城塞都市チャリオン編 最終話
「……ッ!!」
勝ち誇ったかのように悦に入ったハヤテの表情が俺の右ストレートで見事に歪んだ。
俺の右の拳がハヤテの頬にめり込んだのと同時に、どこかで何かが爆発したような音がした。
爆音は絶対防壁の機材のものだと想像に難くはなかった。
その爆発に連動するかのように、河のせせらぎなどの映像が消失して、ただのコンクリートの壁に戻っていった。
どうやら絶対防壁のシステムと連動させていた映像であったようだ。
「うぅっ!?」
ハヤテは何が起こったのか把握できてはいなかった。
笑みが段々と拳で崩されていき、変顔になっていく様が滑稽で仕方がなかった。
俺の鉄拳に勢いに抗う事などできるはずもなく、ハヤテの身体は悪趣味な椅子と共に坂道を転がり落ちる石の様に地べたを転げ回り、壁に激突するもそこで止まらずに、壁をぶち破って外へと飛び出していった。
最後は椅子から放り出されて、ハヤテの身体が地面に叩き付けられた。
「糞が……糞が……糞が……糞が……」
さすがは、転生十二戦士といったところか。
ハヤテはよろよろと立ち上がって、数本歯が折れたのか血と共に吐き出した。
とはいうものの、直立不動が難しいほどのダメージを受けているのか、酔っ払いのようにあっちでふらふら、こっちでふらふらと足取りがおぼつかない。
「異世界に来て、いい気になっていたのか、お前は? ここだと罪に問われないからって虐殺とかしまくりやがって、恥を知れ、恥を」
俺はハヤテが体当たりをして開けた穴から外へと出て、そう言ってやった。
「ふ、ふざけんなよ、糞が……」
立っているのもやっとといった状態に見えるが、ハヤテにはまだ悪態を吐くだけの気力だけはあったようだ。
「俺は弱い者いじめが好きじゃないんだ。いや、違うな。嫌悪しているんだ。いや、これも違う」
「はぁ?」
「そうか。そうだよな。俺は助けを求めている人が目の前にいるのを見過ごすのが嫌なんだ。だから、俺は……」
コンマ数秒でハヤテの懐に飛び込み、がら空きになっている脇腹に拳をたたき込む。
その姿が元いた世界の俺の姿と重なるのだから。
「うっ?!」
ハヤテの身体が宙を舞うも、
「救いを求めている人のためにお前をぶっ飛ばす」
またハヤテの傍まで数秒で移動してかかと落としをお見舞いして地面へと戻ってやった。
ムーニャオ姫も、土下座していた少女も助けを求めていた。
その求めに応じて、俺はこの力を使う。
「僕に分かるように説明しろよ、ボケが!!!」
もう立つことさえ厳しいのにも関わらず、ハヤテはなおも立ち上がる。
「お前は自己満足のオナニー野郎だって言っているんだよ。そんなにリョナが好きのならば人様に迷惑をかけず、人の命をもてあそばずに、己の妄想の中でオナニーでもしていろ、このクズ野郎が」
そして、もう一度、右ストレートをハヤテの耳頬にぶち込んだのだが……。
その時、ハヤテは笑っていた。
確実に、俺をあざ笑っていた。
「……転送」
そして、ハヤテは俺を嘲笑したまま、こんな言葉を口にして忽然とその姿が消滅して、確実にヒットしていたのに空振りしたかのようになっていた。
「転送? どこかに転送したって事か? それも未来の技術なのか? チート能力並みにチートじゃねえか」
ハヤテを殴った感触がまだ残っている右手を漫然と見つめる。
無意識のうちに手加減でもしたのか、それとも、ハヤテの防御力が上だったのか、本気に近い攻撃だったのに討ち取る事ができなかった。
二百倍のはずだったのにな。
「これで……終わりか?」
俺の頭上に疑問符が浮かぶ。
俺に向けた、あの嘲笑は『僕は転送できるんだよ、馬鹿が』と言いたかっただけなのか?
「……違う。あの笑みは勝利をまだ諦めていない目だ」
考えろ、俺。
冷静に考えるんだ。
「転送装置があるということは、まだ何か兵器とかそう言ったシステムを隠し持っている可能性が高い……ということか。本気で殴っていたのに、死に至らしめることができなかったのは、防御システムによるものなのか? だとしたら……」
導き出された結論は、
「このチャリオンの中ではなく、外に大規模なシステムを隠している可能性が高いって事か」
外部にシステムがあるのだから、チャリオン内部にあった絶対防御システムが停止したとしても転送などの装置を使用する事が可能であったのではないのか。
そうだとするのならば、まだ衛星兵器みたいなものを温存している可能性さえありうる。
「ええと……」
ワーキュレイは衛星兵器が攻撃してくるのを事前に察知することができた。
ならば、俺もその程度の事ができてもおかしくはない。
俺は瞑目し、無の境地へと己を導こうと試みる。
集中すればするほどに雑音だとか人の気配だとかが俺の周りから消えていくように思えた。
「……」
俺が立っている真正面に何か禍々しい光が集まっているような気がしてならなかった。
チャリオンから数十キロは離れている場所に何かが収集されているようであった。
「……なんだ?」
ワーキュレイはテレパシーを飛ばして、俺に話しかけてきた。
それも俺ならばできるのではないか?
「とりあえず……」
光が集まりつつある方向に己の意識を飛ばす事をイメージする。
するとどうだろうか。
巨大な砲台を操作するハヤテの姿が見えるはずもないのに見えてきたではないか。
千里眼のような能力なのか、これは。
砲身はハヤテの数十倍はあって、ハヤテが小人にしか見えないほどの圧巻さを誇っていた。
衛星兵器並の、いや、もしかしたら、それ以上の破壊力のある兵器であるかもしれない。
俺のいた世界には存在していなかった奇々怪々な形状などをしており、何系の砲台なのかさえさっぱり分からない。
「このサテライトキャノンで焼き払ってやるよ! 僕を馬鹿にしたあの男を! 僕にはもう必要のないチャリオンを! 死ぬよ、雑魚子供が!」
勝利を確信したかのようなご満悦の様子のハヤテ。
サテライトキャノンだと!?
何かの物語で出て来たはずだが……マイクロウェーブを充填して高出力のビームを放つとか、そんな説明の兵器だった記憶がある。
俺の世界では架空兵器だったはずだけど、ハヤテの世界では、そんなものまで開発されているのか。
ハヤテのいた世界はどれだけ技術革新が行われていたんだ。
恐るべし……。
『エネルギー充填九十パーセント。後二分で百パーセントに達します』
システムからそんな音声が流れて来た。
サテライトキャノンがビームを発射するまで二分しかないのか。
いやいや、まだ二分あると考えるのが妥当か。
「真っ向勝負と行きましょうかね」
俺の必殺技とも言える目からのビーム。
それが何系のビームかは不明ではあるが、サテライトキャノンのビーム程度、押し返してくれるはずだ。
「まずはこの都市から出て、と……」
城壁の外に出て、サテライトキャノンと対決するしかない。
家々が連なるこの城塞都市内では走るよりも、家を飛び越えて城壁の外に出る方が時間が短縮できるし、ショートカットにもなるか。
瞳に光を充填しながら、家を飛び越え、屋根に降り立ち、そこからまた飛び、家と屋根を通路を飛びに飛び続け、ようやく城壁が見えてきた。
そこから速度を上げ、飛ぶ距離を広げ、城壁の手前まで行った。
最後は城壁を飛び越えて、城塞都市の外へと出る。
「……後何秒残っている?」
一分以上は経っているはずではあった。
残り数十秒か。
ならば、ここでサテライトキャノンのビームを迎撃しますかね。
ビーム同士を衝突させるとどうなるかは想像に付かないが、やれない事はないだろう。
そんな物語が昔から無数に存在しているんだからな。
俺はサテライトキャノンの砲口の真っ正面に位置に仁王立ちをし、ハヤテの様子を千里眼のようなもので探る。
「死ねよ、ゴミクズどもが!!!!!!!」
ハヤテがサテライトキャノンの発射ボタンを押したのか、砲口が光り輝き始める。
そんなハヤテに哀れみしか感じなかった。
そんなものにしか頼れないか。
俺みたいに俺自身のスペックを信じろよ!
「死ぬのはお前だ」
ハヤテにテレパシーでそんな言葉を投げつけ、俺もこの二分間で貯めた光を目から放つ。
千里眼によってもたらされた映像で、ほぼ同時にビームが発射されたのが確認できた。
目からビームを放つときは、この能力を使えば目が使えなくても、目標などを定めることができるのか。
「はぁぁぁ?」
俺の声を聞いてか、ハヤテが信じられないと言った顔立ちをして素っ頓狂な声を上げた。
次の瞬間、サテライトキャノンそのものと共にハヤテの身体が光に呑み込まれていった。
ビームを押し返す演出とかあるのかと思っていたが、そんなものは一切無かった。
俺のビームの圧倒的な勝利ではないか。
「呆気ない」
TNT爆弾でも使用されたかのような爆発がサテライトキャノンのあった場所から、いや、ハヤテのいた場所辺りから怒った。
天を焦がすような盛大な火柱が上がる。
それはまるでハヤテのために用意された炎の墓標のようであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます