02



 ハヤテがふんぞり返っていた宮殿の中で、俺、ワーキュレイ、アーリ、ムーニャオ姫の四人で今後の事について語り合っていた。


「えっと……俺が王にならないと不味いのか?」


 俺は王の器なんかじゃないと自覚しているから誰かに統治してもらおうと思っていた。


 だが、皆が俺こそが王に相応しいなどと主張し、そうする他ないといった気配になってしまっている。


「力がある者が王になるのがこの世界の習わしである」


 大賢者ワーキュレイ・シュトラバスにそう言われてしまい、俺は当惑しきった。


「……不味いな、それは」


 衛星兵器を撃ち落とした後、俺は上空から地上を見て、連なる山脈を越えた先にある、こちら側の世界の人々が知らないという世界に行ってみたいと思ってしまったのだ。


 王などになってしまっては、そんな俺の願望が許されるはずもなく、王としての仕事で忙殺されるに決まっている。


「ならば、ムーニャオ姫はどうだ? 元々統治していた人の娘なんだろう? それならば丸く収まりそうなものだ」


「異世界から来た方はピンとこない話になります。この世界では強い者こそが王になるべきと言う考えが根強く、滅ぼされた小国の者などは王になるのを歓迎はしません。しかも、自分の力で奪還したのではなく、他者に追随しただけと知られてしまっている以上、支持は得られません」


 ムーニャオ姫はもうチャリオンの再建を諦めているのか、そう言って遠回しに辞退した。


「……困った」


 俺は助けを求めるようにアーリを見やった。


 俺の視線を感じ取るなり、アーリは目をパチクリさせて、両手を前に出して、できないと言いたげにぶんぶんと横に振った。


「わ、私にだって……む、無理だ……」


「……ならば、隣接している王国とかあるだろうから、そこに統治を委託っていうのはどうだ?」


 俺は意見を求めるようにワーキュレイに話を振った。


「無理なのである。隣接している国々は転生十二戦士によって滅亡させられたり、併合されたりで、魔王軍以外ほぼ残ってはいないのである。現存しているのは、転生十二戦士の支配する新しい国のみである」


「ん? 待てよ? 魔王軍以外だと?」


 俺はまたアーリに視線を送る。


「わ、私にはむ、無理だ。隷属の印がある者など、誰も王とは認めない。私には無理ったら無理」


「アーリがダメなら、他の魔王はどうなんだ? ここを統治できそうな奴とかいないか?」


「へ? 他の魔王か。アテがないわけではないが……」


「ワーキュレイ、魔王軍がここを統治するっていうのはどうだ? それなら、あまり文句は出ないんじゃないか?」


 そうは言ってみたものの、どう文句が出ないのかは俺にも分からない。


「転生戦士より魔王軍を支持する者は多いのである。悪くはないと言わざるを得ないのである」


 俺の口八丁が賛同されるとは、適当な事を言ってみるのもありなんだな。


 ワーキュレイのお墨付きをもらえたとならば、その方向性に舵を取るしか有るまい。


「アーリ、もう一度言うけど、この都市を任せられそうな奴はいないか?」


 悪意の入り交じった満面の笑みを向けると、アーリは困ったような顔をして、しばらく考え込んだ。


「第五魔王なら……第五魔王ジャケエ・タマトルスなら……適任と言えなくもないが……」


 その第五魔王に何かしらの問題があるのか、アーリは逡巡しているようではあった。


「推薦するのを躊躇うほどの何かがある……ということか?」


「そうじゃなくて……ジャケエがお前をどう思うかが気がかりなのだ」


 アーリが躊躇いを見せるほどの癖のある人物なのだろうか、その第五魔王ジャケエ・タマトルスとやらは。


「アーリ、頼む。その人物を呼び出してくれないか? 話してみて駄目そうだったら他を当たろう」


「……分からなくもなくはないが、この私が奴に来るよう要請すると思っているのか? ……分かった。すぐに連絡しよう」


 隷属の効果とはいえ、何も知らない人が今の言葉を聞いたら、支離滅裂な人間としか思わないだろう。


「アーリが連絡したら、何日後くらいに来ることになりそうなんだ?」


 交渉などを含めると数日間は時間を要すると思った方がいいか。


 引き受けてくれないようなら、他の候補を見つけないといけないだろうし、難しいところだな。


「奴の事だから数時間で来るんじゃないかな?」


「そんなに早く来られるのか?」


「奴の事だから押っ取り刀で駆けつけてくるだろうな」


「そっちの方が助かるから頼んだぞ、アーリ」


「あ、ああ」


 頼られたのが意外だったのか、アーリははにかんだように微笑んだ。


「……奴の事だ。今の私を見たら、男泣きをするのであろうな、きっと」


 はにかみから、俺にはその真意が読み取れない笑みをアーリが見せた。


 その笑みはどういう意味なので?


「ええと、第五魔王が来てから今度の事をもう一回話し合おう。これにて、一旦解散ということでどうだ?」


「構わないのである」


「はい、分かりました」


「よし、早速連絡を取ろう」


 こういう話は性に合わないものだな。


 今日は色々な事がありすぎて疲れたし、汗とか意外とかいたし風呂に入りたいな。


 汗を流した後は、食事を食べて、ビールでも飲んで……ってビールはさすがに飲めないか、俺は未成年なんだし。


 とりあえず、まずは風呂だ。


 ……いや、待てよ。


 この世界に風呂なんて風習は存在しているのか?


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