はい。 村の中で、該当者が居なかったので、私がやっていただけですので。 その時は警護でなく農業でもやりますよ」


 ロイドは控えめで、自分というものをよく分かっているようだ。


「本音は、早く辞めたいんですよね」


 遠くを見ながら呟いた。

 ロイドも村の為と思い引き受けていたが、やりたい事があったのだろうか?


「フランのように夢とか、やってみたい事は無いのか?」

「そうですね……」


 突然、自分のやりたい事と言われても思いつかないのかも知れないな。


「『情報士』や『料理人』とか興味ありますね!」


 ……情報士だと!

 フランと同じじゃないか?


「なんで、情報士なんだ?」

「特には無いんですが、子供のころからフランが絵を書いていた影響ですかね。 ちょっと待っててもらってもいいですか?」

「あぁ、別にいいぞ!」


 ロイドは立ち上がり、自宅の方へ走っていく。



 数分後、ロイドが手に何かを持って帰って来た。


「これ見て貰えますか」


 手渡された紙には、料理の絵にレシピらしきものが書かれていた。


「料理は得意なのか?」

「得意ではありませんが、好きですね。 大衆食堂の様な場所で、私の料理で皆が喜んでくれると嬉しいです」


 やりたい事を我慢して、村の為に尽くしていたロイドに対して、手助けしたくなった。


「情報士であれば、新しい料理を知る機会がありますし、料理人であれば料理が仕事に出来ればとも考えています」

「そうか、警護の後釜を見つけたら、ジークに来るか? 希望に添えるような所を探しておくぞ!」

「そうですね、お願いします。 フランは元気ですか?」

「フランとは、連絡取ってないのか?」

「はい、連絡は取りたいんですが、生活がままならぬ状況だったらと思うと……」


 そうか、ロイドはフランの現状を知らないのか。


「フランなら大丈夫だぞ!」


 ロイドにフランの現状を説明した。

 俺の所で、カメラを使って働いている事や、マリー達と同じ家で共同生活している事。

 フランの夢が情報士だった事など近況を話した。


「そうですか、フランも頑張っているんですね!」

「あぁ、ロイドも夢を叶えたいなら相談に乗るからな!」

「ありがとうございます」


 ロイドは、新しい目標が出来たようだ。

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