1章

第1話 無職確定!

 なんでこんな事に……。


 目の前には、ホーンラビットが攻撃しようと構えている。

 初モンスターは、スライムと相場が決まっているだろうに……。

 転移した瞬間に「森の中か」と思った次の瞬間に、モンスターと目が合うって、どんな嫌がらせだ!


 転移の感動を味わう事無く、いきなり戦闘って……。

 しかも、戦闘になって気が付いたけど、武器が無い。

 装備も冒険者の初期装備ではなく、一般平民の初期装備だ。

 各装備に、四葉のクローバーの刺繍が施してある。

 あの、アホ女神め……。

 確認しなかった俺も悪かったが……。

 一般平民が森の中に放り出されて、生きて戻れる確率は、何パーセントくらいなのだろうか?


 しかし、どうしたものか……。

 戦闘になれば、現状の戦闘力では間違いなく負ける。

 転移して五分で死ぬのだけは絶対に避けたい。

 とりあえず、知能が低そうなので【言語解読】が正常に機能しているかの確認と【念話】を使ってみる。


(おい!)


 ホーンラビットが周囲を見回し始めた。


(キョロキョロするな! 見えないみたいだが、そいつは俺の獲物だ。横取りするなら、先にお前から始末するぞ!)


 ホーンラビットは、見えない敵に怯え始め逃げ出した。


 ……助かった。


 とりあえずあのアホ女神に連絡だ!


(はいはい)

(おい、どういう事だ!)

(えっ、何が?)


 こいつ、何も分かって無いのか?


(転移したら、いきなり目の前にモンスターが居たぞ。危うく死ぬところだったわ! しかも装備が一般平民って、どうやって戦闘させるつもりだったんだ!)

(えっ、嘘! ちょっと待って!)


 ……何やらガサガサと音がしている。


(ゴメン、装備を間違えちゃった。転移先は、誤差の範囲という事にしておいて! テヘッ)


 テヘッってなんだ! 可愛くすれば許して貰えると思っているのか。

 余計にイラッとする。


(誤差の範囲って、どれ位違ってたんだ?)

(え〜っとね、大体一〇〇キロくらいかな)

(はっ、それ誤差じゃなくて間違いだろう! 元々は何処に転移させるつもりだったんだ!)

(本当は、ジークって中規模都市の外れにある森の予定だったんだよね?)


 今の説明だと、そこまで一〇〇キロ近くあるって事だな。


(あっ、ゴメン。今から打合せだから切るね。じゃあ、頑張ってね!)


 勝手に切りやがった。

 転移して最初に殺意を覚えたのが、これから信仰を広める女神とは……。

 こんな奴に、転移前に少しの間でも敬語を使っていたかと思うと自分自身に腹が立つ!

 とりあえず悲観しても仕方ない。

 装備の件もあったので再度ステータスを確認すると、気になる箇所があった。

 【全知全能】に問いかけてみる。


(職業が無職なんだが、職に就くにはどうしたら良い?)

(村や街等の職業所に行き、適正検査をすれば登録可能です。しかし、タクト様は適正が無い為、無職のままです)


 ……えっ! 俺ってずっと無職なの?


 とりあえず、アホ女神に聞いてみるか。

 打合せとか言っていたが、関係ない。


(もひもひ)


 明らかに何か食べている。


(おい、打合せはどうした!)

(ん! えっとね、上司の都合で時間変更になったんだよ)


 絶対嘘だ。

 しかし、今はそんな事よりこちらの確認の方が重要だ。


(無職から変更出来ないって本当か?)

(何言ってんの、無職のままなんてある訳無いじゃない。特別に私が適正確認してあげるよ!)


 そう言うと、突然体全体が発光して数秒で消えた。


(あれ? おかしいな! こんな筈じゃなかったんだけど……)


 数秒の無言の後、


(ゴメンネ! 転移のバグか何かで、タクトは職業に就けないみたい。テヘッ)

(はぁ?)

(でも大丈夫だよ。無職ってだけでスキルは使えるから、なんでも出来るので不便は無いと思うよ)


 いやいや、なにかの書類に職業欄あった際に、無職って大人としてダメでしょう……。


(直せないのか?)

(無理!)


 ……これからの人生、無職で過ごすのか。

 こちらでの生活のハードルが一気に高くなった気が気する。

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