異世界救世の転生なんて御免蒙る。故に俺は異世界を見て回る。

01



 虐殺王ハヤテを討伐したというのに、城塞都市チャリオンの住民は俺に冷ややかな視線を送っていた。


 俺とハヤテとの戦いを転生十二戦士同士の権力争いにしか思っていないようで、圧政を引きかねない無法者がまた来た程度の認識しかされていなかったのだ。


『きゃー! サンタさんー! 素敵!』


 なんて黄色い声が上がるのを心のどこかで期待していたが、そんなものはほとんどなかった。


 皆無ではなかった事が救いで、あるにはあったのだ。


 宮殿内でハヤテがはべらせていた少女達全員から心から感謝されたのだ。


「……ありがとうございました」


 ハヤテに頭を踏みつけられた少女が道ばたに咲いていたであろう、タンポポに近い一輪の花を俺に感謝の気持ちとして渡してきた。


 俺とハヤテとのやりとりを直接見ていた事もあって、俺がどういう人物か理解してくれたのかもしれない。


 話をきいてみると、気にくわないことがあるとハヤテに全員殺されかねない状況であったそうだ。


 以前、それに近い事があったのだとも聞かされ、ハヤテを倒した事に意味があったのだと納得できた。


 その後、少女達は『お側に仕えたい』と申し出てきたりしたが、そこは一旦保留とした。


『主を鞍替えしたいだけかな?』


 そう思ったのだけど、実際のところはそうではなくて、ハヤテに召し上げられた時点で死を覚悟している上に、半数以上の少女が身寄りをなくしており、帰るべき場所がないからだと分かった。


 そんな少女達に俺は何ができるのだろうか?


 それも考える時間が欲しかったのだ。


「……そういえば」


 ハヤテを倒した後にハッとしたのだが、何故俺は城塞都市チャリオンを陥落させたのだろうかという疑問にぶち当たった。


 何か目的があって、アーリに案内してもらったはずである。


 だが、それが何であったのか咄嗟に思い出せなかった。


 いきなり砲撃を受けそうになったり、衛星兵器の攻撃を受けそうになったり、攻撃衛星を撃墜してみたり、ハヤテにお礼参りをしてみたり。


 そんな事をしている間に、俺は当初の目的をすっかり忘れてしまったようだ。


「さほど重要ではなかったんだろうな、思い出せないって事は」


 思い出そうとするのが億劫になった事もあったし、俺に余裕がなくなっていたので考えるのを止めた。


 ハヤテを倒したことでとある懸案事項ができてしまい、俺はその事に思案しなければならず、些細な事に思考を避けなくなっていたためでもあった。


 その懸案事項とはずばり『城塞都市チャリオンの統治』であった。


 王不在になった今、誰がこのチャリオンを統治するのかという切実な問題が発生してしまっていたのだ。




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